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星とテントウムシ

星のまなざしがのぞく夜は、芝生の上に暮らすテントウムシに星が与えられる。七つか八つか、はたまたそれ以上か。テントウムシは、生まれてから死ぬまで、自分が背負った星の数を知らない。

与えられる星は、夜空に瞬く星が落とす影だ。それを一匹が背負うには、体に対してあんまり大きすぎるものである。そこで自然のシステムは、星を背負う個体の数を増やして分散することで解決することとした。この依存関係により、たとえ人の記憶からなにからなにまで忘れ去られてしまおうと消えない。夜空に輝く点のひとつひとつが繋がって生まれた物語は、決して消えることはない。それが星が死を迎え、光を発せなくなったとしても。

テントウムシは星の数も知らないどころか、背中に背負ったものが星であることすら知らない。親兄弟からしてみれば、自分がいくつ星てんとうであるかを確かめるものでしかなく、個体によっては不貞をとがめるためのしるしであるとしか認識していない。しかし、自らが属する種は、星の加護を与えられたことにより種自体が成立していることを知らない。また、星が落とす影が刻まれたときに生命に光を灯していることも。

そうして、知らないことづくめのテントウムシたちは、星に居場所を与えた。反対に、星たちはテントウムシに命を与えた。

しかし、星の光に意味を与えた人々は、テントウムシの星に興味をもたなかった。どう生きて、生命の光を点滅させているかにすら興味を持たない。テントウムシが羽ばたけなくなろうが、星が光を失おうがどうでもよかった。無責任に意味を与えた人々は、それぞれの生命が独立してあり続けることができるシステム作りすらせずに歴史の影に消えていった。

しかし、一度結ばれた関係は失われることなく今もあり続ける。星とテントウムシは、生涯の友として背中を預けあう。今日もまた、連綿としてお互いの存在を補完しあうべく、背中を預けあった。



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