とんがりえんぴつ【童話】
ここは、ヒロキくんの机の上。
文房具たちの暮らす街・ブンボグがありました。
ボールペンはボールのように机を転がり、その近くでは、定規がぴしっと交通整理中。
「こちらの漫画タワーには近づかないで下さい! 現在、バランスが非常に不安定です!」
ホッチキスの前では、プリントたちの大行列。
「押さないで、教科ごとに並んで下さい! ファイル行きは、穴開けパンチさんのほうに並んで下さい!」
真っ白な画用紙のトンネルでは、クレヨンたちがカラフルに塗装工事中。
とてもにぎやかな街でした。
そこに一本の鉛筆がやってきました。
「どうだい? 削り屋のおじいさんのところで削ったばかりの僕の頭は」
昨日まで丸かった鉛筆の芯の先は、針のようにとがっています。みんなに見せびらかすように、鉛筆は街を歩きました。
いつもは話しやすく、書きやすい鉛筆でしたが、今日は誰も近づこうとはしません。
「なんだい!」
机に落ちていた消しゴムのカスを蹴っ飛ばし、鉛筆は怒りました。
巡回中のクリーナーが、慌ててやってきました。
「そんなにとがって、どうするの?」
「かっこいいだろう?」
「怖いから、キャップをかぶってよ」
「嫌だよ」
鉛筆は聞く耳を持たないし、言葉までいつもよりとがっていました。
ある晩、鉛筆は机の下へと旅に出ることにしました。
「ここじゃ、誰も僕のことをわかってくれないんだ」
真っ暗な中を、蛍光ペンの光を道標に机の端までやってきました。
鉛筆は、セロテープを体にくっつけると、真下へとジャンプしました。
「ひゃっほー!」
朝になって明るくなると、鉛筆は広いカーペットの大地を転がりました。
ベッドの下はひんやりと涼しく、下から見上げる本棚はすごい迫力、テレビだって特等席から見ることだってできます。
「ここには楽しいことがいっぱいだなぁ」
最初は楽しい旅でしたが、ここには危険もいっぱいでした。
ヒロキくんの足に何度も踏まれそうになったり、ママが部屋で掃除機をかけたり大変。
おまけに、グローブと野球ボールが、鉛筆を追いかけてきたり、ゲーム機たちには相手にもされませんでした。
ついに自慢のとがった芯の先が、ポキッと折れてしまいました。
「ここでは、誰も僕を必要としてくれない。みんなとまた会いたいよ……」
祈るように鉛筆が天井を見上げると、何かが飛んできました。
「あっ」
それは、折り紙の飛行機でした。
「さぁ、風がやまないうちに早く」
「う、うん」
この風は、ヒロキくんが下敷きで扇いでいる風でした。
鉛筆を乗せた紙飛行機は風に乗って、高く高く舞い上がりました。
天井近くから見る部屋の景色は、今までに見たことのない絶景でした。
机の上にはみんなの姿も見えます。
「鉛筆くんが帰ってきた! おかえり!」
「みんな、僕のこと嫌いじゃなかったの?」
「ちょっととがっていたけど、君は真っ直ぐな芯の持ち主だからね」
「みんな、ありがとう……」
机の上では、ノートが鉛筆の帰りを待っていました。
「あなたがいないと始まらないわ」
「ノートちゃん……」
鉛筆は、ノートをめがけて飛びました。
「あれ? 鉛筆、こんなところにあったんだ」
お気に入りの鉛筆が戻ってきて、ヒロキくんは机に向かい、勉強を始めました。
それから、鉛筆は、旅で見た色々な景色をノートに書いては、みんなを楽しませたとか。
(了)
読んでいただきありがとうございます。
そるとばたあ@ことばの遊び人です。普段は400字のショートショートを中心にLIVE形式のnoteを書いています。
今週末の土日にかけてはそちらをお休みにして、過去に書いた作品や未発表の作品をnoteにupしていきたいと思います。
今日29日(日)は、DAY2 Sun Stage
5本の作品をupします。
このお話は、Sun Stageの3本目です。
次のお話は、ファンタジーなショートストーリーなのでそちらもお楽しみに!
(↑Sun Stage①EGG ~浮遊移動式独立住居型万能椅子~【ショートショート】)
(↑Sun Stage②モーモーパニック【ショートショート】)
文章や物語ならではの、エンターテインメントに挑戦しています! 読んだ方をとにかくワクワクさせる言葉や、表現を探しています!