TAR/ター
作曲家であり、女性初のベルリン・フィル主席指揮者でもあるリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。だが学生への高圧的な発言の動画がSNSに流れて炎上したり、演奏者へのセクハラ疑惑がマスコミに取り上げられたりして、次第にその地位を追われていく心理サスペンス。
指揮者やオーケストラを主題とした作品ということで、随所にリハーサルやコンサートの場面が織り込まれているのだが、いずれもきわめてリアル。ケイト・ブランシェットの、演技とは思えぬ本格的な指揮っぷりに驚く。
だがクラシック音楽映画というだけでなく、これは一種の「音響ホラー」でもある。劇中では時々、説明のつかないノイズ・サウンドが聞こえてきて不安を煽るのだ。
夜中に別の部屋から聞こえてくる謎のビープ音。自分の後ろを得体の知れないごく小さな音量でゆっくりと移動していく得体の知れないノイズ。劇場のサラウンド・システムを駆使したサウンドデザインが、本作になんとも不吉で不快なムードを与えている。
作曲家の当方としては、作曲に没頭しているとき突然ドアをノックされたり、屋外でチャイムが鳴り出したりして、創作を中断させられる時のターのイラッとする気持ちに「あるある!」と共感しすぎて、心の中でターと一緒に何度も舌打ちさせられた(苦笑)
(2023.5.29)
http://www.wonosatoru.com
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