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家族留学がコロナでめちゃくちゃ 第4話 IELTSの壁(後編)

前話までのまとめ

家族留学という夫婦共通の夢の実現に向け、留学したい大学のリストも完成し、当面の課題はIELTSで教育修士入学の基準点(スピーキングとリスニングで8以上、ライティングとリーディングで7以上、以下SL8/WR7と表記、※注記1も参照のこと)を叩き出すこととなった。最初の2回は高得点の原則を理解せず受験していたため中途半端な結果に終わってしまう。ゲームのルールを理解し、戦略を大きく変えることになったが、「ルールを理解する」ことと「できるようになること」はまた別の問題だった。

※注記1:前回も触れたが、実は7.0くらいから入れるところがNSW以外の州にはいくつかあることが途中で判明した。ただし、筆者が入学を希望する大学院はいずれもSL8/WR7を基準としていた。

最優先はスピーキングの+1.5ポイント

最終的にIELTSを6回受験したので、十数万円は費やしたことになる。毎回リスニングとリーディングは最低でも必ず8.0以上、ときには9.0を取っていたので大きく心配しなかったが、問題はライティングとスピーキングだった。2019年5月の一度目はライティングで6.5、9月の二度目はスピーキングで6.5という残念すぎる点数となった。この2技能は5回目の受験までいずれも7.0を超えなかった。

目標はSL8/WR7だから、ライティングの6.5(0.5点不足)よりスピーキングの6.5(1.5点不足)のほうが深刻な低得点ということになる。そして、ことスピーキングに関しては、度重なる失敗からただペラペラと喋るだけでは6.5や7.0の壁を超えられないことがはっきりしていた。(追記:ここで「ただペラペラと」というのは「ブロークンだがたくさん喋る」ということではない。正しい文法と通じる発音で喋っているが、平易な表現の範囲を出ない状態のこと。)通じればよいというマインドセットを捨て、高度な語彙や文法を織り交ぜつつどんなトピックにも対応し、よどみなくわかりやすく喋る。これらを達成しなければ、スピーキングの不足する1.5点を埋めることは叶いそうにない。だが一体どうすればそんな芸当をやってのけられるのだろうか。本稿(後編)では、筆者が目標達成に向けどの程度の時間をかけ、具体的にどのようなトレーニングを組み、最終的にどのような結果となったかを、「複雑さと流暢さの両立」「高度な文法の学習」「語彙の増強」の3つの観点に分けて説明したい。

表現の複雑さと流れの良さの両立

合格点までの課題は多くあったが、筆者にとっての最重要ポイントは表現の複雑さと流れの良さの両立だった。それぞれ別個にできるというのではなく、会話していてどちらも同時に実現・実演できている状態だ。表現の複雑さというのはより複雑な文法低頻度の語彙やイディオムなど、英語という言語のレパートリーの当然の一部と考えられているが義務ではないような表現のことで、決して「話の内容の難解さ」のことではない。この部分については後段の文法や語彙のセクションで説明する。一方、流れの良さとはただ速く喋るというだけではなくスピーチに明快で立体的な構造を持たせ、かつそれを明示しながら自分の意見の論理構造に沿って聞き手を丁寧に道案内できるという意味である。英語力が半端な状態でわざと複雑な構文で話そうと思えば、自然と言いよどんだり会話のスムーズさを犠牲にすることになる。また、不十分な英語力で流暢さを優先すれば平易な表現ばかり飛び出すことになり、複雑さの得点を期待できない。どちらも十分にこなせるだけの英語の底力が必要になる。

このトレードオフは外国語として英語を学ぶ者の永遠のテーマのようなものだが、筆者はIELTSに向けて流れの良さのトレーニングをベースとして複雑な表現を織り込んでいくことを基本方針とした。語彙や文法の学習の派生として会話に取り組むのとは逆の組み立て方だ。この方針に沿って、会話の瞬発力を高めるためにいつかやってみたいとずっと考えていた英会話自動質問マシン(仮)をついに組み上げ、これを練習の土台とすることにした。この「マシン」は数百種類のConversation Starter(必ずしも英語学習用ではないがGoogleで検索して適当に集めたもの)を間隔反復記憶アプリであるAnkiに仕込んで音声合成で読み上げさせるもので、例えば1問につき30秒以内に返答+理由+事例を喋ることができれば「正解」、流れがよくなかったり詰まったりしたと自己判断したら「不正解」として、一定時間で強制的に次の質問へ進む。たった15分の練習でも20以上の質問に次々答えさせられていくので勝手に「英会話のHIIT(High-Intensity Interval Training)」と呼んで重宝していた。スピーキング練習用アプリで自動的に質問を投げかけてくれるものは他にもありそうだが、語彙学習と一本化できることと、カスタマイズの自由度の高さでAnkiを使っている。

実際のAnki(Android版なのでAnkiDroid)スクリーンショット

これは流れの良さのトレーニングとしては効果抜群だった。Ankiを使う以前は、さあこれからスピーキングの練習をするぞという場合にどうにも身構えてしまい「今日はファッション関連のトピックにしよう」などと勝手に安全弁を付け加えがちだった(もちろん練習の目的によってはそうすることも必要だが)。しかしAnkiはのべつまくなしにあらゆるトピックを横断して、40秒ごとのペースでマシンガンのように質問をまくしたててくる。どうも文法力とか語彙力とは別個の独立した「会話応答の瞬発力」とでもいったものがおそらく存在しており、自分はそれをずっとおろそかにし続けていたのだということに、この練習を通して初めて気づいたのだった。

こう書くと「どんな話題にも応答できる底の深い物知りにならなければいけない=話題の引き出しを増やせ」という類の話に聞こえかねないが、それともまたちょっと違う。対人の会話においては、あるトピックについてほとんど知らなかったとしても、無言で考え続けて相手を待たせるようなことはしない。他人が言っていたことを引き合いに出してみたり、自分の得意分野に結び付けたり、素直に「良く知らないが自分の中ではこういう理解だ」と申し出たりして会話をつなぐことが最優先のはずだ。ところが自分ペースの独学英会話練習では考え込んで黙り込んでしまうことがしばしばあり、実はそうする度に瞬発力強化のチャンスを失っていたのだった。Ankiを使った質問マシンガン装置はこの弱点を打破してくれた。応答の瞬発力はあくまで流れの良さの要素の一つに過ぎないが、筆者にとって頼もしいツールとなった。

さて、この学習法をベースにして表現の複雑さと流れの良さを両立させ、IELTSのSpeaking 8.0を達成するため、倒置や強調構文、仮定法、ピンポイントの低頻度語彙や慣用表現などを2~3任意に選んでメモ用紙などに書きつけ、返答に自然に織り込んで発話できることをトレーニングの目標に加えてみた。例えば「どんな質問にも仮定法過去完了を加えて返答する」などと決めて10問チャレンジしてみるのだ。トピックの性質上どうしても仮定法過去完了が使えないこともまれにあるが、ゆっくり考えればたいてい無理のない展開が思い浮かぶ。What colour do you like? のような単純な質問ですら、I like everything around me to be turquoise blue, and not just normal generic blue …. Had I liked a more common colour I wouldn't have had to wait for ages before purchasing my first car. などと、特段無理やりというほどでもない形で仮定法過去完了(ついでに倒置)が織り込める。

「仮定法過去完了を必ず使う」などと言うと「なんと不自然な会話練習か」とお叱りを頂きそうだが、文法用語から離れて単純に考えてみれば「あのとき〇〇ならこんなふうじゃなかったんだけどね」的な軽口を必ず叩くという会話ゲームに過ぎず、自然ではないかもしれないが無理難題というほどでもない。ともかく、この行程を繰り返して慣れることによって、本当にそうすることが自然で、本当にそうするべきいざというときに、ノロノロと考えることなく口をついて高度な表現が出てくることを狙うのだ。文法だけでなくget a kick out ofとかonly when pigs flyなど汎用性の高い慣用表現、あるいはことわざなどでもこの方法は応用できる。筆者自身の体感としては、効果のあるトレーニングだったと考えている。大切なのは、流れの良さの土台の上に複雑な高度表現を乗せるという順序であって、これを逆にしてはいけないというのが実体験に基づく感想だ。仮定法過去完了を言えないときは言えない。それは仕方ない。それでも流れの良さだけはクリアして粛々と練習を続ける。

文法は一通り覚えてしまった学習者にとって「文法のインプット」とは何か

Ankiから次々と流れてくるConversation Startersでランダムに質問をこなしているだけでは不慣れなトピックに対応するバランスが取れないため、自分が不慣れだと感じた話題の方面には積極的にインプットのアプローチをとる必要がある。このとき、語彙力については後述するように単語帳を用いることで未知語・苦手語の把握が容易になり、低習熟のものに集中して読み漁っていくような学習法が可能だが、文法(語法ではなく)の場合高校卒業以上では新規のものはほとんどない。つまり、上述の単語帳に相当する学習ツールが実質的に存在しないのだ。代わって筆者が頼ったのが「実例を探す」という方法だった。

卑近な例だが例えば受験文法として常に槍玉に挙げられてきたものに「クジラ構文」というのがあり、「ネイティブは使わない」とか「現代の英語ではない」とかめちゃくちゃなこと(※注記2参照)を言われ続けてきているのだが、なら現代のソースでこれを喋っている例を見つけようと決めてみる。IELTSの高得点を目指していて当然様々な英語系のPodcastやYouTubeなど(ちなみに筆者はAll Ears English IELTS Energy 7+のジェシカのファン)に日々触れていたとしても、クジラ構文を探すぞと決意してから実例に出会えるまでちょっと時間がかかるかもしれない。筆者の場合も「そういえばそんなのあったな」と意識してからすぐに見つけられたわけではないが、数週間以内には複数発見できた。

最も印象に残っていてノートに書き留めた例が以下の数学系YouTubeチャンネルNumberphileの「ゼロで割ってはいけない理由」を説明した動画だ。2:12あたりから、「単純に『ゼロで割ったら無限大』と言うわけにもいかないのだ」ということを説明するくだりでWe can't say one divided by zero equals infinity.  We can no more say that than we can say one divided by zero equals blue. と発言しているのが確認できる。無限は概念であって数値ではない、ということを「『青』が数値ではないのと同じことだ」と引き合いに出して説明している。

こういった「実例探し」のインプット学習を通じて、クジラ構文は古語でも死語でもなく間違いなく現代のネイティブがリアルで使う表現の一つだということがよく分かるし、どのようなコンテクストで使うのかも習得できる。そうしたら次は実際に自分が使ってみる番だ。用例を集めるにあたって筆者の場合は項目別にノートのページを取り、例文とコンテクストを書き込んでいくシンプルな方法(語彙学習のセクションで後述するものと同一)を採用したが、これは該当のページをそのまま前述の強制会話トレーニングに使えるというメリットがある。(Conversation Starterの質問にクジラ構文を使って返答するという制約を加えたときには、さすがに難しすぎて頭がパンクしそうになったが……。)

※注記2:この類の「ネイティブが言う言わない」論争は、言語の本質の根本的な誤解に起因すると思う。「ほとんど誰も使わない表現」イコール「死語・使っても理解されない・笑われる」というのは短絡的でせいぜい部分的にしか正しくない(両者は包含関係だがイコールではない)。母語でも外国語でも受容語彙と産出語彙は大きく異なる。例えば日本語なら「あでやか」とか「おもねる」などの「成人話者のうち5%くらいしか実際に口に出しては言わないが9割以上が何となく理解し現役で使われている表現」というカテゴリがあることに気づけば、冒頭のような誤った結論には至るまい。もし難しい表現を使ってネイティブに笑われたとしたら、「死語だから笑われたんだ、こんな表現必要ない」と切り捨てる前に、その語彙や表現のレジスターあるいは適切なコンテクストまできちんと押さえて学習していなかった可能性の方を疑うべきだ。異性をナンパするのに「電話番号をつまびらかにしてほしい」と言ったら笑われるにきまっているが、だからといって「つまびらか」が死語だという結論には当然ならない。(そしてもちろん、死語ではないからといってじゃあ大学受験で出すべきなのかということも、また本当に言うほど出題されているのかという点も、それぞれまったく別の問題だ。)

人生二度目に本格的に取り組んだ語彙力の強化

ここまで「表現の複雑さと流れの良さの両立」「高度文法学習のインプット」に焦点を当てたが、もう一点「SL8/WR7」達成のために注力したのが語彙力強化だった。大学時代に英検やTOEICのために使っていた「緑の本」と「白い本」を本棚から引っ張り出してくるところがスタート地点だ。

「緑の本」こと『英検Pass単熟語1級改訂版』(旺文社)
「白い本」こと『TOEIT TEST 3000語完全マスター』(語研)

この古い2冊だが、当時も今も教材マニアではないので、収録語彙とか学習効率とかにあまりこだわりはなく、書店の在庫の中でいちばん難しそうな本をとりあえず一冊ずつそろえた感じだった。学生時代はこれらの語彙を「読める」ようになることが勉強の主目的で、読めるようになった単語からそのうち自然と話す・書くためにも使っていくようになった。しかし今回は「そのうち自然と」を待っているほど悠長では困る。この2冊は低頻度でニッチな語彙をどれだけ自分の発話語彙とできているか確かめる指標として使うことができる。もちろん、長年「伝わればよい」基準で英語をやってきた筆者だったから、この手の単語帳のうち発話語彙として淀みなくすらすら使いこなしているものは悲しいほど少なかった。ただありがたいことに、10年以上たっていてもかなりの単語は聞いたり読んだりすれば理解できる力をとどめていた。これを踏み石として、ライティングやスピーキングで使うことを意識した単語帳学習を再開した。

するとしばらくして、こちらの「金色の本」が発売され、悪い癖で表紙買いしてしまった。これがIELTSのためにわざわざ買った唯一の単語本となった。

「金色の本」こと『英語を英語で理解する英英英単語超上級編』(ジャパンタイムズ)

この本はトピック別になっていないことがアマゾンレビューで指摘されていたりしたが、むしろ収録された1000語を自分なりにトピックごとに分ける作業を通じてかなりの語彙を吸収できたと感じる。当時往復二時間の電車通勤族だったため、ポッドキャストと並んでこの時間に定義と例文付きのMP3音声ダウンロード(1000ファイル!)をフル活用することができた。MP3のプレイリストもトピック別に作り、「もうほぼ覚えたな」と思った語から消去していった。プレイリストの収録曲数が減っていくのが上達の実感となっていく。数十語がまとまって一本のMP3になっている形式ではできない操作であり、一語一ファイル方式の重要な利点だ。(ちなみにだがengenderの例文音声でendangerと発音を間違えているのと、tenetの例文音声の終わりに「……カラテかカラーディか、どっちの発音がいい?」という録音時のスタジオのやり取りがカットされずに残っていておもしろい。)

途中からは、これらの3冊の本から自分用のトピック別語彙学習ノートに単語をまとめ直し、さらにポッドキャストやYouTubeなどから得る語句をそのノートに追加していくという、「まともな」語彙学習の方法にようやくたどり着いていった。前述の通りこのノートはスピーキング練習と組み合わせて使う前提の「産出語彙強化」のためのノートなので、トピック別と言っても「一般的にどんな文章に出てくるか」ではなく「どんな話題で自分が使いたいか」を基準にしてまとめてある。だから、例えばdexterityという単語は「教育」や「児童発達」の項目に入れて然るべきところを、自分基準で「音楽」のトピックに入れている。幼少期から楽器を習うことでmanual dexterity (or fine motor skills)がよく発達し、ひいては学力などとも相関するという研究(実際の論文はいくつもあるが例えばこれ)が印象に残っており、自分がdexterityという言葉を使う機会があるとしたらこのコンテクストで使う可能性が最も高いからだ。また、「ファッション」と「健康」が一つのトピックとしてページを共有している。これは自分がファッションに俄然疎く、たとえIELTSのためだとしてもどうしても興味が沸かないためだ。直球で喋ろうものなら何も出てこず撃沈するに決まっているので、「どんな高価な服も不摂生でだらしない体には似合わない、健康に維持された身体こそ、あらゆる衣服をもっとも魅力的なファッションに変える」という詭弁で逃げようと画策しているからだ。

このように、産出語彙強化のためのノートづくりは極めてパーソナルなものになる。自分にどんな思考の偏りがあり、どんなことなら嬉々として喋るのか、よくよく自己観察しなければうまくいかない。独りで集中して行うマインドマップ作りの作業にも似ている。他者視点から見ていかに辻褄の合わないカテゴライズになっていようとも、自分にとって喋りたい内容ときちんと繋がった形で単語を蒐集していくことが重要だ。自分の言いたいことと結び付けて新規語彙を覚えるということは、自分の主張に説得力を持たせ議論で優位に立つのに益することをしているのだから、ドーパミンが出る作業の一種なのだ。「次にこの持論を展開するときには、こんなハイレベルな単語を使ってやるぞ」というわけだ。ただ一般的語義に従ってカテゴリ分けするのとは学習効果が大きく違う。外界のもの(英単語)を取り込むというオーソドックスな学習形態と、内省的なものを外に放出していくアート的で若干宗教的な行為とをノートの上で結び付け、整理し形にしていく、若干変態的な知的作業だ。筆者にとっては楽しい時間だったし、はっきりと産出語彙力の増強を実感した。IELTSの目標点数に届いたとしても、まだまだ続けたいと言える一生モノの学習だ。

念願の合格

結論を言うと、上記のトレーニングの賜物かまぐれ当たりか、とにかく2020年7月に目標点(SL8/WR7)に到達することができた。合格点を達成した回のスピーキングでは、確かに一段階違った英語が口から出てくるのを実感した。意識的にやっていた部分もあるし英語力の向上の結果自然に出てきた部分もある。まあまあ高度な語彙かなと思うものとしてperipheralとかbe immersed inなど、文法としてはHad it been another day we wouldn't have had chances to … やら Not only can they … but also … やらをわざとらしくねじ込み、流暢さと結束性のスコアを多少上げたかなと思う要素としては Now, why I say this, because … とか As someone in the … industry myself, I would say … などと喋っていたことが、手元のメモに残っている。ここに辿り着くためにかかった時間という点だけで見ると、最初のチャレンジが2019年5月で、最後に基準をクリアできたのが2020年7月の5回目の挑戦だったから、まる一年強の時間をかけたことになる。

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オーバーオール8.5(CEFR C2)を達成した最終結果とそれまでの残念結果一覧

結果一覧を見るともう少し分かってくることがある。2019年9月7日のみ「2DAY」で受験したが、このときのスピーキングが最も低得点だった。人それぞれだと思うが、自分の場合ライティング・リーディング・リスニングの3技能を経て脳内英語エンジンがフル回転した状態でスピーキングを受けたほうが思う存分話せるという感覚がある。一晩寝て起きて、日本語脳に戻り切ってしまった状態でスピーキングを受けるのはハードルが高い。人によっては逆に3技能が終わった時点で気力と体力を使い果たしていて、引き続きスピーキングを受けてもろくに集中できないということもあろう。1DAYと2DAYが選べて自分に合った方法で受験できるならそれに越したことはない。

実は合格点数の通知を受けたのは、非常に苦しい夏風邪で床に伏している最中だったのだが、この病を一気に吹き飛ばすような朗報で小躍りしたのも束の間だった。2019年にIELTSに取り組み始めたときは、IELTSで目標点数を取れないことが留学へ向けてのほぼ唯一の障壁だった。しかし目標点数に届いた2020年7月に世界がどう変わってしまっていたか、今や誰もがよく知るとおりだ。オーストラリアはその4か月前に国境閉鎖、なんとも意地悪なタイミングであった。今日まで継続するコロナによる大混乱は、当初数か月で終息するとの楽観的見方も多く、IELTSの合格点を使って2021年の2月入学を目指すシナリオはまだ十分現実性があるようにも思えた。しかしいざ各大学とコンタクトを取り始めると、世界的混乱の影響をはっきりと感じざるをえなくなった。次回以降、パンデミック下で強行したオーストラリア大学入学手続きとそれ以降の経緯を綴ることにしたい。

現況アップデート

最終更新から9か月も経過してしまったが、前回の記事を公開した少し後にオーストラリア連邦政府は日本からの留学生に対し条件付きで国境を開放、私たち家族は2021年12月17日のANA便で遂に渡豪を果たすことができた。国境再開のたった2日後のことだった。その後NSW州内での隔離、大学があるNT準州への移動、夏学期の課題提出、家探し、仕事探し、車の購入など一記事では書ききれないような大量のイベントが短期間に起こり、半年以上経過した7月にようやく落ち着いてnoteに向かってこの記事の大半を書き上げた。その後「なんだか偉そうなことばかり書いたなあ」と思って公開をためらい放置していたが、実はちょうど今年再びIELTSを受験することになり(諸事情で再度スピーキングの8が必要だった)、一度目は7.5で目標に届かなかったものの二度目に8.0を取得、自分で書いた記事の内容にもう少しだけ自信を持ったので、やはり公開することにした。

オーストラリア入国以降の経緯については今後「現況アップデート」としてまとめるのではなく、別シリーズで公開しようと思う。本シリーズ「家族留学がコロナでめちゃくちゃ」は題名の通り、私たちがオーストラリア家族留学の切符を手にし、その後コロナによる足止めを乗り切るまでの道のりを記録するための場所にとどめたい。次回以降、大学入学の手続きとその後待ち受けた一年間近い出国待ちについて記し(第5回)、渡豪と留学の詳細を述べた記事(第6回・第7回)をもって本シリーズの最終回を予定している。


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