優しい嘘か、残酷な真実か
こんにちは。あすぺるがーるです。
『「なるほど! 」とわかる マンガはじめての嘘の心理学』によると、嘘には4つの種類があるそうです。
① 防御の嘘
② 背伸びの嘘
③ 欺瞞の嘘
④ 擁護の嘘
今回は、「優しい嘘」こと④擁護の嘘について紹介し、それが本当に「優しい」のか考えてみました。
擁護の嘘とは?
擁護の嘘は、誰かをかばうための嘘です。
ある日、七歳のフランは怒って、お母さんにこう言いました。
「お母さんって、嘘つきよ。アンおばさんには、ご飯おいしかったって、日曜日に言ったのに、お父さんには、全然おいしくなかったって言ったじゃない」
「そうね。そうだったわね」。お母さんは答えました。
「でも、それはアンおばさんがせっかく作ってくれたご飯だったからなのよ。本当のことを言うよりも、アンおばさんの気持ちを考えることのほうが、大切だと思ったからよ」
(子どもが育つ魔法の言葉 (PHP文庫) p. 207)
このように、
「正直なことを言うより、嘘をついた方が相手に優しい」
そう判断した時、人は擁護の嘘をつきます。
擁護の嘘は悪いのか?
先ほど例に挙げた会話の後、フランは「じゃあ、嘘をついてもいいってこと?」とお母さんに尋ねました。
お母さんは、「正直に本当のことを言うのは、とても大切なことよ」と前置きしたうえで、こう続けました。
「でも、正直に本当のことを言うよりも、相手の気持ちを考えてものを言うほうが大事な時もあるのよ。そういうときは、嘘をついているってことにならないの。それは、本当のことではないけれど、嘘ではないのよ」
(上に同じ、p. 208)
このような背景を考えると、擁護の嘘自体を悪いものと断言しきることはできないでしょう。
その嘘は本当に「優しい」のか?
しかし、擁護の嘘は、ときにかえって相手を傷つけることがある。
私は、そう考えます。
胃がんの患者に、胃潰瘍と告げることは、よく聞く嘘のうちの一つです。
しかし、その胃がんが末期状態で、しかも全身に転移していて余命宣告までされていたとしたらどうでしょうか。
痛む全身。
日に日に増えていく薬の数。
さすがにこれが、胃潰瘍では済まないことぐらい分かることでしょう。
そして家族が、今までずっと自分の病気を胃潰瘍と偽っていたことが分かってしまったら…
自分は今まで、家族に嘘をつかれてきた。
自分は、家族に裏切られた。
そう思う人がいたって、おかしくないはずです。
残酷な真実の方が「優しい」ことも
だとしたら最初から、全身に転移した末期の胃がんで、余命宣告をされていることを正直に告げた方が「優しい」と私は思います。
確かに、がんという診断名は患者の心に大きくのしかかることでしょう。
しかし、がんという診断名にとらわれて絶望して生きるか、がんと告げられた事実を受け止めつつも幸せに生きるかは、患者の行動次第です。
そして後者の、「残酷な真実を受け止めつつ前向きに過ごす」ことは、残酷な真実を告げないと叶うことはありません。
そんなとき、「残酷な真実」を告げることが、「優しい嘘」をつくことより「優しい」と私は思います。
残酷でも、真実は真実
「優しい嘘」をついたところで、「残酷な真実」が「優しい真実」にすり替わることなどありません。
告げられた「残酷な真実」に対して相手がどう向き合うかは、告げられた相手の問題であって、告げる側の私たちが操作することはできません。
嘘で隠そうとしていた「残酷な真実」に、嘘をついていたという「残酷な真実」を上乗せするリスクを考えたら。
そして嘘で隠そうとしている真実が、残酷であればあるほど。
いつ崩れるか分からない「優しい嘘」に相手を乗せるより、「残酷な真実」を正直に告げて、相手に向き合わせることが真の優しさだと私は思います。