ことばの発達を支える基盤 5)環境

これまでもお話してきたように、周りの環境に自発的にかかわり活動する中で子どものことばは発達していきます。周りからの適切な刺激が受けられるような環境は、ことばの発達に必要不可欠です。

しかし、「適切な刺激が受けられるような環境」と聞いて、不安を感じる親御さんも少なくないのではないでしょうか。

相談の現場でも、「テレビを見せすぎているからなのか」「話しかけが足らないのか」「絵本の読み聞かせをしなかったからか」など、親御さんから多くの質問を受けます。

そのような環境は健全なことばの発達には欠かせないものではありますが、多くの親御さんが心配しているようなことばかけの少なさやテレビやスマホの視聴は、ことばの発達を阻害する決定的な要因にはなりません。

しかし、養育放棄や虐待などはこの限りではありません。ここ数年で心の痛むニュースが増加しており、世間の関心も高まりつつあります。養育放棄や虐待は、ことばの発達ひいては子どもの発達全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

1970年代にアメリカで保護された通称ジーニーは、2歳から13歳で救出されるまで、話すことや泣くことを禁じられ狭い部屋で監禁されていました。救出時のジーニーは、まっすぐ立つことや歩くことができませんでした。

また、ことばを話すことはできず、ごくわずかに簡単な単語が理解できるのみでした。その後、ジーニーは少しずつ単語を覚え2語文を話すようになりましたが、そこから先の発達はなかなかみられなかったようです。また、近年では虐待による長期的で極端な心理的ストレスにより、子どもの脳が傷つけられることが明らかになりつつあります。

虐待を受けて育った子どもの脳画像や脳の体積の分析から、言語や聴覚を司る領域、感情や理性を司る領域など、さまざまな領域に異常が見つかっています。しかし、子どもの脳には可塑性があり、早いうちに手を打つことができれば回復することもわかっています。そのためにも、虐待を早期に発見し社会的支援を行うことが重要なのです。

このように「環境」といっても、ことばの発達に決定的に影響を及ぼすのは、養育放棄や虐待により長期的に影響を受けた場合です。絵本の読み聞かせをしましょう、テレビやスマホは控えましょうとよく言われますが、必要以上に囚われ気に病むことはありません。ことばの発達を促すかかわり方は他にもたくさんあるからです。

お子さんの興味やペースに合わせて一緒に遊び、楽しさや驚きを共有し、その中でことばをかけてあげることが重要です。絵本の読み聞かせでも、お子さんの興味や発達段階に応じて、絵本をおもちゃのように使ったり、人形劇のような遊びに発展させたりするなどさまざまな方法があります。

型にはめようとせず、親子で楽しめるようなかかわりの時間を見つけていきましょう。


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