⁂【大女神の館】⁂　～全宇宙で最大のオブジェ～≪第一部≫

 

 
全宇宙最大とは、如何にも誤謬 (ごびゅう) なき真実なり。
汝 (なれ) は巨大迷宮の森に囚われておりし候 。

465億光年の過去永劫からの膨張宇宙たる、事象の地平線までも
貫きぬ森をさまよい、十万億土を目指すべくを臥所 (ふしど) に
ようやく辿り着きしが、生涯で七番目の館 (カテドラル)。

神々が『大女神の館』と称しけるも
汝はついに、その重き大扉を押し開きて候 (そうろう)。
 
 

最高権威にありし、めくるめく極彩色の光の束が
茫漠たる館内の遥か高みより差し込めたり。　人智の及ばぬ所なれど
超新星爆発やビッグバンほどの割れし  “大薬玉” (くすだま) の盛大至極。

『ようこそ』、『ようこそ汝よ……』。　
太古より幾星霜も、手薬煉 (てぐすね) を引きしまま故の
館の主たちの、いとも神々しき声。

あらゆる花々の馥郁たる香気が、際限なく立ちのぼりぬ。
古今に比倫なき黄金期の栄華さながら
花と光の無限回廊が、はじめにありき。

恒河沙の千年の大蘇鉄が、にわかに神秘の花を咲かせ
阿僧祇の三千年の大優曇華(うどんげ)も
厖大なる百花繚乱の華麗世界に、たちまち名を連ねし。

 
天壌無窮の幾山河を渡りぬ緑の薫風が、さやさやと、ざわざわと
汝の渾身へ届けられたもう。
格別のなつかしさと神妙さに、汝、そそと手を差し伸ぶれば

そよ風、潮風、海風、浜風、明日香風、若葉風、春一番、朝東風、夕東風
彼岸西風、貝寄風、花信風、光風、薫風、時津風、少女風、清明風
吹花擘柳、磯松風、青嵐、東尋坊、山背、芋風、白南風、黒南風、筍流し
破帆風、炎飆、御祭風、荻風、金風、野分き、雁渡、木枯らし、鎌風
星の出入り、山颪、べっとう、ならい、玉風、北風、雪風、ブリザード
貿易風、偏西風…。

四季折々の諸風が、マゼラン星雲流 (マゼラニック・ストリーム) よろしく
一堂に大集結せんとする。

 
途方もなき ”雲づくし” の大々的オンパレードに
引き続き汝は逢着 (ほうちゃく) したり。

筋雲、鱗雲、薄雲、羊雲、朧雲、畝雲、霧雲、雨雲、錦雲、入道雲
豊畑雲、羽根雲、黄雲、彩雲、乳房雲、頭巾雲、ベール雲、アーチ雲
レンズ雲、毛状雲、鉤状雲、漏斗雲、滝雲、泡雲、八重棚雲、翼雲
ジェット雲、飛行機雲、襟巻雲、鉄床雲、はぐれ雲、真珠雲、夕焼雲…。

天翔けし雲、闊歩せる雲、お喋り雲、歌い踊りし雲…。　
神々をも道連れに、雲の世界では

大カーニバル、大音楽祭、大演劇祭、大舞踏会、大芸術祭、大円卓会議
大展覧会、大運動会、大晩餐会、大ファッションショー、大結婚式等々
盛り沢山につき、莫大イベントが勢ぞろいでありぬ。

雲々の縦横無尽さ、変幻自在さ、自由闊達さ
いずれも、雲としての必定 (ひつじょう) の命あらばこそ。

 
須(すべから)く相応に、千変万化の諸風や、”大迫力雲海” 等の出ずる
“巨大広間”さもありて、その数たるや
二億二千五百万冪数 (べきすう) に及ぶべし。

執心なかれども、とある一室より、聞き覚ゆ揺籃のごと
衣擦 (きぬず) れの大音響…。
超銀河に匹敵すべし各々巨大広間に於いて、久遠の時空を超え
脈々と演じられ続けてあらんずらんは、全宇宙秀逸の歴史的各種名場面。

 
138億年前の『宇宙開闢』 (量子宇宙→インフレーション→ビッグバン) に
起源を発し、宇宙の晴れ上がること、それより38万年を待ちて以降なり。

のちのちの、136億年前までの『暗黒時代』と
131億年前までの、『コズミックルネサンス』。
更には、『クエーサーの時代』や、加速度膨張の始まり。

斯くして銀河系・太陽系の成立を経てや
46億年前にとぞ、母なる地球が生まれ至りぬ。

 
地球では、40億年の長きに渡る『先カンブリア時代』ののち
カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀
新生代台紀更新世 (洪積世) において、ようよう人類の出現を見たらん。

 
さても人類は、旧・中・新の石器時代、青銅器時代、鉄器時代
並びに紀元前・紀元後の時代とも呼びぬ物質文明発展の歴史を重ねつつ
やがて来し最強ハルマゲドンに期せずして備えり。

運命の女神の見えざる糸に、いかで翻弄されしか？　
将又(はたまた)されまじか？
巨大広間の内なる、至る所の大舞台にて
重厚壮大たる歴史絵巻が繰り広げられておりぬ。

いっときの安堵も郷愁も、長きの渇望も
多くは大嵐の前兆でありし事を、打ち忘るるほどに。

 
忍び寄りぬダークマターに似て、いつ知れず
春の女神の鼻歌が森づたいに館へと谺(こだま)せん。

すると、汝の周囲に汝の身に
次第次第に纏 (まと) わりつきぬ幾許 (いくばく) もの謎の影。
得も言われぬ濃密の薫香ぞ。

ミューズの面々か？　群れなすエルフィンか？　あまたのニンフらか？
なじかは正体を知れじとも
生暖かく妖艶極まりなきとすれば、既に心騒がしき。

 
鼻歌が止みし時、衣擦れの大音響は掻き消え
影という影から、聖き至高の “御姿” が現れ出でし。

初なる羞恥に汝は抗えど、すぐさま悩殺と眩暈の
シュワルツシルト半径へと引きずられゆかん。

中枢神経伝達物質のいっさいぞ。
完膚なきまでに熱く激しく、官能の餌食となりぬ。

さらでだに、30万km毎秒もの七重螺旋の底知れぬ大渦を巻き込み
汝を恍惚奈落の大底へ叩き落としける。

 
※（第二部へ続く）

なお
２月４日に投稿した『宇宙より愛をこめて』が
本作品の前座であり
２月５日に投稿した『Endless』が
本作品のプロローグ＆エピローグを構成しております。

【関　連　 記　事】
🔷【宇宙より愛を込めて】｜建礼門　葵 (note.com)
🔷E N D L E S S｜建礼門　葵 (note.com)
🔷⁂【大女神の館】⁂　～全宇宙で最大のオブジェ～≪第一部≫｜建礼門　葵 (note.com)
🔷⁂【大女神の館】⁂　～全宇宙で最大のオブジェ～≪第二部≫｜建礼門　葵 (note.com)
🔷⁂【大女神の館】⁂　～全宇宙で最大のオブジェ～≪第三部≫｜建礼門　葵 (note.com)

♬無限に広がる大宇宙

♬チャイコフスキー作曲　ピアノ協奏曲第１番第１楽章