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ゲームの勝敗でかんしゃくを起こす子どもにできることは大人げない大人になること

「ずるい!! なんで勝てないの!?」

コントローラーを床に投げつけ
ソファの上で大暴れしながら
小学1年生の男の子は
目に涙を溜めながらそう言った

私は月に数日
友達の子どものお世話をしている
親の代わりに学童に迎えに行って
親が用意しておいた
夕食を温めて食べさせる

その後は一緒に遊びながら
友人が帰ってくるのを待っている
最初はおもちゃや
トランプで遊んでいたが
最近はニンテンドースイッチの
マリオパーティーという
ゲームにハマっている

その家にはゲームはあるものの
その子はほとんど遊んだことがないと言う
私の友人は元々
ゲームはあまりやらないし
友人のパートナーつまり
子どもの父親がゲーム好きだが
「すぐに怒るから一緒にゲームはしない」
と子どもに言っていたそうだ

そこへやってきた
ゲームOKの大人に
彼は毎回
「ご飯食べたらゲームしよう!」と
目を輝かせているのだ。

最初の頃は
彼がゲームに勝てるように
わざと負けてあげた

それが大人な対応だと思っていた

ところがしばらくすると
勝った時に
「よっわwww」
「はい〜僕の勝ち〜!」
「ヘッタクソだな〜」と
悪態をつくようになった。

忖度してやっているのになんだその態度は!

「そんな言い方しないでよ。
 傷つくし、イライラする」
「だってホントのことじゃん」

はぁ? これは忖度した私がいけなかった
次のゲームで大人げなくボコボコに圧勝する

すると
「ずるい!! なんで勝てないの!?」
と大泣きした

「よっわwww」
言われたセリフを
そのままその子に返すと
顔を真っ赤にしてさらに怒った。

「大人のくせになんで
 そんなこと言うんだよ!!!」
「じゃあ子どもなら言っていいの?
 私も同じこと君に言われたんだけど?」
「ムカつく!」
「私もイライラするから言わないでって
 言ったらホントのことじゃんって言われた」
「〜〜〜!!!!!」
言葉にならない怒りで暴れまくる男の子。
大人げなく言い返す私。

その日のゲームはそこまでになった。

次に会った時
前回は大人げない対応をしてしまったなと
反省しつつも
「今日もゲームしよう」と言うので
「手加減しないよ?」と全力でゲームをする

そして負けるたびにかんしゃくを起こす彼。

めんどくさいな〜
幼児教育とか保育とか大人とか関係ない
かんしゃくを起こす子に対応すると
エネルギーが消費される

泣き声を聞くのも疲れるし
声をかけても倍になって返ってくるし
だからといって「落ち着くまで離れるね」
と言うと追いかけてきて「無視するな」と言う

ご機嫌取りをするのも違う気がする
だって彼は2、3歳のイヤイヤ期の子ではない
自分で気持ちを整理して立ち直ってほしい
でも、彼は自分で立ち直る方法を知らない
だから話をしたいのに話ができないのだ

だったら最初から
ゲームはしないという
パパの気持ちもわかる
でも、ここで逃げれば
彼はずっとこのままだ

どうしたものか……

また次に会った時
彼はかんしゃくを起こしたことを
すっかり忘れ無邪気に
「ゲームしよう」という

私は正直に「やだ」と言った

「なんで!?」
まさか断られると思っていなかった彼は
目を丸くして驚いていた。

「だって楽しくない。
 君は負けると怒るでしょ?
 それで私や物に八つ当たりするし
 勝っても嫌な言い方してくるから
 私は最近ゲームをすると
 嫌な気分になる。
 だからしたくない」
「絶対怒らないから!」
「え〜ほんとに?」
「ほんとに!」

彼の言葉を信じてゲームを始める。
案の定、一回戦で負けた彼は怒った
「え? 怒らないって約束じゃん?」
「無理なの!! 怒っちゃうの!!」

ほらね

そう言いそうになったが ふと思った
私は彼に「怒るな」とは言ったけど
怒る以外にどうしたらよいのか
話していない
だから彼はこの負けた気持ちを
何に変換したら良いのかわからない
感情の行き場がないのだ

そもそも「怒るな」ということがおかしいのだ
自然と湧いて出てきた感情を止めろと
言われても大人でもできないことはある。

フィンランドの感情教育について
散々ワークショップで言っていたくせに
自分が実践できていないじゃないか!

「ちょっと待って、ごめんごめん!
 怒ってもいいよ。
 そうだよね。
 負けたら悔しいよね。
 私も負けたら悔しいし……
 でも、私も君も怒ってばかりだと
 楽しくないじゃん?
 だからどうしたらいいか
 今度までに考えておくよ。
 楽しくゲームできる方法」

そんな会話をしてその日は終わった。

保育園で働いていた時も
1番や勝ち負けにこだわり
かんしゃくを起こす子はいた
でも、その対応についてちゃんと
考えたことはなかった。

でも少し前にフィンランドの
幼児教育コースで学んだ
フレンドシップスキルを思い出した

そこには勝つことにこだわる子どもには
フェアプレースキルを学ぶ必要があると
書かれていて
まさに彼らに必要なスキルだと思っていたのだ

特に印象に残ったポイントが4つあった

・そもそも、ゲームは楽しむものでありゲームの勝敗が本人の全てではない
・大人が忖度すると子どもは自分の実力を見誤り勝つことが当たり前だと感じてしまう。大人の役割はわざと負けてあげることではなく、負けた時にどのような態度をとるか教えることだ
・勝ったことを自慢したり、負けた人を貶すのはフェアプレーに反する。勝った場合は「良いゲームだった」「君のおかげで楽しくプレイできた」などお互いのよかったポイントなど伝えあおう
・負けた時に相手のせいにしたり言い訳をするのはフェアではない。「負けた! 悔しい! 今度は勝つ!」と悔しい気持ちを言葉にしたりまた挑戦してみる気持ちをもとう

これは私自身にも足りていないスキルであり
子どもだけでなく
大人の勝負の世界でも
必要なスキルではないだろうか?

目からウロコだ

子どものために負けてあげたのは
実は子どものためではなかった。
まずは私が全力でゲームをして勝った時
負けた時の見本になろう。

遠慮なく大人げない大人になってやる


次に会った時、ゲームを始める前の
落ち着いている状態で彼と話をした

「ゲームをやるのはいいけど
 なんでやりたいの?」
「楽しいから」
「でも、最近は怒ってばかりで楽しそうに
 見えないけど、それでもやりたいの?」
「負けると楽しくないけど
 勝つと楽しいからやる」
「でもゲームはいつも勝てる訳じゃないよ?
 負けることもあるよ?
 私ももう手加減しないから
 負けることばっかりになるかもしれないよ。
 それでもやるの?」
「う〜ん……負けたら怒っちゃうと思う」
「じゃあ、負けて怒りそうになった時
 コントローラーは投げると壊れて
 ゲームできなくなるかもよ?
 どうする?」
投げない
「でも、それでも投げなくなったらどうする?
 何か代わりに投げても
 大丈夫なもの用意しておく?」
「あ! じゃあ赤ちゃんの時使ってた
 ふわふわボールにする」
「いいね! あと、ずるしてないのにズルした!
 って言われたり意地悪なことを
 言われると私は傷つくからやめて欲しいんだけど
 どうする?」
言わない。我慢する
「じゃあ、お茶を置いておくから
 その言葉をお茶と一緒に飲み込んでみたら?」
「そうする! お菓子を食べると
 元気になるかもしれない!」
「じゃあ、少し離れたところに
 チョコを置いておくから
 ボールとお茶で我慢できなかったら
 チョコをそこで食べて休憩しよう」
「うん! いいね!」
「あと、大事なこと。
 負けた時はまず「悔しいー!!」って
 声に出してみてごらん。
 それでスッキリできるかもしれないよ」

ここまでの会話で気づいたのは
彼は今まで問題が起きた時は
その行動を
「我慢する」という方法一択しかなかったのだ
「コントローラーを投げたくなったら」
「投げない」
「意地悪が言いたくなったら」
「我慢する」

我慢ができるかできないかの0か100だったのだ
他の方法はいくらでもある

別の道をロールモデルとして大人が見せるのも大事だ


そうして私は彼とゲームをするとき
わざと負けるのではなく
勝った時は「やったー!」
と素直に喜んだり
「ここで君がジャンプ
 してきたら負けてたかも
 ギリギリ勝てた!」
と次にどうしたら勝てるか
さりげなくヒントを出したりしている
そして負けた時はわざと
「悔しいーーー!!! もう一回!」
「次は負けないから!」と
床をゴロゴロと転がって
全力で大人げない大人を演じる。

それをみて彼も「次も負けない!」と
笑顔でゲームをするのだ

彼はまだ時々かんしゃくまではいかないが
怒る時がある
でも、自分でお茶を飲みに行ったり
「だめだ! 今日は怒っちゃう!どうしよう」と
その日の疲れ具合でイライラしがちな時は
自分が怒りやすくなっていることを
理解して助けを求めることができるようになった

だから私もイライラしない
一緒に解決できるように考えるのだ
でも、ここまで至るのには1年かかった

一瞬で子どもが変わる魔法などない
大人も子どもも一緒に試行錯誤しながら
お互いに我慢せず心地よい関係で
いられるようにするには
沢山の練習が必要だ

最初はめんどくさい。
上手くいったと思ったら
またかんしゃくを起こして
こっちも一緒になって
イライラすることもある
やっぱり私と彼には無理なのかもと
思うこともあった

でも、今は彼と一緒にゲームをする
時間は楽しい


ゲームは楽しむためにある


yakko


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2022.1.22
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