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小説&ブックレポート

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小説: 高校の文芸部に所属していた頃に書いた小説を「供養」しました。 ブックレポート: 読んだ本の紹介や書評、感想を書きます。
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2019年1月の記事一覧

【小説】美しい孔雀 4

【小説】美しい孔雀 4

 

しばらくすると、辺りの様子が一変した。

昨日馬車で通ったような、あの、煉瓦屋根でパステルカラーの壁の家々は消え、代わりに、板切れや布を継ぎ合わせたような粗末な家々が立ち並んでいた。

辺りには、鼻が曲がりそうなほどきつい悪臭が立ち込め、でこぼこでぬかるんだ狭い道の上を、時折、ネズミやゴキブリが走っていった。

それでも、軒前には洗濯物が並び、道には子どもたちが走り回って遊んでいた。

そし

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【小説】美しい孔雀 3

【小説】美しい孔雀 3

家の屋根で翼を休めながら、休み休み空を飛んでいくと、街の片隅に、今にも崩れそうな小さな家があった。

孔雀が扉が無くなった窓から中をのぞいてみると、頭にタオルを乗せ、ベッドに横たわる女性がいた。

女性の頬はやつれ、顔は熱で赤くなっていて、目は閉じていた。

だが、女性の布団は、ぼろきれを縫い合わせたような布一枚だけだった。

その後ろに、大きな写真が飾られていた。そこに写っていたのは、間違いなく

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【小説】美しい孔雀 2

【小説】美しい孔雀 2

そして、この日もまた、孔雀の召使いたちは、その「生ける国宝」を丁寧にカンガルー革製のお出かけ用バッグに入れ、王様の馬車の座席に乗せた。

季節は春。

南風が窓を開け放った馬車を通り抜け、かぐわしい花の香りを運んできた。

孔雀は、一体どんな美しい花が咲いているのだろうと思い、お出かけバッグの中から首を伸ばした。

するとそこには、美しい街並みが見えた。

おそろいの煉瓦屋根と、それぞれ異なったパ

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【小説】美しい孔雀 1

【小説】美しい孔雀 1

ある国に、一つの城があった。

その城は、王様の住んでいる城で、この国の中で一番大きく、立派なものだった。

真っ白な大理石に、金の装飾が施された柱、赤いビロードの敷かれた床、七色に輝くステンドグラス、細かい装飾が施され、素晴らしい絵が描かれた天井…。

しかし、この、他に類を見ないほど豪華で美しい城の中にも、それと同じぐらい、いや、それ以上に美しいものがある。

それは、王様の居室に住まう、一羽

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【小説】海の涙 12

【小説】海の涙 12

 

遥希と海音は、もちろん、あの浜辺へと足を運んだ。

二人は浜辺を走り、叫び、波や海の生き物たちと戯れて…。

そして夕方ごろ、またあの「君とみた海」を歌った。

海音の透き通った声と遥希のハイトーンボイス、そして波の音が、見事な調和をなしていた。 

歌い終わった後、遥希はぽつりとこう呟いた。

「この歌は、ぼくたちの歌だね」

「私もそう思う…」

夕日が空に紫と桃色のグラデーションを生み

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【小説】海の涙 11

【小説】海の涙 11

 「遥希君」

しばらくの沈黙ののち、住職が再び話し始めた。

「海音は、まだ君の中にいる」

「…えっ?」

「海音の魂は、今君の体の中に宿っている。つまり、海音も宿主である君の耳を通して、この話を聞いているってことだ」

「えーっ、まさか!?」

「ホントよ」

遥希の喉から、海音の声がした。

「…………!!!!」

「そう。今まで、遥希の邪魔にならないようにずーっと大人しくしてきたけど…。

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【小説】海の涙 10

【小説】海の涙 10

やがて中学生になると、海音の生活は一変した。

父親は生計を支えるため忙しく働くようになった。

そして、海音の話をほとんど聞かなくなってしまった。

海音の方も、思春期と言うこともあり、父親との心の溝は広がって行った。

そして高校になり、海音は陰湿ないじめを受けるようになった。

それでも父親は、海音の話にまともに取り合おうとしない。

海音は次第に、海で一日を過ごすようになった。

住職が、

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【小説】海の涙 9

【小説】海の涙 9

宝生寺でも、遥希はまだジタバタし続けていた。

「海音は悪霊じゃない!」

「あのー、お祓いお願いします」

年かさの男が、遥希の叫び声に負けじと大声で、住職の住む庫裏の奥に向かって叫んだ。

すると、袈裟をまとった住職が半ば急ぎ足で現れた。

「落ち着きなさい。この少年に悪霊は取り付いてない。ただ、この少年…」

「二宮遥希です」

住職の言葉で平静を取り戻した遥希が言った。

「遥希君から、話

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