「リスキリングは個人と組織の生存戦略」 有識者が語るDX時代の新人材戦略
各企業においてデジタル人材不足が叫ばれるなか、「リスキリング」への注目が集まっている。また、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改定によって、上場企業には人的資本に関する情報開示が迫られるなど、経営戦略と連動した人材戦略の重要性も高まりつつある。人的資本経営を実践するにあたっても、リスキリングは避けては通れないものといえる。
ワークスアイディが11月29 日に開催したCampus Studio Online Camp「デジタル時代の新人材戦略「リスキリング」 ~企業も個人もアップデートせよ~」では、同社 執行役員 ビジネスデザイン事業本部長 ビジネスデザイナー 奥西佑太氏、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事/SkyHive Technologies 日本代表 後藤宗明氏が、DX時代に企業と個人が共に生き残るためのリスキリングおよび人的資本経営について語った。
┃リスキリングでデータサイエンスの基礎を身につけ、新たな価値を生み出す
人的資本経営の重要性が高まるなか、厚生労働省は2022年度に人材開発支援助成金(人への投資促進コース)を創設した。人への投資促進コースのうち、ITスキル標準(ITSS)レベル3-4以上を目指す「高度デジタル人材訓練」の経費助成率は中小企業で75%。さらに、賃金助成も受けることができる。ワークスアイディが運営する「データサイエンティスト養成講座」は、経済産業省の第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)にも認定されているリスキリング方法であり、同助成金の対象となっている。
同講座は、統計解析や機械学習の基礎を身につけることを目的としたもので、「入門編」「ビジネスインサイト編」「状況可視化編」「データベース編」「Python基礎編」という5つの分野からなる合計2か月間・118時間のプログラム。奥西氏は、「入門編だけを受講いただいている企業もあります。当社の講座の特徴は、アクティブラーニングを活用している点で、グループ討論や体験、人へ教えることによって知識やスキルを定着させられます」と同講座の強みについて紹介する。
データサイエンスの知見や技術は、需要予測やターゲティング、不正検知などあらゆる領域の業務に活かされるが、車の運転に例えると、データサイエンスは車内のダッシュボードやナビゲーション機能のようなものだと奥西氏はいう。
「データを活用しようとなるとデータ自体に着目しがちですが、データは目的地へ辿り着くためにどう運転すればよいか解釈を与えてくれるものです。データを活用しても目的や答えはでません。目的・課題を明確にしてはじめてデータ分析が必要となります」(奥西氏)
データを活用してDXを進め、新たな価値を生み出すには、組織づくりも重要となる。従来型の「生産する組織」から「創造する組織」に変革するためには、「現状否定またはゼロベースで何が経営課題なのかを考え、会社の将来という視点から質的変化を目指していくことが重要です」と奥西氏は語る。米国ではDXのD=DNAとされるほど、組織カルチャーの変革が重要視されはじめているという。そうした意味でも、リスキリング、ひいては人材戦略を再考する時期に来ているといえる。
┃リスキリングは経営層がビジョンを示し、全社プロジェクトとして取り組むもの
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授は2013年に「今後10-20年間に、米国の総雇用者の47%の仕事が自動化され、消失するリスクが高い」ことを示した論文を発表している。リスキリングが注目されてきた背景には、こうした海外における「技術的失業」の問題がある。
AIやロボットによる自動化が進むなか、単純作業からデジタルを使った仕事への移行が求められるようになった。この労働者のスキルギャップを埋めるために必要とされたのが、リスキリングというわけだ。つまり、リスキリングとは、現在の職務とは異なる業務への配置転換を目的としたものといえる。
「reskill(リスキル)」は他動詞であり、主語には組織、目的語には従業員などが当てはまることから後藤氏は、リスキリングについて「DXなどの組織の変革ニーズに基づいて行われるもので、組織が実施責任を持つ業務ともいえる」と説明する。個人の関心が原点となる「学び直し」や「リカレント」、現在の職務の専門性をさらに向上させる「スキルアップ」とは異なる。
では、企業主導で従業員のリスキリングに取り組んでいくために、経営や人事は何をすべきだろうか。後藤氏は次のように説明する。
「まずは、リスキリング制度の策定が必要です。リスキリングは、経営・人事戦略が紐付いていなければならないため、全社プロジェクトとなり人事グループ内の連携も求められます。続いて、部署ごとに従業員がどんなスキルを身につけるべきか"Future Skills"を設定します。研修制度の導入、スキルの可視化、リスキリングによって身につけたスキルを社内外に向けて証明する仕組みも必要です。さらに、配置転換や社内公募などで新たに身につけたスキルを活かせるポジションをつくります。そして最後は、昇給昇格を行い、報酬で報いることが大切です」(後藤氏)
日本における成功事例として後藤氏は、名古屋の老舗印刷業者・西川コミュニケーションズをあげた。同社はリストラを行わず、従業員のリスキリングによって、デジタルマーケティング、3DCG制作、AI導入支援を手掛ける会社へと変貌を遂げている。400名の社員のうち80名が、AIに関する民間資格である「G検定」を取得しており、社長自らも合格しているという。
リスキリング機会を組織が提供しなければ、意識の高い従業員が社外に成長機会を求めるようになるリスクも生じる。経営層は、事業や会社の方向性を明確に示したうえで、DX推進などを担う部署と人事部の連携を進めながら、社内の成長事業への労働移動を促す必要がある。後藤氏は「デジタル化によって労働の自動化が加速して技術的失業が進む前に、従業員をリスキリングすることでDXを成功に導く必要があります。企業と従業員の共倒れを防ぐ"攻め"と"守り"のリスキリングが重要です」と語っていた。
┃"Re-skilling is a Never Ending Journey"
イベント後半では、視聴者からの質問に答える形で奥西氏と後藤氏のトークセッションが行われた。以下では、その議論の一部を紹介する。
——学びの時間と予算が取りづらい中小企業のリスキリングはどのように進めていけばよいでしょうか。
後藤氏: 中小企業は「リスキリングの機会をつくると業務が止まる」という課題を抱えており、リスキリング対象者の50%程度の業務を引き継げる人を雇うための雇用支援の助成金が必要という声があがっています。ジャパン・リスキリング・イニシアチブも助成金制度構築の提案を自治体向けに行っていますが、まだ全国レベルで始まっているわけではありません。中小企業の方には、ぜひ自治体への働きかけをしていただきたい。
——データサイエンティストを増やしても、儲けにつながらない可能性はありませんか?
奥西氏: これまでは経営戦略に対して組織と人が従うやり方でしたが、今は人や組織に従って経営戦略ができており、個のスキルが戦略や戦術に関わってくる時代へと変化しています。個々人のスキルをどう戦略に落とし込むかという発想も大切です。
後藤氏: データサイエンティストチームが育つことで新しい事業を考えられるという帰納的なアプローチもありえるが、やりたい事業があるからデータサイエンティストが必要という演繹的な考え方もあります。いずれにしても、あくまで事業戦略と人材戦略を一致させるアプローチが重要です。
——企業でリスキリングに取り組む人へのメッセージをお願いします。
奥西氏:これまでの私の経験では、リスキリングは時間外や休みの日にやることだと思っていましたが、企業が業務の一環として取り組むべきことへと意識が変わりつつあります。将来の事業像から各人のスキルを考えていくことが必要であり、ぜひ社内の皆さんと話し合っていただきたい。
後藤氏: 私はよく"Re-skilling is a never ending journey"と言っており、リスキリングは個人と組織の生存戦略であり、やらないという選択肢はありません。現在は、デジタルに注目が集まっていますが、脱炭素や宇宙分野へのリスキリングも今後は必要になるはずです。ここでリスキリングをスタートして慣れておくと、これからの変化の激しい時代にも対応できるようになります。
ワークスアイディは「働くをデザインする。」をコンセプトとして、
これからもお客様の「変化と体験」を創出し、ビジョンを描くシナリオプランニング構想でお客様と共創して参ります。