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ワールドライブラリー初のチリの絵本!新刊『ぴぅ!』

ワールドライブラリーは10月29日に、新刊2冊を発売いたしました。
そのうちの1冊、『ぴぅ!』は、スライド式仕掛け絵本で、色鮮やかな鳥たちのイラストが、なんとも可愛らしい、チリの絵本です。

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文/マリア・ホセ・フェラーダ
1977年、チリのテムコ生まれ。ジャーナリスト、作家。子ども向けの本を多く手がけ、作品はさまざまな国で出版されている。チリ言語アカデミー賞、オリウエラ市子どものための詩賞など受賞歴多数。チリ軍事政権下で連れ去られ行方不明になった子どもたちへ捧げた本『こどもたち』は、国際児童図書評議会(IBBY)チリ支部の優良作品(作家部門)に選出された。『いっぽんのせんとマヌエル』は、初めての邦訳本である。
絵/マグダレナ・ペレス
グラフィックデザイナー。チリカトリック大学出身。ノンフィクション絵本のイラスト、火星子どもたちのつぎなる国境)、数学者オルガ・オレイニクの伝記等、子どものたちのノンフ―レクション本のイラストに多く携わっている。
訳/星野由美
東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業。南米滞在を生かし、スペイン語圏の絵本の翻訳、紹介につとめている。訳書に『まぼろしのおはなし』『とびきりおか しないぬ』『いいこにして、マストドン!』『はらぺこライオン エルネスト』『わんわんスリッパ』(すべてワールドライブラリー)がある。
絵本紹介の個人サイト「ころりん ころらど」http://colorin-colorado.info/

『ぴぅ!』の詳細ページはこちら

今回は、そんな『ぴぅ!』が出版にいたるまでのお話を、少し書きたいと思います。


『ぴぅ!』との出会い

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この絵本に出会ったのが、2019年の春に行われたボローニャ児童書見本市(Bologna Children’s Book Fair)でした。まだコロナが流行る前で、自由に海外出張ができた頃です。
ワールドライブラリーは、現在33カ国の絵本を出版していますが、それでも、まだ出版できていない国の絵本がたくさんあります。その当時も、「どこか新しい国の絵本を見つけたい・・・」と、そんな想いであちこち周っていました。

ブックフェアでは、基本的には、お付き合いのある出版社さんとアポを取り、打ち合わせを行います。ですが、そのアポとアポの合間に、会場中を周って、新しい出版社や絵本を探す時間が勝負です。限られた時間の中で、できる限り多くのブースを周ります。

そんな中立ち寄った、南米の出版社が集まった小さなブースで、この絵本を見つけました。


一見大人っぽく見えたのですが、手に取ってページをめくってみると、愛らしい鳥たちのイラストが、大人っぽすぎずバランスが良く、独特のタッチや色彩で1ページ1ページ細かく描かれでおり、そして何よりこの魔法みたいな仕掛けに心惹かれてしまいました。
デザイン性が高い素敵な絵本は沢山あるのですが、アートブックのような、大人向けのものが多く、そんな中、『ぴぅ!』は子ども向けのポップさと、デザイン性の高さ両方を兼ね備えていて、「これは・・・!」と、すぐにブースの受付の方に話かけました。が、担当者不在とのことで、忘れず連絡先をメモし、ワクワクしながら帰国しました。

出版までの壁

帰国後、すぐに連絡し、出版に向けて交渉をはじめましたが、コスト面で条件が合わず、交渉は難航していました。
海外出版社との普段の連絡手段は主にメールですが、テキストでは伝わりづらいことや、時差があり中々話が進まないこともしばしば。
ブックフェアでは、海外の出版社の人たちと、直接顔を合わせて打ち合わせできる貴重な機会です。やはり直接会って話をしよう!と、翌年のブックフェアに向けてアポを取った矢先、訪れたのがコロナでした。世の中が急変し、会社もバタバタと対応に追われました。その年のボローニャ児童書見本市も中止となり(オンライン限定で開催)、『ぴぅ!』の話も一時中断に。

翻訳家 星野由美さんとの打ち合わせで

しかし、世の中が「新しい生活様式」にも慣れてきた頃、スペイン語翻訳家で、この『ぴぅ!』の翻訳も手掛けてくださった星野由美さんから、南米絵本のご紹介をいただく機会がありました。いくつか素敵な絵本をご紹介いただいたのですが、なんとそこには『ぴぅ!』の姿も!

この絵本シリーズは、シリーズを通していくつもの賞を受賞しており、同シリーズの『¡Puf!』は、世界最大の児童図書館である「ミュンヘン国際児童図書館」が刊行する、国際推薦児童図書目録(ホワイト・レイブンズ(The White Ravens))に選定されるなど、世界的にとても評価されている絵本シリーズです。沢山のスペイン語圏の児童書を見てきた星野さんから見ても、「出版しない理由がない!」と仰っていただくほど、素晴らしい絵本であると太鼓判を押していただいただき、より一層、出版への思いが強くなりました。


版元とも、オンラインミーティングや、メールでの連絡を重ねた結果、製造工場を紹介してもらえることになり、コスト面の課題もクリアできました。
ついに、2年半という時を経て『ぴぅ!』の出版にいたりました。ワールドライブラリー初のチリ絵本です!

チリは、沢山の有名な詩人を生み出してきた歴史があり、とても詩が盛んな国です。チリの児童書も、詩的で、美しい文章が特徴的なものが多いです。
『ぴぅ!』の、詩的で繊細な文章も、星野さんの手によって、その世界観を崩さず、素敵に翻訳していただきました。

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仕掛けもとても面白く、魔法のように絵が変わります。どんなしかけ絵本か、是非、動画でご覧ください!

「世界の絵本」を届けるということ

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実は、この『ぴぅ!』の版元の出版社は、チリの絵本作家パロマ・バルディビアさんと、モニカ・ボンバルさんが、2019年に立ち上げたばかりの出版社。『ぴぅ!』を見つけた2019年のボローニャ児童書見本市も、立ち上げてすぐの出展だったそうです。

イギリスやフランスなどの大手出版社は、ブックフェアでも、もちろん規模が大きいです。数が多い分、多種多様な絵本を見つけることができ、もちろん、素敵な絵本も沢山あります。
ですが、それだけではなく、小さな出版社の隠れた名作を見つけ出し、日本の子供たちに届けること、そして、より多くの国の絵本に触れ、世界中の価値観や文化を幅広く知ってもらうことも、私たちの役目だと思っています。

まだまだ不安な世の中ですが、いつかまた海外のブックフェアへ行き、素敵な絵本に出会えることを願っています。