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設計士のピアフ(2)

               立川生桃

最初に設計士のピアフ。

「この3つの発明の中で一番優れた発明はどれでしょうか? そしてその理由を私に教えてください。」

迷わなかった。最初の回答の公式通りに遣り過ごそうと思った。兵士のイロニーとも飛行士のマリアとも以心伝心で分かり合えている。

ピアフは言った。

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「それはイロニーの『蜂球戦術』です。彼女は我々の身を守る為に我々の憎き敵スズメバチを捨て身の勇気によって初めて打ち負かしてくれました。」

イロニーは言った。

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「それはマリアの『8の字ダンス』です。彼女は我々を飢えから救う為にひたすらな献身の飛行によって初めて我々に飽食の時を与えてくれました。」

マリアは言った。

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「それはピアフの『六角形の蜂の巣』です。彼は我々を雨風の災害や病気から救いその知恵の結晶によりまだ見ぬ命さえこの巣に住まわしたのです。」


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女王蜂は仰る。
「よろしい。では最後です。」

三匹の蜜蜂は女王蜂に注目しその瞳を凝視した。

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「『分蜂』です。新しい独立国の女王蜂を選びます。雌蜂の『兵士のイロニー』。同じく雌蜂の『飛行士のマリア』。あなたがたの内どちらかを選びます。あなたがたの功績はそれに値します。」

雄のピアフの名はなかった。

「ただ、女王蜂は王国に一匹の存在なのです。さあ。イロニー。マリア。二匹にうかがいます。あなたは自分と相手とどちらを選びますか。あなたがたの本意です。」

ピアフの心は静かだった。

「自分がふさわしいから選ぶのか自分がなりたいから選ぶのか、相手がふさわしいから選ぶのか、自分がなりたくないから選ぶのか、それは問いません。心は読めません。」

脚光を求める者はえてしてこのような時を『蚊帳の外』と呼ぶが、ピアフはまったくそのような者ではなかった。

「しかし、自分が自分を挙げる時は同時に覚悟もお持ちなさい。つまり立候補して選ばれなければ死刑に処します。その上で私に答えなさい。票が割れた時はピアフの票で決めます。」
        
『設計士のピアフ』は別段に慌てなかった。思った。

(声には出せぬが、女王様は何と愚かな宰相であろうか。そして残酷であることこの上ない。イロニーもマリアも本心では女王になりたかろう。ふさわしいか否かという以前にだ。だが、死にたくない。駆け引きが生じよう。)

ピアフは、普段から考えていることをあらためて駆り立てられただけだった。

(最初に答えるほうが問題だ。立候補せずに相手を選べば、相手は自ら立候補をしよう。それで女王が決まる。死刑もない。いや。二匹とも立候補せぬかも知れない。立候補せずとも私の一票で女王は決まり死の犠牲は出ぬ。)

明晰なピアフの脳裏がカラカラ回っていた。

(そうだ。二匹とも立候補はしていないのだから。だが。最初に答えるほうが自ら死をも覚悟して立候補すれば、後に答えるほうが悩む。彼女は女王になりたかろうともふさわしかろうとも立候補は済まい。)

冷静なピアフの脳裏がクルクル回っていた。

(二匹のいずれの命も犠牲にならずに済む選択肢はもうそれだけだからだ。あるはずもないが、それでもまさか後の彼女も立候補すれば私がイロニーかマリアを女王蜂に選び、どちらかを殺すことになる。片方を選ぶことが片方を殺すことになる。私が選ぶ根拠など何もない。フン。おぞましき女王蜂だ。)

女王蜂は仰る。

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「では。イロニーから答えなさい。」

イロニーは答えた。

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「わたしは女王蜂に立候補します。」

ピアフは驚いた。イロニーを見た。床に伏し頭を垂れている。

(『兵士のイロニー』。そんなにも女王蜂になりたいか……)

女王蜂は仰る。

「では。マリア。答えなさい。」

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マリアが答えた。

「あたしは女王蜂に立候補します。」

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(何と!)。ピアフは目を剥いた。見るとイロニーとマリアはまったくもって同じ姿勢である。

(死をも賭けて女王蜂になりたいのか……いや。殺してまでも権力の頂点に立ちたいか。『飛行士のマリア』。)

女王蜂は仰った。

「では。ピアフ。『兵士のイロ——」

「待って下さい!」

ピアフは思わず口走った。先が読めたのだ。焦ったのだ。

「馬鹿者っ!!」

近衛蜂の怒鳴り声は爆発的でありながら研ぎ澄まされて鋭利であった。

それでも。ピアフは勇気を奮った。

「女王様。私には仲間を殺せませぬ。」
   

                つづく




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