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年下の子が褒められて嫉妬する上の子に話た”何でもできるフリ”が上手な大人の話

「弟くんはできないことばっかりだよ!」

それは”弟ばかり褒められてズルい!”という

心の声が副音声で聞こえるようだった


自分は毎日当たり前にやっていて
褒められることのない
食後の食器片付け。
それを弟は初めて大人に言われる前に
自分から片付けた

それはそれは褒められた
「もう何でもできるね」

その一言で兄は爆発したのだった



私は月に数日
友達の子どもをお世話をしている
以前書いたゲームでかんしゃくを起こす彼だ


彼の弟は4月に進級してから自信満々
私が友人の代わりに
保育園に迎えにいってから
友人が帰宅するまで
「自分でできる!」を連発

寄り道した公園で鉄棒をしたり
帰宅してから保育園で使った
タオルやコップなど洗い物を出したり
苦手だった食べ物を食べたり……

とうとう大人に言われる前に
食後に食器を自分でキッチンに
持っていくことができるようになった

一つ大きなクラスになったことに

自信を持ちキラキラしている


「すごいね、少し前は全部
 私がやってたのに
 自分で気付いてできるんだね
 片付けをしてくれて助かったよ」

と褒める


「すごい」
「さすがoo組さん!」という褒め方より

・過去のその子と比べてできたこと
・具体的な行動を褒める

に注意して褒めてみた

すると
「今度はooだってできるよ!」
とさらに新しいことに挑戦しようとする

そこで
「いや〜さすがにそこまでは
 難しいと思うよ
 いいよ! 私やるから」
とおどけた感じで言うと

「楽勝だし!」

と、どんどん挑戦する

そして
「うわ〜ビックリした〜!
 1人でできるの!?
 信じられない! なんでもできるじゃん!
 まぁ、まさか……いやでも……
 おもちゃ片付けたりは難しいよね?」
 「楽勝だし!!」

とハタから見たら茶番だが
いいループができていた



しかしその茶番が面白くない人物もいる



「そんなの簡単だし! 当たり前のことじゃん」
と、兄が言う

「なんでもできる訳ない
 弟くんはできないことばっかりだ」


なんでそう思うのか聞くと
「だって漢字とか書けないし!
 自転車も乗れないし!」
と言う


まぁ、大人でも自分が当たり前にできることを
他人がめちゃくちゃ褒められて評価されていれば
面白くない

でもこの状況は
新入社員が褒められているのを
ベテランが嫉妬しているような姿と重なった

「そんなのできて当たり前ですが?」
とマウントをとる大人になって欲しくない!


さて……
どうやってアプローチしようか



以前の私は
”自分が子どもの頃、大人に言われたこと”
カードがメインだったので
「そんなこと言わないの!」
が主戦力だった


でも最近
色々な人と話したり
色々な場所で学んだりして
”使えるカード”が増えたのだ


さて、どのカードを使って
攻略してみようか


まず”気持ちカード”を使ってみる


「もしかして今、
 こんな兄君にとっては当たり前のことをして
 弟君が褒められていてモヤモヤしてる?
 イライラ? ヤキモチ?
 どんなかんじ?」
「全部!」
「だよね~、兄君にとっては
 簡単なことだもんね」
「うん、ボクはいつもやってるのにさ」
「2人で楽しそうなのもイライラする?」
「する!!」
「そうだよね〜」

まぁまぁ、話でもしましょうか
食器を洗う手を止めて
冷蔵庫に向かう

「何飲む〜?」

とジュースを用意して
兄君にコップを渡す

そしてその隣にあった
ヨギボーにダラーっと座って
私もジュースを飲む

”話しやすい環境づくり”のカードだ

「話をしよう」と面と向かうと
”怒られる”と身構えてしまうことがある
だからゆるい雰囲気を作る


次は”例え話カード”だ


「兄君は車運転できる?」
「できるわけないし!」
「じゃあ、赤ちゃんが
 兄君より足速かったらどう?」
「そんなのヘン!」
「そうだね、人間は少しずつ大きくなるから
 そのくらいの年齢で
 できることとできないことが
 あるのはわかる?」
「うん」
「だから、漢字は小学校で習うから
 まだ弟くんは書けなくてもいいんだよ」
「だからなんでもできるわけじゃない!!」
「確かにそうだね」


おーおー
噛み付いてくる
苛立ってるな


そう思いながら次の手を考える


「んー……じゃあなんで私が
 ”何でもできるね”って言ったかわかる?」
「わかんない」
「人間ってできないこといっぱいあるんだよ
 でも、”自分はあれもこれもできない”って
 できないことばっかり見てると
 最初から”どうせ自分はできないし”って
 諦めるようになっちゃうの

 だから本当のことじゃなくても
 ”自分は何でもできる!”って
 自分も周りの人も信じてくれると
 最初上手くいかなくても
 「できるはずだ!」って
 何度も練習する力になるの
 それで本当になっちゃうことが
 あるから弟君にそう思って欲しくて
 言ってるんだよ」
「ふーん。」


……少し間があいて
お互いジュースをゆっくり飲む
兄君も何か考えているようだ
そしてポロッとこんな質問をした


「大人でもできないことある?」

そんなの、できないことばかりだ!!
もし大人みんなが全知全能の
人間ばかりだったら
ガソリンや物価の
値上がりに苦しむこともなく
少子高齢化にもならず
戦争も起きず
みんな平和に毎日幸せに
暮らせただろうよ!

と、心の中で叫ぶ



「できないことばっかりだよ
 私は毎日コツコツ頑張ることが苦手だし
 算数も苦手だし
 友達を作ることも苦手
 もうね、挙げてたらキリないよ
 できることより
 できないことの方が多いかもね」

すると彼は驚いた顔で言った

「大人って
 何でもできるんじゃないの?」


そうだった
私も子どもの頃
大人は何でもできると思っていた


「大人は何でもできるフリが上手なんだよ
 でも、本当はできないことはいっぱいあるよ」

「大人なのにできないの?」

「そうだよ。
 例えば、私は今着ている洋服は作れない
 だから誰かが作ってくれた洋服を
 お店で買うし
 車は乗れるけど車は作れない
 だから買うんだよ
 こうやってみるとできないこと
 結構あるでしょ?」

「確かに! 家は大工さんが作るし
 空も飛べないね」

と、できないことを見つけて
ケラケラと笑う彼

「そうだね。
 人間は空は飛べないけど飛行機を作ったし
 家を作るのも頑張って自分で作る人もいるけど
 大工さんの方が上手に作れるから
 お願いしたりするね
 こうやって誰か得意な人にお願いしたり
 道具を作ったり、使うのが大人は上手なんだよ

 自分でできないことがわかって
 他の人に助けてって言ったら
 助けてもらえた。
 最初から全部自分でやらなくても
 道具を使ったらできた。
 それでできたなら
 ”自分で何でもできる!”でいいんだよ


すると彼は
「水の中で息はできないけど
 ボンベがあればできる」
「自分で髪の毛は切れるけど
 床屋さんの方が上手」
「カレーは作れるけど
 CoCo壱のが美味しい!」

と、できないけど道具があればできる
できるけどプロがいる
探しをしばらく楽しんでいた


「兄君もさ、
 逆上がり全然できないよね
 ゲームいつも私に負けてるね
 ピーマン食べれないよね
 とかできないことを言われるとどう?」
「やな気持ちする。ムカつく」
「だよね、自分でわかってる苦手なことを
 人に言われると私もムカつくよ
 じゃあ、これは誰か得意な人に
 代わりにお願いできる?」
「うーん……ピーマン代わりに食べてもらう?」
「確かにそれもあるか笑
 でも、逆上がりもゲームも
 誰かが代わりにやってくれて
 できても嬉しくないよね
 全部全部誰かにやってもらうことは
 できないから
 自分ができた方が嬉しいこととか
 自分でできた方がいいこととかを
 練習したりするんだよ」
「ウンチ自分で拭いたりとか?」
「大正解! よく話を理解してるな笑」


彼はだんだん話の内容を掴んで
自分の身近ではどれが当てはまるのか
当てるのを楽しみだした


「その時にさっきみたいに
 できないことを言うより
 できたことを褒められたり
 できるって信じてるよって言われると
 私は嬉しいんだけど?」
「うん、嬉しいかも」
「だから弟君は今、自分でできるって気持ちを
 作ってる途中だからたくさん褒めてるし
 それに一緒に協力してくれると嬉しい。
 私も、兄君はもう何でもできるって
 思ってるから
 ついつい声をかけるのを忘れちゃうけど
 弟くんばっかり褒めててモヤモヤしたら
 ”僕も!”って言ってね
 兄君のできることも
 いっぱい一緒に見つけるね」
「わかった!」
「よし、じゃあ話終わり! 遊ぼう!」
「いえーい! ゲームしよう」


こうして兄はヤキモチのような
もやもやから抜けたようだった


今思えば話の内容というよりも
弟ばかり見ていた視線が
自分に向いて
じっくり話をしたことが
良かったのかもしれない


内容なんて何でもいいのだ



さて、この話には後日談はない
今まさに進行中の状態だ


また、次同じ状況になった時
彼がどんな行動に出るのか楽しみだ


彼らもこれからもたくさん
できないことを経験して
悔しい思いをしたり
挫折したり
それを乗り越えた喜び
たくさんの気持ちと出会うだろう

そんな時
彼らの中に今日使ったカードが
何か残っていたら
いいなと思うし

残っていなかったら
きっと誰かが自分と向かい合って
話を聞いてくれる

それだけでいいのだ


yakko


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