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『13歳からの地政学』で地球儀ぐ〜るぐる

「地政学」という言葉。地学やら政経やら地理やらじゃなくて?地政学?何なん?となるぐらい、私にはあんまり馴染みのない言葉でした。何となく気になっていたのかnoteでもしばしば目にすることがあり、手に取ってみたのがこの本。

『13歳からの地政学』- 著者:田中孝幸さん

高校生の兄と中学生の妹が、近所のアンティークショップで店頭に飾られた古い地球儀をたまたま見つけて惹きつけられるところから始まるお話。その高級そうな地球儀、その名も"Diplomat(外交官)"と名付けられたすごいやつみたいです。どんなものかと思って検索してみたら、すごい重厚なのがヒットしました。なるほどこういうやつかあ。

そのアンティークショップは、片目に眼帯をして引き締まった体をした大柄な年配の男性が一人で経営していて、その見た目から子どもたちは勝手に店主に「カイゾク」というあだ名を付けてちょっと敬遠していました。けれど、彼の講義を受けて最終日のテストに受かったらその超高級な地球儀をタダでくれる、という誘いに乗り、2人はそのショップに通うことになります。

その後は主に3人の会話が続き、カイゾクの講義とそれを聴く2人の反応を一緒に見て学んでいく、という形式です。

いち親としては、そんな高級なものを飛び込みで来た初対面の子どもに無料でくれるだぁ!?アヤシイ!!しかも、子どもたちが外からの見通しも悪そうな(偏見)古いアンティークショップの奥で謎の多そうな成人男性から謎の講義を受けに通うなんてなったら、いやちょっと待てぇい!と介入してしまいそうな設定ではございましたが。

まあそこはさ、ほら、中高生向けに会話形式でやりたいがためのシナリオということでさ、カイゾクさんもすごい漫画っぽい設定だしさ、と心の中で妥協(失礼)し言い聞かせ、ひとまず読んでみることに。

読みやすい読みやすい

カイゾク氏が章ごとに世界の様々な国や地域の数々に焦点を当て、そこかしこで周囲の国や地域にオーバーラップする国際問題について、地理的な視点から解説をしていく、という流れで進んでいきました。

会話形式の読みやすさは汎用性がありますね。ただ、私は13歳と比べたらうぎゅうおおんっうっげほごほっ歳ほど年を重ねているためか、既知の内容も多かったです。そのため、こういう内容だったら普通にノンフィクション的な解説文の方がサクッとまとまってて好きかも、という設定まさかの全否定みたいな感想も持ち合わせたのも事実ですが(いや何様)。

でもね。そういや中高生の頃はどうだったかしらっていう遠い記憶に想いを馳せると。。。「〇〇学」みたいな明らかにカタそうな話の時ね。
重要事項がただ羅列する教科書をゴリゴリ読み即俯瞰的に理解しテスト?もちろん満点ですが何か?みたいな秀才もいたけれど、、、

私の場合は大概、こと歴史やら地理やらでは話の分かりやすい(面白い)先生の講義を聴いて、時に睡眠学習も織り交ぜ(おっ?)、やっと自分なりに解釈を試みる段階になっていたわ。なーんてこともしばしばあったはず。

ということで、先程の何様感想は脇に置いて読み進めてみると、そりゃやっぱり全く知らなかったことや、知っているつもりだったけれども違った角度で捉えると全然別物のように感じられることも色々出てきました。そこが、地球儀をあっちこっちに回してまさに文字通り目の角度を変えて、いつも見慣れている地図から物理的に新たな発見をするところが面白い。

なるほどこれが地政学の基本なのか、と思えます。入門書としてベストセラーなわけですね。

主人公の中高生兄妹の会話や行動があまりに優等生チックなのでそんなに感情移入はしないまま読了したような、ひねくれちまった大人の私ですが、読んでいくと大人でもためになることがそこかしこにあることに気づきました。

気をつけていること

国際問題的な内容を扱った本を読む時、例えば「アメリカはこうしたいと思っている」「ロシアはこのためにこうした」みたいな文言には常に「アメリカ政府は」「ロシア政府は」を短縮して言っているんだ、と念頭に置くようにしています。

この本でも、「この国はこうだ」という言い方もたくさん出てきました。その箇所によっては、もしかしたらそれぞれの国に対して胡散臭さとか否定的な見方を持ってしまうこともあるかも知れない。でも、特に他国に攻撃的な干渉をするのを決めるのは、たぶんきっと恐らくどの時代どの国でも、そこの政府の人たち、さらには国のリーダーとその参謀たちの間で勝手に決まっていくのが常だと思います。

なので、他国に何かを強いるのも、別にその国に住む一般人が考えて総意でやってるわけではない。一般人の考えと、政府中枢の人たちの考えというのは、総じて多かれ少なかれ乖離しているものだと、現在の状況を見ても、これまでの過去を見ても、そう思うんです。

この本でも、きっと著者の田中さんは、ある国の政府の方針をそのまま一般市民の意思として直結させることの危険さも伝えたかったんじゃないかと思いました。だって、海外経験豊富な13歳の方が希少でしょうから、もし「この国の国民は全員あの国の攻撃に賛成してるんだろう」なんて鵜呑みにしたら大変。

だから、カイゾクは様々な国際情勢の解説を事実としてしつつも、そこかしこの国に大切な友人が多くいる描写も目立ったし、「言うことが全て正しいなんて人はいない」という忠告も印象的に伝えたんじゃないかと思います。

地球儀が欲しくなる、色んな向きから見たくなる

欲しくなると言いつつ、うちね、あるんですよ。地球儀。ちっこいお安いやつだけれども。きっと数日以内に私の家族は、この本に出てきた彼らのように、普段そこを中心にしたことのない場所(例えば北極、南極、太平洋なんかのど真ん中!)に思わずくっつけるように顔を近づけ、地球儀をぐるぐる回してふむふむ唸っている私をうっかり見つけ、不審に思うことでしょう…笑!


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