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映画の半分はサウンドである - 『プライベート・ライアン』

1998年 アメリカ映画(スティーヴン・スピルバーグ 監督)

戦争映画の名作としてあまりにも有名な本作だが、サウンド(音響)の効果的な使用という点でも秀逸な場面が多い。

まずは冒頭。連合軍の兵士を乗せた上陸用舟艇が、敵地の海岸に近づいていく。波音とエンジン音。船がビーチに近づき、いよいよ上陸となるが……

(※ 以下の動画には暴力シーンやグロテスクな内容が含まれます)

艇首の門扉が開いた瞬間に海岸からの猛烈な射撃が始まり、観客の目の前にいる兵士たちが、次々と殺戮されていく (1:56〜)。

公開時に劇場で見た時はドルビー・システムのサラウンド効果で、実際に敵弾が前方からビュンビュンこちらに飛んでくるように聞こえ、本当に戦場に突入してしまったかのような、恐ろしいほどの臨場感だった。

様子の見えない前方からビュンビュン弾丸が飛んでくる

兵士が落ちた海中の不気味な静けさと、水面に浮上した時の騒然とした様子も、サウンドのちがいで交互に表現されている (2:58〜)。

水の中にまで飛んでくる弾丸

トム・ハンクス演じるミラー大尉が砂浜にたどりついた時から、周囲の射撃音や騒音は消え、ゴーッと響く低いノイズだけになる (4:48〜)。

大尉がハッと我にかえるまで1分以上の間、周囲の悲惨な様子が目に見えるものの、耳には聞こえない状態が続く。

じっさい、人はあまりにも大きな衝撃を受けた時、周囲の音から聴覚が遮断されて体内の音だけが聴こえるようになるという。観客はこの場面で、大尉本人の感覚に同化し、戦場の地獄のような光景を呆然と見守ることになる。

そうやって突入していった敵地で、狙撃兵に狙われる場面がある。ここでもサウンドが、大きな効果を上げている。雨の中、遠くの教会の高い塔に潜むドイツの狙撃兵と、地上から見上げるアメリカ兵たち。

塔を見上げるアメリカ兵の周囲には、バシャバシャと地面に雨粒が叩きつけられる(2:14〜)。一方、塔内にこもったドイツ兵に聞こえるのは、屋根に降り注ぐ静かな雨音や建物のきしむ音だ(2:21〜)。

両者を映し出すショットが変わるたびに、これらの環境音も切り替わる。観客は、緊迫した両者の間を交互に行き来しながら、この対決を見守ることになる。

こうした細かい音響のデザインやミキシングが、観ている我々をリアルな戦場の中に没入させてくれる本作。まさに「映画の半分はサウンドである」ことを証明するような作品だ。

音響 : ゲイリー・ライドストロム
ジュラシック・パーク』の恐竜の声を作ったことでも知られるサウンドデザイナー。多くのスピルバーグ作品や『ミッション:インポッシブル』のような大作、『トイ・ストーリー』をはじめとするピクサー・アニメまで、作品多数。アカデミー賞も『タイタニック』(録音賞)『ターミネーター2』『ジュラシック・パーク』および本作(音響効果編集賞/録音賞)で4回受賞している。

映画の半分はサウンドである

週刊ヲノサトル season5 - vol.1 (2024.3.30-4.6)
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