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「ピノノワールよりも重めでトロよりも軽い赤、お願いします」




本日は
美しい女性4名様が来店した。

事前にバースデイプレートのご予約があった為、
サプライズでのお祝い会ということである。

お誕生日の友人の為に、
秘密でこっそりバースデイプレートを頼むという文化は
なんて素敵なんだろうと時々考える。

電話でお店に予約をする時、
バースデイプレートをお願いすると
「メッセージはいかがなさいますか?」
と大抵の場合聞いてくれる。

その時に「happy birthday 〇〇、でお願いします」
と電話越しで知らない誰か(店員)に伝える。
まるでこっそり、秘密の作戦を伝えるかのように。

「ひらがなで〇〇、でよろしいでしょうか?
それか、アルファベットがよろしいでしょうか?」

という確認が入ることもあるが、
その確認さえも
誰かのことを想い、その人のいないところで
その人に喜んでもらう為に打ち合わせをしている、
愛おしい確認作業のように感じてしまうことがある。







ーさて、お客様のお食事が中盤にさしかかる。

それまでは各々、お好みにグラスワインを召し上がっていたが
ボトルワインのオーダーが入った。

「ピノ・ノワールよりも重めでティンタ・デ・トロよりも軽く
飲みやすい赤、お願いします」



複数人でのお客様となると、
もちろんではあるがワインの好みはばらつく。

もっというと、ワインが苦手な人、
いや、お酒が飲めない人だっていることがある。

私のように、ワイン大好き、飲むのも好きだけど、
お酒が弱い為、量が飲めない人だっているだろう。

4名の女性うち、
2人はワイン好き、重め、ストラクチャーのしっかりした樽系のワインが好き。
1人はワイン好き、だが軽めフルーティなワインが好き。
1人はお酒が弱く、楽しみたいがほとんど飲めない人であった。


そしてメインまでに
ピノ・ノワールとティンタ・デ・トロをグラスで各々召し上がり、
「その中間ぐらいのミディアムボデイの軽すぎないけど重すぎない赤」
というのが女性たちのオーダーであった。

その他のご要望をまとめると

・ミディアムボディ
・果実味がある
・タンニンが濃くないもの
・予算5000円台まで
・ニューワールドでも可




であった。

なるほど。

4人の(1人はほぼ飲めないとしても)
それぞれの意向を汲み取って出されたオーダーに
なるほど、と妙に納得した。


「かしこまりました。お探しして参ります。」


そこで提案したワインは


『Schiefer Szapary Blaufrankisch 』

オーストリアの南Burgenland(ブルゲンラント)産、
Blaufrankisch 100%の赤ワインである。

ブルゲンラントはオーストリアの東に位置する首都ウィーンの南東にあるハンガリーとの国境沿いに縦長に伸びる州である。

オーストリアといえば、貴腐菌を使って作られるデザートワインが超有名であるが、ブルゲンラントはそのデザートワインの産地としてもよく知られている。
ブルゲンラントのざっくりいうと北に位置する場所には、想像を絶するほど美くしいノイジードル湖がある。




太陽がよく当たり、秋にはその湖がautumn mistsと呼ばれる霧を作る。
この好条件が整った環境が貴腐ぶどうを作るには最高に適しており、世界トップクラスのデザートワインが作られる。




そしてこのブラウフランキッシュで作られたワインは
その湖から南に下った場所にある、南ブルゲンラントで産まれたワイン。

※Burgenlandのぶどう畑(冬)


暑い大陸性のパノニア気候による影響と、西側にあるシュターヤーマルクからの涼しい気候、両方の影響を受け、しっかりと果実味を残しつつ、エレガンスさも感じられるワインとなる。

程よい酸味とともに、野苺やチェリーなど赤系の果実やブラックベリーやブルーベリーなど黒系カシスの味わいがあり、個人的には森の中で採れた木苺や野苺、野生的な香りが印象的。
また果実味だけではなく、土や湿った葉のようないわゆるアース感も感じられる。果実感とそのあとに続くエレガンスな余韻が癖になりそうな味わいである。


タンニンは中程度でミディアムボディなので、飲みやすく、食事にも比較的合わせやすいワイン。おすすめは、白カビ系やシェーブル系のチーズ、ラムのお料理など。

補足ではあるが、ぶどう品種の名前が国によって呼び方が異なり、同じ品種名のことをシノニムと言うのだが、ブラウフランキッシュのハンガリーでのシノニムは、Kekfrankos(ケークフランコシュ)と呼ぶ。

これをさらっと言える人がいたら脱帽する。

ソムリエ試験前は色んな品種のシノニムを歌にのせて必死に覚えた。というのも、ソムリエ試験ではシノニムは頻出問題である為、避けては通れない。

このブラウフランキッシュというぶどうはケークフランコシュの他の呼び名も合わせて実は8個もシノニムを持つそうである。
なんという多さ。
ここでは割愛する。
というか、言えない。



話がかなり脱線してしまったが、
ブラウフランキッシュはピノノワールより重めで、ティンタ・デ・トロよりも軽い、と言うことで大丈夫だっただろうか。

感想を女性たちに伺ったところ、
初めてオーストリアのワインを飲んだが、とても美味しかった
と言って下さった。
あっという間にボトルは空になっていた。


よかった。
少し個性もありつつも果実味とエレガンスさがあるワインは、楽しそうに誕生日をお祝いする彼女たちに正直ぴったりだと思えた。




彼女たちのワイングラスが空きそうな頃、
4人のうち1人が微かに頷きながら私に視線を送ってきた。

私はこくり、と頷き、シェフにプレートをお願いする。
キャンドルに火をつけ、バースデイプレートをお持ちした。






素敵な1年になりますように。
私もお祝いのお手伝いできたようでこちらまでハッピーな気持ちになった。





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