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男友達の結婚-ベスト・フレンズ・ウエディング-

ジュリア・ロバーツ主演の「ベストフレンズウエディング」は、好きな映画の一つだ。
美人でクールなジュリア・ロバーツが、モノの見事に道化役。
彼女は、かつての恋人であり現在の親友である男性と6年前に交わした「28歳でお互い独身だったら結婚しよう」という約束をどこかで信じている。
ところが、28歳の誕生日直前、その男性は別の女性と結婚すると言い出して、彼女はその結婚を止めようと奔走するのだ。

しかも、その恋敵にあたる、幸せな花嫁というのが、駆け出しの頃のキャメロン・ディアス。
これがまた超かわいい。顔を真っ赤にして下手くそなカラオケを歌うキュートな姿に、私は正直、参ってしまった。
だめだ。こんな花嫁に勝てない・・・。

親友の結婚式。
それが異性のものだとすると、「選ばなかった未来」を多かれ少なかれイメージするものかもしれない。
もしも彼の隣にいるのが私だったら・・・と。
あるいは、彼の隣にいるのは私だったはずなのに・・・と。

この前の土曜日、男友達の結婚披露宴に行った。
前の会社の同期だ。
かつて何度か男性から結婚式の招待状をもらったことがあるのだけれど、今まではほとんどお断りしてきた。
そういうわけで、これが初めての男友達の結婚式。

私は男のマリッジブルーに付き合わされることが多い。
結婚が決まった。来月結婚する。来週結婚する。
そういう男が、なぜだか知らないけれど、突然電話してくる。
久しぶりに食事に行こうとか、真夜中に今から飲まないかとか、果てはわざわざ大阪から来てしまって「今近くまで来てるんだけど」なんていう男までいる。
かつて恋人だった人もいれば、恋人未満で終わった人もいる。単なる会社の先輩だったり、長く会っていない友人だったりもする。
会ってみれば、もちろん私は彼をなだめることになる。
「彼女を大切にしなくちゃ」
彼は、その彼女と私の違いについてあげつらう。
果ては、自分の母親の意見まで出してくる。
決まって、その結婚しようとしている人というのは、とてもかわいらしく、どちらかというと控えめで、家庭的な感じの人だ。

だってその人を選んだのはあなたでしょう?
あなたは私にプロポーズしたわけじゃないわ。

でもそんな男性たちも、無事に結婚して、子供なんかできちゃって、スリーショットの写真を嬉しげに年賀状で送ってきたりするのだから、おめでたいことだ。
マリッジブルーなんて、所詮、そんなもの。

そんなのにばかり付き合わされる私って、なんなんだろう?
物語的には「結婚したかった」女というのはカッコよさそうだけれど、現実的には「結局結婚した」女の方がずっといい。
ああ、彼らの独身時代の思い出になるのね、私って。
嬉しくない。全然嬉しくない。

今回の式に素直に出席できたのは、彼が私にマリッジブルーのとばっちりなんて与えなかったからだし、同時に私も彼に対しては純粋な敬意を感じているから。
彼は本当にすばらしい人だ。

もう3年くらい前のこと、仕事のストレスやらプライベートなゴタゴタが重なって随分疲弊していたとき、彼に一日デートしてもらった。
温泉と蕎麦とクラシック音楽に詳しい彼は、8連CDチェンジャー1ローテーション分のドライブ(もちろん全てクラシック)とそのウンチク、立ち寄り湯と更科蕎麦で私を楽しませてくれた。
おまけに彼の恋人との、とても素敵な馴れ初め話を聞かせてくれた。

東京・芝浦。
就職活動で某電機メーカーの会社説明会に参加した彼は、内容がつまらなくて途中で席を立った。
エレベーターに乗ると、一緒に一人の女子学生が乗ってきた。
出口まで行くと、外は雨が降っていた。

隣にいた女子学生は傘をもっていなかった。
彼は傘を持っていた。
困った様子の彼女に、彼は声をかけた。
「一緒に入っていきませんか?」

彼はとてもシャイな人だ。
慎み深く、でしゃばらず、女性に対しては丁寧だけれどごくごく奥手だ。
そんな彼だけれど、そのときだけは自分から声をかけた。
こんなことは後にも先にも一度きりだったと彼は照れたように言っていた。
たぶん下心といえるほどのものはなく、ただ彼は彼女を無視し切れなかっただけに違いない。
それでも、どこかで予感のようなものが働いていたのかもしれない。

その後、彼らがすぐに付き合い始めたわけではない。
彼女は東京出身だけれど、京都の大学に通っていた。
即座に遠距離恋愛を始めなかったのは、また彼らしい慎み深さのせいかもしれない。

彼が京都を旅行したときや、彼女が東京に戻ったときなどに、ふたりは何度か会うことがあった。
やがて大学を卒業して、彼は愛知県へ移り住み、彼女は東京に戻ってスチュワーデスになった。
それでも恋愛は始まらなかった。

彼にはその後、別の恋人ができた。
ずっと憧れ続けていた高校時代の同級生だった。
けれど、その恋はうまくいかず、彼は疲れ果ててしまった。
その傷が癒えるか癒えないかという頃、久しぶりに彼女とメールのやりとりをした。

思い立って彼は、彼女を京都旅行に誘った。
「ことわっておくけれど、泊まる部屋は別々だったからね」
一生懸命弁明してたけれど、そんなこと聞かなくったって分かってる。
彼は間違いなくそういう人だし、私は彼を信じている。
私を信じさせてくれるに足る、彼は徹頭徹尾誠実な人だ。
私たちの付き合いはもう5年半になるので、その間には、もちろん、彼が弱音をはくところや、モラルを犯すところだって見たことがある。
でも、それでも、私は彼を信じている。
彼の芯の部分が、そう信じさせてくれる。

「よく彼女は来てくれたと思うよ。突然だったし、僕たちはそんな関係じゃなかったからね」
それは、きっと彼女も、彼の芯を信じていたからだと思う。
そして、彼らは遠距離の関係のまま、ついに恋愛を始めることになった。
「京都に行こうと決めたときには、まだそんな気があったわけじゃないんだけど、でも、旅行をしている間に、この人かもしれないって思ったんだ。彼女もその場で応じてくれてびっくりしたよ」

とても彼らしい、静かで確実な恋の始まりだったと思う。
一つ一つ確認して、丁寧に丁寧に関係を育んでいったんだろう。

それから4年。
彼らは先日結婚した。
私が彼にその話を聞いたのが3年前だから、あのときはまだ付き合い始めて1年だったんだな。

パーティの間、一瞬も「彼の隣にいるのが私だったら・・・」と考えなかったかというと嘘になる。
でも純粋に、本当に、嬉しかった。
心から尊敬する友人が、私と同じように彼を尊敬する人々に祝福されていることにも感動した。

彼と私は大学も最初に入社した会社も同じなのだけれど、もう一人、同じ大学、同じ会社の同期がそのパーティに来ていた。
その男友達も、10月に結婚するのだと言う。
私も彼ら2人も、数年前は同様に、仕事だ恋愛だいろいろ悩んでいたっけと思い出された。
その数年の過ごし方が、それぞれの現在を決めているのだと思うと、我ながら苦笑いしてしまう。

社会人になったばかりの頃に比べたら、私もいろいろ変わった。
別人と思えるくらいの価値観の転換もあった。
転職もしたし、住む場所も変えて、友達も増えたし、いくつか恋もした。
これからも私はいろんな経験をして、きっと変わっていくだろう。
いつか結婚もするだろう。

私はマリッジブルーになって男を困らせたりなんかしない。
きっと確信に満ちた選択をするはずだ。
選ばなかった未来を想像するのは、私じゃない。
私はきっと、招待した男友達に「彼女の隣にいるのが俺だったら・・・」と想像させるはずだ。


ベスト・フレンズ・ウェディング My Best Friend's Wedding(1997年・米)
監督:P.J.ホーガン
出演:ジュリア・ロバーツ、ダーモット・マロニー 、キャメロン・ディアス他

■2004/8/19投稿の記事
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