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旅の思い出

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旅の記録のつめあわせ
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#ニューヨーク

物語が生まれる街-スパイダー・マン-

摩天楼は山であり谷だ。 切り立った崖の連なり、影の落ちる峡谷。 谷底から見上げれば、尖った山が天空を削るほどにそびえ立つ。 尾根に立って見下ろせば、狭く深く暗い裂け目に膝が笑う。 そのマンハッタン峡谷を自由自在、蜘蛛の糸にぶら下がり、ターザンみたく駆け巡る。 大きなスイングでビルからビルへ。 しなやかな跳躍、目を奪う速度。 スパイダーマンが大都会に躍動する姿は感動に等しい。 縦方向の直線に比べ、マンハッタンの道は不釣合いなほど狭く感じる。 80階を超えるほどの高層ビルが

最高のおもいつき-ニューヨーク・ストーリー-

「今年もロックフェラーセンターのスケートリンクがオープン」 あるブログの記事を読んで、私は反射的に思ったのだ。 「そうだ、ニューヨークでアイススケートをしよう」 並び立つ星条旗が風にひるがえる摩天楼の狭間、周囲より1階分くりぬいたように窪んだスペースに、小さなスケートリンクがある。 そのリンクを中心に据えてロックフェラーセンターは立ちはだかっていると言ってもいい。 そこは観光地でもあるしオフィスビルでもあり、ショッピングセンターでもあって、多くの人がビジネスミーティングの

The one where the Indians-ライ麦畑でつかまえて-

ニューヨークでは、「それ何日間で?」と訊かれるほど多くの予定をこなした。 これは私の旅のスタイルとはちょっと違うのだけれど、なにせ短い日程で、当初思っていたよりずっと多くのやりたいことが見つかったので、結果的に相当詰め込み型の強行スケジュールとなってしまったのだ。 世界最高峰のコレクションが収められた数々のMuseumはニューヨーク観光の目玉の一つだが、ただ、Museumめぐりには時間がかかることが難点だ。 広い館内を観てまわるだけで数時間必要だし、入館するまでの長い行列も

コスモポリタン-ニューヨーク東8番街の奇跡-

つまりニューヨークは、移民の街だ。 歴史的な成り立ちをしてもそうだし、現在においても、マンハッタンの住民の6割は移民一世だと言うのだから、その事実は増殖を続けていると言っていい。 よく言われることだが、タクシーに乗るとそれを如実に体験できる。 決して、英語を母国語とするドライバーに出逢わないのだ。 十中八九、彼らの英語は私に負けず劣らずの片言で、運転の間中はイヤホンマイクの携帯電話で耳慣れない「どこか他の国」の言葉をしゃべりっぱなしと決まっている。 映画「ナイト・オン・プ

アメリカ!-海の上のピアニスト-

毎日同じだった。 誰かが目を上げ彼女を見る。 理解できないことだ。 船には1000人を超える乗客が乗ってた。 金持ちの旅行者、移民たち、得体の知れぬ連中、おれたち。 それなのにいつもたった1人だけが、最初に『彼女』を見る。 何かを食ってたりデッキを歩いてたり、ズボンのベルトを締めてひょいと海のかなたに目をやった一瞬『彼女」を見るのだ。 彼はその場に立ち尽くす。 高鳴る胸の鼓動。 そして誓ってもいいが皆同じことをする。 皆のいる甲板に向き直って、声の限りに叫ぶ『アメリカ