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すずめの戸締まりを観た感想(ネタバレあり)


今回金曜ロードショーですずめの戸締まりを視聴した。
公開当時に新海誠の集大成といった論評を見かけて多少なり気にはなっていたので今回はいい機会だった。

これで今までに自分が観た新海誠作品は「秒速5センチメートル」「君の名は」「天気の子」「すずめの戸締まり」の四作品となる。

個人的な評価としては
君の名は>秒速5センチメートル=雀の戸締まり>天気の子
という順になる。

今回は恋愛のみに焦点が当たっている「秒速5センチメートル」、これを除いた三作品を比較してみる。

「すずめの戸締まり」は全体的な評価では「君の名は」に劣るものの、すずめが過去の自身に語りかけるシーンは三作の中で一番好きだったかもしれない。幼いすずめが震災で亡くなった両親を探す様はとてもいじらしく、大きいすずめがその背中を押すように諭す様はとても情緒的で良いシーンだった。

三作品における周囲の迷惑に対する主人公のスタンスを比較すると

君の名は:隕石の被害からみんなを助ける(そもそも迷惑を掛けていない)
天気の子:大規模水害を起こしてでも好きな人を助ける
すずめの戸締まり:好きな人を助けるが大規模地震が起きてはマズいので自分が身代わりになる

これらの物語の構造の違いとして「君の名は」が好きな人を救う事とみんなを助ける事がイコールであるのに対し「天気の子」と「すずめの戸締まり」は天秤にかけられているという違いがある。

万人受けする作品として「君の名は」を制作し、「君の名は」のヒットを受けてより自由で挑戦的な作品として「天気の子」を制作。そしてその賛否を受けて調整されたのが「すずめの戸締まり」という流れなのだと推察する。

恋愛面に関しては「すずめの戸締まり」は他二作品が相思相愛の関係がはっきりしているのに対して男性側である草太の反応が薄いように思う。主人公である女性側のすずめは草太に対して一目惚れとも取れる反応から始まり閉じ師の事情含め積極的にアプローチしている。イスにされた草太に座ったり踏み台にしたりという「君の名は」の口噛み酒に続く性癖を感じさせるシーンまであり終盤には「草太さんのいない世界が私は怖いです!」と草太の祖父に泣きながら訴えたり、すずめの叔母の環に対し「好きな人の所(へ行く)!」と好意を明言している。それに対して草太は終始すずめの保護者として振る舞う場面が目立つ。閉じ師の事情にすずめを巻き込まないよう繰り返し帰宅を促し危険から遠ざけようとし、草太からすずめに対してはっきりアプローチする場面は思い浮かばない。最後にまた会いに来ると告げる位で話としては一貫してすずめが草太を追いかける形だ。大学生の男性と高校生の女性の恋愛である事から男性側からガツガツ行く事がためらわれたのか、新しく大人っぽい男性の表現に挑戦する事にしたのかは定かでは無いが他の二作品と比べて新鮮に映る。

作品の中で気になった点としては、サダイジンの登場する場面は表現が分かりづらく感じた。すずめと環が口論した末に、環が震災で両親を失ったすずめを引き取って育てた事を重荷だったと吐露した末に失神しサダイジンが登場してどうやら環が胸の内を吐露したのはサダイジンが原因だったらしいというシーンだ。新海監督によるとサダイジンはすずめと環の胸の内を見せ合う事で二人の問題を解決し、すずめを前に進めるための行動だったと説明しているようなのだがまず一見しただけではサダイジンが何をしたかったのか分からない。その上ダイジンの反応も分かりづらい。ダイジンはすずめと環の口論の中でサダイジンの気配を察知し作中一の怒りの表情を見せ、サダイジンが姿を現すと間髪入れずに飛び掛かる。元々仲が悪かった、あるいは意図はどうあれ環を介してすずめの心を傷つける行為に激怒したという事だろう。(このシーン以外では一切仲が悪い描写が無いので恐らく後者)しかしダイジンはサダイジンに簡単にあしらわれた末にあっさり大人しくなってしまう。更にはその後仲間になったサダイジンと車内で添い寝する始末なので、あの怒りはミスリードで実際にはダイジンとサダイジンでじゃれていたのか?と正直混乱した。

また、新海監督が日本と海外での反応の違いについて、日本人は地震の揺れで物が散乱する事を知っているのですずめの部屋が散らかっているシーンで笑いは起きなかったが、海外の人はすずめがだらしないのだと勘違いして笑いが起きたと語っているらしい。このシーンについても自分は海外の人達と同様にすずめがだらしないのだと思った。最初に学校に向かうため家を出る前の部屋の様子が映っていた気もするのでその点で自分の記憶力・観察力の問題である部分もあるかもしれないが一方で部屋が散乱するような揺れの描写があった覚えも無かった。地震大国に住む我々日本人からしても部屋が散乱する程の地震など大地震の震源地付近でも無い限りはそうそう無いと知っているはずだ。自分の記憶の限りではあの時の地震の描写は学校で震度3〜4程度のものがあった位で大地震には見えなかった。その証拠に授業か何かでバスケを行なっている生徒が揺れを気にせず試合を続行している描写があった。震度5以上の揺れであれば流石に心配になって気にせず続行とは中々いかないだろう。正直自分には描写が矛盾している様に映る。今作はすずめの両親の死因など2011年3月11日に起きた東日本大震災に関連した表現が用いられているので、もしかすると震災被害者に配慮して大規模な地震の具体的な描写を避けた結果として齟齬が生じたのかもしれない。

今作で一番気に入ったキャラクターは草太の友人である芹澤だ。多くの人が同じ感想だったらしくX(旧Twitter)では芹澤を賛美する声が多かった。公開当時もチャラ男が好きだという投稿を時折見かけた記憶がある。友人である草太を探す為に闇の深いすずめと環に挟まれる中、目立った愚痴も見せずに場を明るく取り持とうと努力しながらすずめ達を東北まで送り届けた。良いヤツである。

自分の見る限り芹澤に次いで人気らしいダイジンについては結局救われなかったという事で嘆く声と、すずめの言葉に一喜一憂する様がカワイイとの声が散見された。自分もそういった声に共感する一方で思ったのは草太を要石にした件については本当に邪魔だったからやったんだなあという事だ。最初から最後まで草太とは敵対関係で終わってしまった感があるのでもう少し草太との和解するシーンがあっても良かったかもしれない。

今作は単純なエンタメとして一番かは評価の分かれる所だろうが、「君の名は」「天気の子」という足跡に連なって作られたという事を実感する、新海誠作品の集大成という評判も納得の作品であった。


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