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秋の向日葵12

             立川 M 生桃

恵子が落ち込んだ日から数日経った頃に、また、美容師の見習いでホストクラブのバイトをしていた拓海くんからラインメールが着た。

『元気?  あれから返事が無いし、気になってね。良かったら。約束していた、秋の向日葵を見に行こう。僕は、どうしても10月10日の10時が良いんだけど。。。』そう書かれていた。

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私は、拓海くんへ連絡がしたくてもできなくて困っていた。

恵子の職場の村上くんが入院した事で、仕事がハードになってしまい。休みがどうなるか? わからなかったので、連絡をしていなかった。

恵子に、その事をラインメールで伝えると、恵子からすぐに返事が着た。

『所長に、どうしても10月10日を休みにしてもらったから、大丈夫よ。』と返事が返ってきた。

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私は、拓海くんにラインメールを送った。彼は、私の返事を待っていた。すぐに既読がついた。


そして、その日がきた。もう10月なのに、朝、晩は少し寒いけれど、昼間は半袖で十分だった。

恵子も私も約束した訳でもないのに、同じブランドの色違いの薄いカーディガンを着ていた。

恵子が  『やだっ。いつ買ったの?  その色いいなぁ。』と言った。 

私のカーディガンは、華やかなピンク色だった。

『恵子、また貴女と色違いのお揃いだね。その濃紺のカーディガンにしようか迷ったの、でも今回は元気の出るピンクにしてみたの』

恵子が笑った。私も笑ってしまった。一緒に買った訳でもないのに、同じ柄のワンピースを着ていたからだ。私達は、好みがほぼ一緒だった。

紺の透け感のある生地に立体的な花柄のワンピースは、とても華やかだった。お店で見た瞬間、一目で気に入ってしまって、着るなら今日にしようと決めていた。恵子も多分、そうなんだと思った。


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恵子は少しおとなし目の、品の良い感じに見えた。同じワンピースなのに、羽織る物の色で少し違って見えた。

しかし、恵子は私の方が派手に見えるので、『ピンク色のカーディガンの方にすれば良かった』と言った。いつもの事だけど、今日は少し違った。

恵子が初めて私に言った。『私は貴女の引き立て役じゃないの』それを聞いて少し驚いた。私がいつも思っていた事だったから。

そんな女子の会話をしていると純純の車が着た。

車から拓海くんが降りてきた。

『ごめんね。少し待った。』携帯を見るとまだ10時前だった。

恵子はニンマリして、何も言わず、助手席に乗ってしまった。

純純の横に座って、とても嬉しそうだった。

私は、拓海くんと一緒に後部座席に乗り込んだ。

拓海くんは、ダボダボの白のトレナーに黒のズボンだった。髪は前より長めに緩いパーマをかけて、ツーブロックで散髪したばかりの感じだった。

純純は、花柄の長袖のシャツにジーンズ姿だった。髪は前と変わっていなかった。


恵子が突然、仕事の話を始めた。純純も知っている村上くんの事だった。  村上くんが主任になって朝と夜と関係なく、家に帰らないで仕事をして、無理が祟って腸に穴が開いて手術し、1ヶ月ほど入院するらしいと言う話だった。

恵子は、同じ職場なのに、村上くんの情報を詳しく知らなかった。

私がこの前、疑問を感じて、あれこれ聞いたのだが、純純に説明した通りの話しかしなかった。

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純純が 『あの村上が?  そんなに熱心に仕事するようになったの? 役職が付くと人って変わるのかー。』と言った。

恵子が『そうなの。信じられないくらいよ。そんなに真面目でもなかったのに、熱心に仕事して、みんなのフォローもしてたみたい。だから、所長も少し仕事の負担が減ったと喜んでいたら、今回の入院で困っているの。仕事がまわらないって』

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そうこう話をしていると、あっという間に、ローストビーフのお店を過ぎてしまった。えっ。もうそろそろ着くのかな。今回はとても早く感じる。

確か、ローストビーフのお店から近い向日葵畑から、少し山に入った所だと拓海くんが言っていたからだ。

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そう思いながら、車から景色を眺めつつ、恵子と純純の会話を聞いていた。

恵子が『そう言えば、○○○会社が負債を抱え吸収合併して、その時に相当な数の解雇者でたの憶えてる? 』

拓海くんが『その話だけど、確か工場閉鎖と売却「希望退職者5,000人」を含む15,000人の人削減だよ。何年か前に新聞で出ていたやつでしょう? 』

純純が『確か所長も、そこの希望退職者だって聞いたことがる。』

恵子が『その元○○○会社の人がうちの特養で働いていて、その人が何の資格も持っていないけれど、学歴や仕事ぶりから、本部長がその人を気に入ってケアマネの様な仕事をさせて、その人も胃か腸に穴が開いて入院して手術したって聞いたの。何でも利用者の家族が毎日、毎日、同じ苦情を言ってくるらしい。それで、心も体もボロボロになったって』

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私が恐ろしい。そう思った途端に。。。。。。

恵子が『その人は、気持ちが弱いのよ。本部長に折角、気に入られたのにチャンスを逃したんだから』そう言った。

拓海くんが『その職場は、おかしいね。その人は、まだ経験も無く、資格もない。資格が無くてできる相談員だとしても、ケアマネが何人かいるはずだよね。なぜ?  その人、1人に嫌な仕事をさせるんだ。 ケアマネが何人かいたのなら、みんなで交互に、その難しい苦情を対処すべきだよ。その会社だと誰でもそうなる。』そう強い口調で言った。

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恵子が『うちの特養は、担当が決まっていたら、その人がするの。上の人達も嫌な苦情係はしたくない。手助けなんかしないんじゃないかな。所長なんか、いつもぼやいてるから。。。利用者の家族から訳のわからない事を言われて、こんな仕事は、耐えられない。いつでも辞めてやるって口癖の様に言ってる。』

山道をしばらく行くと、車1台が通れる程の狭い道になった。その道をしばらく行くと急に道が開けてきた。

それまではただの山道で、少し酔いそうだったのに。 道が開けるとそこには、割と大きな駐車場があった。

恵子は純純と話し込んでいて、道に酔っていなかった。

私は、この山道と村上くんの話に酔っていた。

4人で、秋の向日葵を見に行った。駐車場からしばらく歩くと、向日葵畑だった。秋の向日葵は、確かに秋色だった。

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恵子が『うわぁ~ 凄い。本当に秋色の向日葵~♪』とはしゃいでいた。

恵子が畑から少し離れた所に、ベンチを見つけた。恵子が『お弁当作ってくれば良かった。』そういった。すると拓海くんが『実は、弁当買って準備してるから』そう言って、とても良い笑顔だった。

純純と拓海くんが、お弁当とお茶を車に取りに行っている間に、私と恵子が秋色の向日葵の畑の中に入って、向日葵を1本切り取った。

ベンチに戻ってみると、純純と拓海くんがお弁当を手渡してくれた。

黒い高級な箱を空けると、そこには、私と恵子の好きな物が、沢山入っているお弁当だった。

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嬉しくなって、私は何も喋らず、無言で味わってしまった。

恵子は純純にまた『食べて~』と言って、半分しか食べていないようだった。

帰りの車の中で、また村上くんの話になった。恵子が『村上くんね。所長の話では、指定難病らしい。もう治らないんだって。。』

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純純が『それなら特養に、復帰できないのかな。。。。』

私『そんな事無いよ。そのうち復帰できるよ』

恵子『手術しても腸が腐ってるって、誰かが言ってた』

拓海『みんな、人事だから好きな事を言って噂するんだ。そのうち治ると信じたい。。。』

恵子『拓海くん、どうしたの?そんな、村上くんの事知らないのに。。。』

拓海『今日、みんなで会って秋の向日葵を見たのは、意味があるんだ。僕はね。僕も、その村上くんみたいなもんだからさ。。。純にもまだ、詳しく話せてないけど。なんか。。。聞いてて辛い』

恵子『ごめんなさい。そんなつもりじゃ無い。』

私『恵子なりに、村上くんの事を心配してるの。ただ表現が悪いのかも、でも心は悪くないから』

拓海『もういいよ。その話止めよう』

それから、何処にも寄らないで、コンビニの駐車場まで殆ど話もしないで帰った。

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それから、半年経った頃に、純純から恵子にラインメールがあった。

「拓海と連絡取れない。やばいのかも・・・。」

恵子とたまに、あれからどうなったのか?拓海くん、何の病気なのかと心配していた。

拓海くんは、しばらくして、ラインを退会していた。

私が、あの時の、秋の向日葵をドライフラワーにして、部屋に吊り下げていた。

ちょうど良い感じに種が取れた。それを恵子と私で、恵子の家の畑に植えた。

もう9月の終わりから10月にかけて、綺麗な花を咲かせていた。秋の向日葵。秋色の向日葵。

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拓海くんが、教えてくれた向日葵の花。そして、思い出の夏から秋へ。恵子と2人で思い出しては、もっと拓海くんと、深く親しくなれたら良かったのにと話した。

恵子が急に『私ね。特養を辞めようかと、半年ぐらい悩んでたの。もう限界、本当に体がキツいの。。。でも、やっぱり、もう少し介護の仕事頑張ってみる』そう言った。

私は黙って、うなずいた。

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それから、私と恵子で10月10日の10時に、コンビニの駐車場の、あの場所へ行った。秋色の向日葵の花を握りしめて。。。

『拓海くんに、もう1度会えますように。』そう心で、つぶやきながら・・・。


終わり

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