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クフ王の大ピラミッド3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦

世界七不思議の1つとして知られるクフ王の大ピラミッド。古代エジプトの建築技術の最高峰を象徴する、その圧倒的なスケールと緻密な設計は、数千年にわたり人々の心を捉え驚嘆させ続けてきました。しかし、その建造方法や内部構造には未解明の謎が多く残されており、先端技術を駆使した研究が日々行われています。

私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)は、実証的なアプローチに基づきクフ王の大ピラミッドを解明しようと取り組んでおり、今回は名古屋大学のエジプト考古学者でナショナルジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラーでもある河江肖剰博士と共に3Dスキャン調査を実施しました。

アケト・クフ

クフ王は古王国時代第4王朝を統治した王で、「クヌム・クフ(クヌム神に守護されたもの)」という、大地の神クヌムを冠した正式名を持っています。彼の治世についての具体的な記録は乏しいですが、大ピラミッドの建造を成し遂げたことから、エジプトの富と技術力を強力に支配した王であると推測されています。

クフ王像(エジプト考古学博物館)
Statuette of the sitting king Cheops of the 4th ancient Egyptian dynasty
Photo by Olaf Tausch via Wikimedia Commons (CC BY 3.0)

古代エジプトにおいて「アケト・クフ(クフの地平)」と呼ばれた大ピラミッドは、クフ王が眠る墓として約27年もの歳月をかけて建造されました。約2.5tの石材が200万個以上積み上がった大ピラミッドは、138.5mの高さを誇っており、約4500年の時を超えた現在でも圧倒的な存在感を放っています。また、特筆すべきは底部に部分的に残る石灰岩の化粧石で、建造当時には大ピラミッド全体が化粧石で覆われていたと言われています。砂や石が広がる景色の中、太陽の光を反射して白く輝くその姿は、神秘的な美しさを醸し出していたに違いありません。

大ピラミッドの下部には一部分化粧石が残っている

大ピラミッドの入り口

大ピラミッドには入り口とされるものが2つあり、観光客の見学には地上7mの高さにある盗掘用の穴が使用されています。しかし、本来の入り口はより高い位置にあるもので、ほとんど塞がっていますが一部切妻構造が見えています。

この切妻構造がクフ王のピラミッドの大きな特徴で、それまでピラミッドの重量を拡散するためには持ち送り式という方法が用いられていましたが、クフ王が初めて切妻構造を導入しました。その後の第4王朝や第5王朝のピラミッドは切妻構造を用いて建造されており、クフ王のピラミッドは、古代エジプトの建築技術に大きな変革をもたらしたと言えるでしょう。

正規の入り口(中央)と盗掘用に掘られた入り口(右下)

大ピラミッド内部の謎

大ピラミッドに関する未解明の謎は、建造方法だけではなく内部構造にも及び、地下室や女王の間など、これまでに発見された様々な空間の用途については不明のままとなっています。

王の間に続く「大回廊」もまた、謎の多い空間の一つです。大回廊は長さ約50m、高さ約9mの壮大な空間で、その壁面は高くなるに従って徐々に内側にせり出す「持ち送り構造」となっており、古代エジプト人の石工技術の高さが表れています。規則的に造られた壁の窪みや穴については、巨石を運搬するための装置が設置されたと推定されていますが、はっきりとした理由は分かっていません。

大回廊
壁面は持ち送り構造となっている

大ピラミッドの心臓部である「王の間」の壁面は、アスワンから運ばれた赤色花崗岩を研磨して造られました。黒く輝く部屋の中には王の棺が現存しており、荘厳な雰囲気を醸し出しています。この石棺は、階段ピラミッドにあるジョセル王の石棺のようなブロック状に重なったものとは異なり、一枚の花崗岩を削り出して造られた初めての石棺で、考古学的価値が非常に高いと言えるでしょう。さらに棺には、筒状のものを回しながら石を押し切った痕や、盗掘を防ぐために蓋を固定する穴が開いており、当時の石工技術を推定するための痕跡が残っています。

クフ王が眠ったとされる王の間
一枚の花崗岩から造られた石棺

なお、王の間に続く通路には盗掘者を防ぐための「石落とし装置」が設置されていましたが、違法な盗掘による強奪の影響か王の間からミイラや遺物は発見されておらず、クフ王の財宝があったのかは未だ謎のままとなっています。

重量拡散の間

王の間にかかる重みを拡散するために造られたとされる「重量拡散の間」。ここは5つのレイヤー状の部屋と切妻構造の最上部を持つ空間で、各所に見られるひび割れの修復の跡からは、失敗と挑戦を繰り返しながらこの空間を完成させたことが分かります。また重量拡散の間には、発見者や古代エジプト人によるグラフィティが多数残っています。

重量軽減の間(4F)
古代エジプト語で記されたピラミッド建造の労働者のチーム名
発見者であるネルソンの名前が残されている(3F)
労働者をまとめる書記が残した記録(4F)

切妻構造の最上部には、石材をどのように加工していたのかという痕跡が見られます。例えば、60t〜70tにもなる花崗岩の梁にはアスワンの石切場からブロックを切り出す際にできた凹凸があり、他の岩にはテコの原理を使用するための窪みが残されています。これは、巨大な石材を効率よく加工するために当時の人々が生み出した知恵なのです。

重量拡散の間の最上階は切妻構造となっている

さらに重量拡散の間の最上部には、大ピラミッドがクフ王の時代に造られたことを示す重要な証拠があります。それは、「クフ・セヘジュ・アペル(クフは輝く)」というヒエログリフで、クフ王の名前そのものではなく、労働者のグループ名を記したものです。当時の労働者たちはそれぞれ王の名前を冠したグループ名を持っており、例えばメンカウラーのピラミッドを建造した労働者グループは「メンカウラーの大酒飲みチーム」や「メンカウラーの友達チーム」という名が付けられたことが分かっています。これと同様に、労働者グループの名にクフ王の名前が使用されていることから、この大ピラミッドがクフ王のものであると結論付けられました。

カルトゥーシュの中にはクフの名が記されている

地下の間

重量拡散の間の遥か下、地下およそ30mの位置に、大ピラミッド内の空間で最初に造られたとされる「地下の間」が存在しています。この空間は岩盤をくり抜いて造られましたが、未完成のまま放棄されたため、まさにこれから石を切ろうとしたかのような凸凹状の跡も残ったままです。また、地下の間には複数の穴が掘られており、宗教的な目的で掘られたという説も提唱されていますが、現状地下の間の役割や穴を造った目的は分かっていません。

1910年撮影の地下の間
Subterran chamber of the Great Pyramid of Giza via Wikimedia Commons

ウェルシャフト

クフ王が埋葬されると、盗掘対策として王の間へ続く上昇通路が石栓で塞がれました。そのため、内部にいる作業員は大回廊の北端に掘られた「ウェルシャフト」という穴を通って下降通路まで行き、外に出ていたと推測されています。

ウェルシャフトは垂直になっているため3D計測は困難を極めましたが、スペシャリストたちの協力により内部調査に成功しました。現在はワールドスキャンプロジェクトによって取得された3Dスキャンデータを用いて解析が進められています。

大回廊(9)と上昇通路(6)の間から地下へと伸びるウェルシャフト(11)
S-N diagram schematic diagram of the Pyramid of Cheops
Photo by Flanker via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0)

世界を、未来を、好奇心を、身近に

私たちワールドスキャンプロジェクトが3Dスキャン調査を行う理由は、単にクフ王の大ピラミッドの姿を記録するためだけではなく、未来への架け橋を築くことにあります。この調査によって得られたデータは、時間や場所の制約を超えるアーカイブデータとして遺跡の姿を後世に残し、考古学研究の貴重な史料として役立つことでしょう。

また、最先端の技術を駆使したVRやメタバースを通じてアクセスが難しい場所を広く世界に公開することで、遺跡の保全活動や文化遺産の保護に対する関心を高め、支援を広げることを目指しています。

これからも世界中の遺跡の3Dスキャン調査を続け、人類共通の財産を未来へと繋げていきます。ご興味があればワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。

クフ王のピラミッドについてはこちらの動画もご覧ください。

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