物語が生まれる街-スパイダー・マン-
摩天楼は山であり谷だ。
切り立った崖の連なり、影の落ちる峡谷。
谷底から見上げれば、尖った山が天空を削るほどにそびえ立つ。
尾根に立って見下ろせば、狭く深く暗い裂け目に膝が笑う。
そのマンハッタン峡谷を自由自在、蜘蛛の糸にぶら下がり、ターザンみたく駆け巡る。
大きなスイングでビルからビルへ。
しなやかな跳躍、目を奪う速度。
スパイダーマンが大都会に躍動する姿は感動に等しい。
縦方向の直線に比べ、マンハッタンの道は不釣合いなほど狭く感じる。
80階を超えるほどの高層ビルが、たった4車線の一方通行の道に面していることもままだ。
超高層ビルがまさに林のごとく狭い地域に密集する様子は、東京を含め世界数ある都市の中でもなかなか見られない特徴的なものだと言える。
その理由は、建蔽率や容積率に関わる法規制にあるのだろうと予想する。
日本では、高層ビルにはそれ相応の床面積があるように思うし、だから全体にぼってりどっしりとしたシルエットのイメージがあるが、マンハッタンでは、まるで鉛筆みたいに華奢でスタイリッシュなそれが多いのだ。
高層建築は日光を遮って、街路に陰を作る。
低層階から掲げられた星条旗が通行人の頭上で誇り高くはためく。
JFK空港からガソリンくさいタクシーに乗り、クイーンズを抜けて臨んだ、引きのアングルのマンハッタン島を見て、「レゴブロックみたい」だと感じた。
綺麗に揃ってイーストリバーに顔を向けた地上300メートルを超えるビルの森。
規則正しく肩を寄せて並び、その狭間の道もまた規則正しく南北東西に横切っている。
それは全てのビルが同じ方向を向いているということだし、全ての道が長い直線で、遠くを見渡せる構造になっているということでもある。
特に東西の道は、前を向いても後ろを向いても海へとつながる。
山手線の内側ほどの広さのマンハッタン島。
その狭苦しさはかえって心地が良い感じ。
あの影と律儀さと窮屈さと雑多さが、物語を生むのだなと思う。
街角に恋、裏窓にミステリー、展望台にサスペンス。
そして街全体を駆け抜ける壮大なアクション・ストーリー。
CGを駆使して2002年に蘇った作品「スパイダーマン」には、ニューヨークという街への愛情さえ感じる。
この街にしか生まれない物語を感じる。
冬空に霞んだフィクションみたいな景観。
レゴを並べたドラマの都市。
ただ、それを眺めるだけで胸が震えた。
スパイダーマン Spider-man(2002年・米)
監督:サム・ライミ
出演:トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、ウィレム・デフォー
■2006/11/25投稿の記事
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