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セブンジェネレーションズの理事会変革

ボード&ガバナンスについて学んでゆくインタビュー第6弾

 NPO法人セブン・ジェネレーションズの共同代表理事のお二人、野崎安澄さんとサウル こと桑原康平さんにお話を伺いました。

 団体の成り立ちの原点に立ち返って理事会の変革を進めている非常にインサイトの多いインタビューです!  理事会やガバナンスへの理解をみなで深めながら、この団体が、このミッションが、必要としている意思決定の仕方を考える。素晴らしい実践です。

~このシリーズについて~
 WITでは2016年からボード&ガバナンス分野の研修、コンサルティングなどを行っています。その中で、日本の事例をもっと学び蓄積していきたいね、という声が多く上がり、この記事シリーズを始めることにしました! 過去の記事は、本noteやこちらからどうぞ

※WITが意味するガバナンスとは・・・

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聴き手・文責:山本未生

安澄さん・サウルさんのプロフィール

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野崎 安澄( Azumi Nozaki )
1978年東京生まれ、愛知県在住。4人家族(夫・男子2人)+チワワ暮らし。ライター/家族を愛して世話する人/2018年より/NPO法人セブン・ジェネレーションズ理事/愛知アーバンパーマカルチャー発起人/育自の魔法ファシリテーター​
小・中・高とキリスト教系学校に通い、授業で学んだ南北問題、環境問題・政治に興味を持ちました。2001年立教大学史学科を卒業。『個をあるがままに生かす』という創業理念に共感して、リクルートマネジメントソリューションズ(株)に入社。人材育成・研修・人事コンサルティングアセスメントの営業をしていました。結婚を機に退職し、中国天津で2年ほど暮らした後、帰国。男子2人を出産しました。2015年末、初めてチェンジ・ザ・ドリームシンポジウムを受け、2016年のゲームチェンジャーインテンシブコースへ参加したことにより、人生が大きくシフトしました。1人1人がそのままで認められ、あるがままに生きられる社会。そんな未来の出現のために、自分のできる役割を果たしていきたいと思っています。

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サウル 桑原 康平( Kohei Saul Kuwahara )
1975年長崎県長崎市生まれ、東京都文京区在住、クリスチャン(聖公会信徒)
この数年は素直に暮らすことを軸に、地域での繋がり、市民の手による政治の実現、障害者支援やジェンダー/セクシュアリティのことに関わっています。
NPO法人セブン・ジェネレーションズ共同代表理事/一般社団法人カンパニア共同代表理事/トランジション・タウン文京立ち上げメンバー/一般社団法人働くしあわせプロジェクト(柿生の家 JINEN-DO)監事。

セブンジェネレーションズとは?

 「7世代後の未来の世代にいまよりもいい状態で地球を受け渡していきたい」という想いをこめて、名付けられたセブンジェネレーションズ。「持続可能で公正な未来を実現するために、目覚め続ける世界市民のコミュニティを育む」ことをミッションに、気候変動などをはじめ、よりよい社会づくりに向けてアクションを起こす人々を育てるシンポジウム、教育事業などを行っています。

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(写真:安澄さん(右)、サウルさん(中)ー2019年のWITクロスボーダー・ラーニングジャーニーにて)

理事候補者を募り、対話をはじめました。

Mio: いままさに、理事会の変革にとりくんでいるそうですが、どんなことをしているのですか?

安澄: 今年、理事の改選のタイミングで、やり方を変えたんです。選任の仕方もメンバーも大きく変えました。

 これまでは創設者である代表理事を含む創設メンバーがおり、彼らの推薦と声がけで理事が選ばれていました。私たちは、2年前に共同代表になったのですが、「何か違和感があるよね」ということで、今年から、活動に関わってくれているコミュニティから広く、理事を自薦他薦でよびかけることにしました。

 そうして集まった理事候補者で対話をはじめたんです。次の社員総会で改選決議がされるまでの数か月間の間、「そもそも理事って何? 正会員って何?」「私たちの言うコミュニティって何だろう?」という話からしました。

 時間はかかったけれど、やってよかった。

Mio: こちらがその対話で実際に使われたスライドから1枚。根本的な問いかけから始まっていて、これはすごいことです。時間もかかるし、とても勇気もいる取り組みでもあると思います。

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法人の起源をかんがえると、コミュニティのために法人がある。

Mio: なぜこの改革に至ったのか、その前提として、セブン・ジェネレーションズの事業や体制について教えてください。

サウル: セブン・ジェネレーションズの構成メンバーには、NPOの正会員(60名以上)、理事、賛同会員があり、正会員はオープンに募集してきました。さらにもっと広く、これまでのプログラムやシンポジウムへの参加者や共感して集まっている皆さんをコミュニティメンバーと呼んでいます。

 セブン・ジェネレーションズの団体の起こりとしては、チェンジ・ザ・ドリーム・シンポジウムに共感するコミュニティが先にあったところに、その目指すところの実現を推進していこうと、法人が立ち上がりました。

 ここで注意しないといけないのは、NPO法人セブン・ジェネレーションズは法人ですが、法人=コミュニティではない、ということです。チェンジ・ザ・ドリーム・シンポジウムなどをつうじて、セブンジェネレーションズのミッションに共感する皆さんが集まっています。そのコミュニティのために法人がある

Mio: なるほど、コミュニティメンバーの声を、法人の正会員が反映し、その声をさらに理事が反映する、ということですね。


いつのまにか主客逆転し、私たちが生み出したいものと違う構造になっていた。


サウル: ところが、もともとの起源には、コミュニティが先にあったとしても、法人が進んでいくと、いつのまにか主客逆転するんです。

 それは創設時には必要なことで、活動を形にしていかねばならないので、私たちの団体の場合は、理事中心で進めてきました。理事を選任するのも、事業を進めるのも理事でした。

 理事が各事業のリーダーも兼任している場合が多く、正会員やコミュニティからは、「それって理事が決めることでしょ」という発言がときどき出てくるようになりました。「理事が動かすんでしょう」と思われていたんです。

 そこに私は数年前に違和感を持ったんです。理事になる前は、自分にもこういう感覚はあったなと。「理事が決めて、ぼくたちは関わりがないと」。それが、自分が理事になって、こう言われる側になった。

 なんかしっくりこない、コミュニティがあって、やりたいことがあって始まったのに、いつのまにか事業を決めて進めていく人たちにすべて集約されていった。事業を進めるために、ピラミッド型で意思決定・運営するようになったが、形が人の意識も変えていくんですよね。事業をやっている人を支えよう、それに協力しようという、ピラミッド型の意識になってしまう。

 これ自体に良い悪いはないのですが、すると、コミュニティにいる私たちがやりたいことという原点を忘れてしまう。見えていいるものが変わるので、意識も逆転しちゃうんです。そして、みんなから聞こえる声が「理事としてどうしますか?それは理事の仕事ですよね」となっていく。

 あ、違和感の正体はこれだな、と。それを逆転するチャンスだと思いました。

 というわけで、理事が自分たちの力を削いでいき、「これって理事の権限では決められないことなんです、だから正会員やコミュニティメンバーに聞きますよ」と。すると、「理事が早く決めてくれたらそれでいいじゃない」と返されます。でも、「このことに関してはちょっと立ち止まって、ちゃんとみんなに聞いて進めましょう」というのを繰り返すようにしてきました。

 ぼくたちはどういうメンバーでできていて、どういう集まりなのか、そこから動き出す必要があるとおもって。理事が全部中心のところから、コミュニティがどういうコミュニティでありたいか、確認する時期にもどったということだと思います。

安澄: そもそもチェンジ・ザ・ドリーム・シンポジウムにしたって、ゲームチェンジャー・インテンシブにしたって、自分で決めて自分で世界を変えていこうと思う人たちを育てるプログラムであるはずなのに、コミュニティメンバーが(自分で決めるという)特権を渡してしまっている。理事が決めてそれに従うという構造が、私たちが生み出したいものと全然違っていたんだなと。それは最初は必要だったと思うんですけど。様々なプログラムが育ち、リソースも増えてきて、もう次のステージに来たということですね。

 もうひとつ、これまで理事は、各事業の進捗については担当者に任せて、あえて突っ込んだり、せっついたりしなかったんです。でも、この改革のなかで、「この事業は何のために必要なのか」という問いかけもしました

Mio: 正会員は集まってコミュニケーションするのは年1回ですか?

サウル: 公式なものは社員総会だけですが、特に今期はコミュニティ全体を変えようとしている時期なので、正会員を含むコミュニティメンバーと話す会を何度かもっています。

ミッションに近づいていくための、ガバナンスの輪

Mio: 日本の非営利団体では、創設理事が決めて動く(経営も執行も)ケースと、理事はいるだけで実際は運営陣が決めて動くケースが、多いと思います。そんな中で、セブンジェネレーションズの取り組みには、「決めると動くを分けることのメリット(デメリットもあります)」、「誰の声をもとに決めるのか」という点で、すごく考えさせられますね。

 NPOのガバナンスの構造をこんな感じであらわしてみました。

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 まず、緑と水色の円が重なりすぎて、ピンクの円たちと離れてしまう感覚があった、というのが、サウルさんたちの違和感だった。これを ①水色は、ピンク色との接続に意識を向けなおして、団体に反映すべき社会や正会員の声を積極的に聴こう、②水色は、緑色から一歩下がって、全体を俯瞰してみるようにしよう、としたのが今回の変革。

 経営と執行を分離する/しない、法人の所有者と経営者を分ける/分けないの話は、長くなってしまうので、別の機会にしますが、要は、セブンジェネレーションズのミッションをより体現・実現していくために、このそれぞれの円が役割を果たしながら、人々の声を形にしていくプロセスが、ガバナンスですね。


理事の役割の変化

安澄: 今までは、事業をメインに進める人と理事がイコールだった。だが、今回、あえて事業のリーダーを兼任しないことにしました。事業の現場からは一歩引いて、この法人をどうするか、コミュニティと法人をどうつなぐか、をみるのが理事です。

 理事ミーティングは、月2回 計3時間。その合間をぬって、正会員やコミュニティメンバーとのコミュニケーション、組織の内側を再編成・強化するための事務方とのミーティングなどを行っていて、合計月10時間弱くらいかけています。

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(写真:安澄さん。WITクロスボーダー・ラーニングジャーニー2019にて)

メンバーが入れ替わる「移行期間の経験値」を組織としてためる。

Mio: この変化について、皆さんの反応は?

安澄: コミュニティは数百名いますが、 その中から、アンケートや対話会で声をきいてもらえてうれしかった、という反応が多かったです。「今回をきっかけにセブンジェネレーションズやコミュニティのことを考えた」という声もありました。

サウル: 以前は、事業に関わる人=アクティブに関わってくれている人、という見え方でしたが、今は事業に関わるかどうかだけでなく、コミュニティとか組織としてどうするかに意識を向けてくれている人たちがこれだけいるんだなというのが見えてきてよかったな、と思います。さらに、これを機に、法人に関わる人も新しく入ってきてくれています。

 新しい理事たちとは、メンバーが変わったからこそ、基本的な前提や歴史を確認しあえています。新しい人が入ってくると、古い人と確認しあう時間ーー移行期間の存在 が大事ですよね。それがあって、チームができて動いていく。

 この移行期間を経験すると、いつものメンバーじゃない人とどう話をするかの経験値がたまっていくんです。これを繰り返すと、それが文化になってきて、組織が変わる時の ”ごろごろ感” が減ります。組織として厚みやグラデーションができます。新しく入ってくる人にとって、「内部の人 vs (新参者の)自分」という構図ではなく、入っていきやすくなる。

 なので、今から次の理事の改選についても考えています。


全く違う分野や専門性の人たちが理事に入ってくるといい。

Mio: 移行期間を考えると、早め早めにこういう人たちに入ってきてほしい、ということを考えうごくのがいいですよね。どういう人に新しく理事に入ってきてほしいというイメージはありますか?

サウル: 全く違う分野や専門性をもっている人たちは、良いと思います。WITのクロスボーダー・ラーニングジャーニーで出会った人たちのようなイメージです。同じNPOでも全然違う活動をしている人もいますし。同じ質感の人が固まりやすいと、得意不得意も偏りがちになります。それが、新しい要素が入ってくると、組織としての得意不得意も広がるし、自分の役割がもっとできるようになる

Mio: ありがとうございます。WITでは、異なる分野やセクターの人々を、非営利組織の理事などの候補者としてつなぐプログラムも今立上げ準備しているのですが、そういった出会いがこれから増えていくといいですよね! 

 本日は、貴重な団体の取り組みを共有していただき、ほんとうにありがとうございました!

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(写真:サウルさんと安澄さんが参加したWITクロスボーダー・ラーニングジャーニー2019年にて)


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