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恐縮ですが、育児中。 《2》 イクメン


最近「イクメン」という言葉をよく聞きます。

流行語の例にもれず、上司が若い部下に「キミ、イクメンしてるんだって?」などと普段の会話で使ってしまうと、「周回遅れのオヤジ」に成り下がってしまう危険なワードではありますが。

なりゆきでフルタイムのイクメンになってしまった当方としては、仲間が急増しているのは嬉しい限りです。

だいたい、これまで育児が女の仕事と決めつけてきたのは、当事者よりも「世間」の側です。たとえば『おかあさんといっしょ』なんてTV番組も、その象徴。「おとうさんもいっしょ」でええやないか!(クレーマーか)

そういえば子どもが小さい頃、外出先でオムツ替えの台が女性トイレの方にしかなく、仕方なく男性トイレの便器の蓋の上で苦労しながらオムツを替えた事を思い出します。

男女の育児機会が均等な世の中になれば、こうした「当事者レベルの不便」も解消されていくことでしょう。

とは言え、男にとっての育児って、女性とは別の意味でハードです。

基本的に、男って「目的」がないと燃えないんですよね。

「荷物を目的地まで運ぶ」とか「売り上げをアップさせる」とか「変な楽器を発明する(明和電機)」とか、何らかのゴールに向かって集中し、成し遂げるのが男の性分。

逆に、目的もなくダラダラと時間やプロセスを楽しむのは非常に苦手なものです(俺は違うって男性もいるでしょうが、あくまで一般論)。

しかし育児には、そうした明確な目的もゴールもありません。20年ほどかけて子どもが自立するまで、延々と続く、その「状態」こそが育児なのですから。

日曜の公園で子どもを遊ばせてる「イクメン」なお父さんたち。その姿はどこか、女性につきあってデパートを訪れた男性を思わせます。

「どっちが似合う?」などと言いつつ楽しそうに品定めを続ける女性の横で「どっちでも良いから早く決めてくれ!」とイライラして脳卒中を起こしそうになっている男、みたいな。

目的なしに、ショッピングという「行為自体を楽しむ」のが苦手な男性、じつは多いのではないでしょうか。

そんな男性。我が子と公園に行っても、あっち行ったりこっち行ったり漫然と遊んでいるのに我慢できず「鉄棒、回ってみなよ!」と目標を与えたがったり、砂をいじってるのが楽しいだけなのに、突然「大きな山を作ろう!」と言い出したり、どこかズレてる

そのうち目標を与えることにも飽きて、遊んでる子どもを遠目に携帯電話をパチポチし始める。

魂の抜けきった虚ろな表情でベンチに腰かけ、「明日は出社したら取引先に電話入れて……」と仕事の段取りを考えていたりする。

おまけに、知らない男性どうしって「おたくもイクメンですか?」などと会話を始めることが、なかなかできないんですよね。そもそも、そういう風習が日本男児のDNAには組み込まれていない。

公園で出会ったお母さんたちが、すぐに盛り上がって「ママ友」になるのと対照的に、電信柱のように等間隔でポツリポツリと突っ立って、無言でパチポチやってるのが自称イクメンたちの現実。

あれ? 待てよ……? これって一般論じゃなくて、単にコミュ障な自分の性格じゃないのか?

なんのことはない、今回も一方的な自分語りをしてしまいました。

まったくもって恐縮です!


初出:「明和電機ジャーナル」第17期 第2号 (2010年7月15日発行) より改訂


「イクメン」という言葉が、流行語としてもてはやされ始めた頃に書いた文章です。

保育園に送迎の折り、出会うのはやはり圧倒的にお母さんが多かったのですが、スーツ姿で出社がてら預けにくるお父さんもいたり、行事を企画したり休日の遠足に誘ってくれる積極的な男性も多かった。

「育児をがんばる」というよりも、子供を媒介にして、職場とも家庭ともちがう「サード・プレース」としての新しい人間関係を楽しむ。そんな男性像を感じたものです。

しかし、もはや「イクメン」という言葉も死語になりつつあるのではないでしょうか。

それは、イクメンの存在が古くなったからではなく、男性の育児があまりにも当たり前になったから、わざわざこう呼ぶ必要がなくなったのだ。そんなふうに解釈しています。


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