階段ピラミッド3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦
階段ピラミッドは約4600年前に建てられた最古のピラミッドで、古代エジプトの建築技術の進化を象徴する重要な遺跡です。私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)は名古屋大学のエジプト考古学者でナショナルジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラーでもある河江肖剰博士と共に、階段ピラミッドの共同調査を行いました。
階段ピラミッドの複合体
階段ピラミッドは、第3王朝時代にジョセル王(別名ネチェリケト王)によって現在のカイロから南に約30km、ナイル川下流西岸のネクロポリスであるサッカラに建造されました。
階段ピラミッドの周囲には葬祭殿、神殿、中庭などの「ピラミッド複合体」が建造されており、その全域を高さ約10m、全長約1645mの巨大な周壁が囲っています。周壁には約1680枚もの青いファイアンス・タイルを嵌めるための規則的な凹みがあり、建造当時の鮮やかで荘厳な景色が想起されます。
さらに石灰岩を用いた列柱室も、階段ピラミッドの複合体において初めて造られた空間です。柱のデザインは古代エジプト神話における「原初の沼」に生い茂った植物がモチーフになっており、世界の始まりを想起させる空間として後世の建造物にも取り入れられました。
他にも、階段ピラミッドの北側の一角には「ペル=トゥト(彫像の家)」と呼ばれる、大きな石で密封された小部屋が造られました。「ペル=トゥト(彫像の家)」は死者の彫像を置くために設置された空間で、壁面に作られた覗き穴を覗くとジョセル王の彫像が静かに佇んでいる様子が見られ、とてもユニークです。彫像の眼差しの先には当時北極星があったと考えられ、王の魂が沈まない北極星へ登っていくことを表しています。
マスタバ墳墓からピラミッドへ
革新的な試みで築かれたジョセル王のピラミッド複合体ですが、本来は初期王朝時代の王墓と同じく、長方形のマスタバ墳墓で建造される予定でした。しかし、建築家のイムホテプによって6回もの拡張工事が行われ、マスタバ墳墓を積み上げた階段状のピラミッドへと姿を変えました。
このように古い建造物の上に新しく積み上げ、さらにその上に新しく積み上げるという繰り返しの行為は、古代エジプト人の死生観である死と再生を司っていると考えられています。また、拡張のために積まれた石は斜めになっており、内側に重量を集中させ外側への崩壊を防ぐという古代エジプトの建築技術の発展が見てとれます。
先駆的な挑戦はそれだけではなく、王墓を構成する素材を変えたことも新しい取り組みであり、階段ピラミッドが、現在まで残っている理由の一つです。当時、マスタバ墳墓は主に日干しレンガや木材で造られていましたが、王墓を永遠に残そうと考えたイムホテプは石材を用いて建設を試み、その結果後代まで続くピラミッドという形状が生まれたのです。イムホテプがいなければピラミッドは存在しなかったと考えると、古代エジプトにおいて大きな功績を残した者の一人と言えるでしょう。
階段ピラミッドの内部
増設を重ねた階段ピラミッドの内部は複雑な構造となっており、基礎となったマスタバ墳墓から埋葬室へと伸びる深さ28mの竪坑を中心に、通路や王族の墓、倉庫などが迷宮のように混在しています。
通路の一部には、死者の魂が供物を受け取るために来世との往来を行う「偽扉」が3枚描かれ、王の再生と復活を願うセド祭のレリーフも彫られていました。さらに偽扉の周りは原初の海ヌンを想起させるファイアンス・タイルで美しく装飾されていましたが、現在ピラミッド内部のタイルの大部分ははぎ取られ、メトロポリタン美術館など世界各地に置かれました。
埋葬室にある石棺は花崗岩のブロックを4段重ねて築かれ、高さは約3mと世界最大の規模を誇ります。さらに石棺上部は3.5tの花崗岩で塞がれており、盗掘者からジェセル王の眠りを守ろうとした古代エジプト人の強い意志が伝わってきます。
世界を、未来を、好奇心を、身近に
階段ピラミッドとその複合建造物は、王墓の在り方を改め歴史の転換点となる大きな影響を後世に与えた重要な遺跡ですが、現在は3Dスキャンによって保存された姿を元に、風化してしまった箇所の修復作業が進められています。
そして遺跡の修復作業において、ワールドスキャンプロジェクトは最新の3Dスキャン技術を用いて遺跡を詳細に記録し、修復の手かがりを残そうと取り組んでいます。デジタル技術を活用して遺跡の価値を再認識してもらい、保存する意識を高めることが私たちの目標であり、使命です。ご興味があればワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。
階段ピラミッドについてはこちらの動画もご覧ください。
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