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2023年に観た舞台 - 上半期

ヲノサトルが2023年に観た舞台作品の備忘録です。

舞台は「消えモノ」。映画とちがって後から見直すことができない。最近は舞台を収録した動画配信も増えたけど、リアルタイムに劇場空間で観る体験とは全く別のコンテンツ。だから再演がない限り、もういちど観ることはできない。

ただし、いちど面白いと思ったカンパニーや役者や作演出家をおぼえておけば、また面白い作品に会える確率は上がるのではないだろうか。

なにしろ新作舞台の告知って、なんかふわっとした主宰者の散文みたいなものが載っているだけで、ストーリーや内容なんて全然書かれてないことが多い。おそらくチラシを印刷する上演数ヶ月前の段階では、まだ脚本もできていないから(微笑)。なので観客としては、映画のように「このストーリー面白そう!」と期待するよりも、おぼえた「名前」を信じるしかないのだ。

というわけで、ここに記録しておきます。
敬称略。コメントは批評ではなく個人の感想です



果てとチーク
『はやくぜんぶおわってしまえ』

1月19日 アトリエ春風舎(東京・小竹向原)

作/演出:升味加耀
ある女子高のミス/ミスターコンが突然、学校側の意向で中止された。実行委員の演劇部員たちは教師の指示に納得できず、放課後に議論を始める。ジェンダー、ルッキズム、性自認、アウティング、マンスプレイニングからギャラリーストーカーまで……今日の様々な問題系が、テンポ良い女子高生5人の会話でさらされていく。


青年団
『日本文学盛衰史』

1月27日 吉祥寺シアター(東京・武蔵野市)

作/演出:平田オリザ
高橋源一郎の情報過多な原作小説を「もしも明治大正の文豪たちが同業者のお通夜に集まったら、どんな会話が始まる?」という設定のシチュエーション・コメディ3幕に再構成。当時の文学者の来歴や人間関係にまつわる小ギャグの数々に笑わされながらも、日本の「近代」とは何だったのか、「文学」にはどんな力があるのか、見終わった後まで考えさせられる。


ピーピング・トム
『マザー』

2月7日 世田谷パブリックシアター(東京・三軒茶屋)

構成/演出:ガブリエラ・カリーソ
ベルギーのダンス・カンパニー来日公演。音屋としては全篇、舞台音響に耳が持っていかれた。リアルタイムに発する生音と、録音された音響の絶妙なミキシング。その場で物を叩いたりガシャガシャやってる音をエフェクト処理して、ダブ的なサウンドに仕立て上げたり。ノイズ音響が鳴る中でオペラのように歌唱する場面も。「ダンス公演」というより、歌もダンスもありの「不条理演劇」という印象を受けた。


温泉ドラゴン
『悼、灯、斉藤』

2月18日 東京芸術劇場 シアターイースト (東京・池袋)

作:原田ゆう 演出:シライケイタ
母の急死で実家に集まった斎藤家の三兄弟。葬儀の手続きやらカードの解約やら、やらなければならないことが山積み。仲は悪いが家族の縁は切ろうにも切れない。父や葬儀屋も巻き込んでわちゃわちゃ繰り広げられるホームドラマ。劇中の台詞には映画の題名や監督名が引用され、クエンティン・タランティーノ的な時間軸のモンタージュや、映画のカット編集のような場面転換が工夫されていた。作者、けっこうなシネフィルとみた。


カリンカ
『日記』

2月25日 OFF・OFFシアター(東京・下北沢)

主宰:橘花梨 作/演出:石黒麻衣(劇団普通)
地方都市のマンションが舞台。両親を引き取って同居する事になった妹夫婦のところに、姉夫婦が様子を見に来る。親子、姉妹、夫婦…… 気をつかったり腹を立てたりする家族間の心情のやりとりが丁寧に描かれていく。設定は北関東の中規模都市。どこの方言かわからないけど、皆が使う「〜でしょうよー。」という語尾が妙に心に残って、帰宅後さっそく自分も常用するようになってしまった(すぐに影響されちゃう人間なのです)


『掃除機』

3月11日 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ(横浜)

作:岡田利規 演出:本谷有希子
引きこもりの長女50代、無職の息子40代、父親80代、そしてこの3人家族を長年見守ってきた主人公の掃除機(栗原類)が織りなす歪(いびつ)なホームドラマ。蟻地獄のように傾斜した舞台装置、丁寧にコントロールされた照明に感服。良い意味で先が読めず「こう来るか」という展開が続く中、音楽担当だとばかり思ってた環ROYが役者として立ち上がり、奇妙にくねくね蠢きながらアマゾン倉庫のバイトがいかに「クソ」か語り始めるシーンが圧巻だった。


人形劇団ひとみ座
『モモ』

3月27日 シアターグリーン(東京・池袋)

この夏、日生劇場で上演される『劇場版 せかいいちのねこ』の音楽を担当することになったので、出演者となる人形劇団ひとみ座の皆さんがどのように人形をつかうのか拝見。演目はミヒャエル・エンデの文学。子供向けメルヘンのようでいて、大人も時間と人生について考えさせられる名作だ。開演直後から驚かされた。演者は文楽のように2〜3人がかりで1個のパペットを操作するのだが、操作しつつ声で「役」を演じ、なおかつ「俳優」として自身も表情豊かに演技するというマルチタスクっぷり。どれだけ稽古したら、こんな事ができるの!? と驚愕するアクロバティックな舞台。一度は見ておいて損はないです。


青年団
『ソウル市民』

4月25日 こまばアゴラ劇場 (東京・駒場)

作/演出:平田オリザ
言わずと知れた平田オリザの代表作を初見。文房具店主の父と後妻、読書家の姉、東京からの文通相手を待ち続ける妹、女と共にロシアに渡ろうとしている叔父、朝鮮人女中と駆け落ちしようとしている末男、どこかトゲのある日本人女中たち……都合18名のキャストが入れ替わり立ち替わり出入りしながら複数の会話が同時進行でクロスしていく構成の完成度は、緻密に振付されたダンスのよう。誰もが基本的には善意の人々でありながら、ちょっとした会話に偏見や差別感情が浮かび上がってくる描写が上手い。


ゆうめい
『ハートランド』

4月29日 東京芸術劇場 シアターイースト(東京・池袋)

作/演出:池田 亮
舞台となるのはブックカフェバー「ハートランド」。近所の住人やアーティスト、映画監督の息子と女優、外国人女性、映画泥棒……どこか癖のある人々がわちゃわちゃ集ってくる様子が「SNS」「NFT」「メタバース」といった今っぽいアイテムをからめて描かれる。「ハートランド」というからにはビールの話か?と思ったら、やはりビールを飲むシーンが頻出。喉が渇きまくって、観劇後にビールをがぶがぶ飲んだのは言うまでもない。


SPAC
『天守物語』

5月3日 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 (静岡市)

作:泉鏡花 演出:宮城聰
妖怪と侍の恋を描いた泉鏡花の幻想戯曲『天守物語』が、〈ふじのくに⇄せかい演劇祭〉野外劇として上演。当方、かつて能楽師の安田登さん一座でこの作品の上演に参加したことがあり、物語も台詞もわかっているだけに、どう演出するのか気になって観に行ったところ、音楽も衣装も含めて汎アジア的な神事を思わせる「芸能」になっていて楽しかった。神楽や薪能、あるいはバリ島のケチャなんかもだが、夜に野外で観る芸能って心の深いところをつかんでくる。初めて観るのになぜか懐かしいような心持ちにさせてくれる。見上げると月が舞台を照らしていた。


シアター・カンパニー・ドルパグ
『XXLレオタードとアナスイの手鏡』

5月4日 静岡芸術劇場 - SPAC (静岡市)

作:パク・チャンギュ 演出:チョン・インチョル
こちらも同じ演劇祭の参加作品。韓国で2014年に客船セウォル号が沈没事故を起こし、大勢の高校生が亡くなった衝撃的な事件を受けて、その世代が受けている様々な抑圧を演劇化したという。高校生6人と教師1人の日常を描いたアンサンブル劇で、教育や学歴、経済格差、ジェンダーや偏見……様々な悩みを抱える韓国の若者たちを活写。ステージは舞台袖も出入口もないホワイトキューブ空間で、表面上はクリーンだけど逃げ場がない彼らの息苦しさを象徴しているように見えた。


『虹む街の果て』

5月13日 KAAT神奈川芸術劇場(横浜)

作/演出:タニノクロウ
2年前に観た『虹む街』は、横浜の街や店を舞台美術で精巧に再現し、そこに暮らす多国籍な人々の生活をリアルに提示するような作品だった。その続編ということで、あの街がその後どうなったか確認したくて観劇。今回も一貫したストーリーというよりも、望遠鏡か何かで裏通りに棲息する人々の生活空間を覗き見ているような不思議な時間だった。音屋としては、要所要所で場面を活気づける渡辺庸介のバラエティ豊かな生演奏が心に残る。


日本のラジオ
『ココノイエノシュジンハビョウキデス』

6月3日 こまばアゴラ劇場

脚本/演出:屋代秀樹
古書店の夫婦とその妹、コミュ障な客の四者で展開する会話劇。表面上ごく日常的な時間が過ぎていくものの、どこか奇妙な、なんとも言えない薄気味悪さが漂い続ける。次第にその正体が明かされていき、最後はタイトルの意味がわかって、背筋が寒くなる結末であった。


ピンク・リバティ
『点滅する女』

6月24日 東京芸術劇場 シアターイースト(東京・池袋)

脚本/演出 山西竜矢
ある朝帰郷した妹とその姉に起きた過去の出来事を巡って、翌朝まで続く家族や周囲の人々とのやりとりが描かれていく。コミカルなのかシリアスなのか、トーンが読めない不思議な空気感。一家を取り仕切る母親(千葉雅子)の存在感が大きかった。女にだらしなくダメダメな父親(金子清文)も、じつにチャーミング。


桃尻犬
『瀬戸内の小さな蟲使い』

6月25日 OFFOFFシアター(東京・下北沢)

脚本/演出:野田慈伸
個人的には上半期いちばん気に入った作品。遊園地で、ある非常事態に巻き込まれた男女を描くシチュエーション・コメディなのだが、舞台装置は最小限に抑えて「これは一体どういう状況?」と思わせておき、たたみかける言葉と演技から少しずつ観客に今なにが起きているか想像させていく手腕が見事。その非常事態もなんとか解決して、そろそろ話が終わるのかな……と思っていると、そこから突如として予想の斜め上をいく展開に突入。以前に観た同じ劇団の『ルシオラ、来る塩田』も、途中まで兄妹のしんみりした話と思って見てたら後半エーッ!と驚くアクション劇になって爆笑したので、これが野田慈伸の作風なのだろう。もっと観たい。あと、てっぺい右利きのとぼけた味がとても気に入った


長くなりすぎましたね。
続きは【2023年に観た舞台 - 下半期】で。

ヲノサトル公式サイト wonosatoru.com


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