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森のポラリス

天をつく威光を備えた樹冠が青く茂っていた。下へ向かうにつれ、枝の分かれ目があらわれ、浮雲のように葉を漂わせる。

霧が漂えば黒い影となり、そこには鳥すら寄り付くことはしなかった。その枝が許す限りに裾野を広げれば低木は育たず、ツタやシダが親と戯れる子のように繁茂する。

巨大な幹は風をもしのぎ、風の強い晴れた日には日向を譲り合う小鳥の羽ばたきがこだまする。

倒れることを望む森の清掃屋たちはたびたび木を訪れるも、徒労に終わったことを知るとそそくさと帰っていった。

その木は十分に育ちすぎたために、とうとう神性を見出されるようになった。人から祈りを捧げられ、森のポラリスとすら呼ばれるようになりはじめていた。

しかし、成長は止まらず、雲を突き抜けんとすると、天に歯向かう意思ありと判断されたか雷が落とされた。

木は焼け焦げ、風が吹けば大きくしなって空をかき混ぜる。掃除屋たちは大いに喜び、雷に巻き込まれた鳥たちは木とともにあることを誇り、めいめいの一途を辿った。

杣人たちはこれを悲しみ、また自重に耐えきれずに倒れてしまえば災害となることを恐れて、涙ながらに切り倒すことを決定した。

木は二度の月の満ち欠けの後、ようやく樹冠を地におろす。杣人たちは丁重に細かく等分し、森と人とで分け合った。

森に明け渡された分は一部はキノコの寝床となり、一部は敬意を持って掃除屋たちが森へ還そうとした。人の手に渡った分は、神性を帯びたものとして、厳重に補完された。

ただ、木の辺りには未だ低木は育たなかった。根は掘り返されず、そのまま保存された。

幾月もの時間を超えると、木の根本には、小さな樹冠が出来上がる。聡いものは杣人たちの仕事に気付き、ふたたび空を混ぜる樹冠に想いを寄せ、次代が共に過ごせることを喜んだ。



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