【小説】美しい孔雀 3
家の屋根で翼を休めながら、休み休み空を飛んでいくと、街の片隅に、今にも崩れそうな小さな家があった。
孔雀が扉が無くなった窓から中をのぞいてみると、頭にタオルを乗せ、ベッドに横たわる女性がいた。
女性の頬はやつれ、顔は熱で赤くなっていて、目は閉じていた。
だが、女性の布団は、ぼろきれを縫い合わせたような布一枚だけだった。
その後ろに、大きな写真が飾られていた。そこに写っていたのは、間違いなくあの、王様を呼び止めた若い娘だった。
しばらくすると、足音がした。
そして、水を入れた桶を持って、その娘が現れた。
「ごめんね、こんなことになって…。マーシー」
「大丈夫。それより、早く元気になって。お母さん」
娘はそう言って、母親の傍らのいすに座った。
孔雀は窓枠の上に止まり、自分の飾り羽を全て抜いた。
それを嘴でくわえ、中に入って、それを娘に差し出した。
「あら、何かしら?」
娘がその羽を受け取ると、孔雀はこう言った。
「私は、昨日通った王様の馬車に乗っていた孔雀です。どうか、私のこの羽で、お母さんにお薬を買ってあげてください」
「まあ!」
娘は喜んだが、その後、山盛りの羽を見ながら少し考え込んでいた。
そして、羽を三枚だけ取って、残りは孔雀に差し出し、こう言った。
「孔雀さん、ありがとう。
でも、お月さまの方に、私よりも困った人がたくさんいるから、残りの羽はその人たちにあげて。
あなたの羽根は美しいから、三枚だけでもきっと高く売れるでしょう。
お母さんに薬を買う事ができれば、後は何もいらないから、心配しないで」
孔雀はその言葉に感動した。
こんなに苦しい状況でも、もっと苦しい人の事を思いやる事ができるなんて…。
あの貴族や資産家たちとは大違いだった。
「きっとそうします。どうか、お母さんが元気になりますように」
孔雀はそう言って、残りの飾り羽根を脚で持って娘の家を去った。
そして、西に傾いた月の方へ、力強く飛んでいった。
孔雀が、娘に言われた方へ飛んでいると、ふと背中に暖かいものを感じた。
孔雀が振り向いてみると、地平線の上に、朝日が顔を出していた。
「もうこんな時間か…」
孔雀は眠気を覚え、近くにあった家の屋根の上にとまった。
うとうとしていると、そよ風が吹いた。
そして、そのそよ風が、何やら異様な臭いを運んできた。
「もしかして、この臭いの先に…」
孔雀はそう思って、その異様な臭いに向かって飛び立った。
(つづく)
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