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よくあるゾンビパニック系かと思いきや奥深かった『断絶』

先日、病院受診の際に総計するとそこそこ膨大な待ち時間が発生し、スマホは持ってたのでぼんやりとnoteを眺めていたところ。
とあるユーザーさん(noterさんとかクリエイターさんと言うのかしら?)の記事が面白くて、他のお話はどんな感じかな〜と次から次に読んでいたら。意外とバックナンバーはさほど多くなかったため、あれっ…気づいたら、全部読め、ちゃった、ぞ!?ということがありまして。

本当は全部の投稿にスキスキっとぽんぽん押していきたい気持ちだったけれど、、、面識もないのにバックナンバー全てに連続でスキされて気味悪がられたらどうしよう…!と思い、すんでのところで自粛しました笑。

そこで気になった本のひとつが、こちら。
『断絶(Severance)』- 著者:リン・マー(Ling Ma)さん

2018年に発表されたというこの本、コロナ前というのが信じられないくらい、まるでコロナのパンデミックを予見していたかのような設定でまず驚愕。

2011年に中国から謎の真菌感染症「シェン熱」が発生し、瞬く間に世界中に広がりパンデミック化する。真菌の胞子を吸って感染すると考えられるこの熱病は、感染者の認知行動を著しく低下させてまるでゾンビのようにしてしまい、死に至らしめる。主人公のキャンディス・チェンは、完全に機能不全に陥ったニューヨークから脱出し、生き延びることができるのか?

まるで2020年からの一連の流れをオマージュしたようですよね。
で、それじゃあよくあるバイオハザード的ウォーキングデッド的なお話かと思いきや。ゾンビ化するものの襲って来ないというのです。(おっと、あらすじと概要を伝えようとすると、どうしても内容が似通ってしまう…でも決してパクリではないのです!ついでにここから先はだいぶ違うはずです!って誰に言い訳しているの私!)

え、襲って来ないんだったらゾンビ的な怖さは強くないのかな?どういう世界観??と気になって読んでみたら、ただのパニック本じゃなかったんです。さっきのは本筋だけを大雑把にまとめてみたあらすじなのだけれど、読んでみると伏線やキャラクターの背景描写が丁寧に構成されていて、私はむしろそちらに惹き込まれました。

ということで本筋は敢えて外して、私が他の読みどころとして印象的に感じたところをひょいひょいっと書いてみようと思います。

・アメリカに住むアジア系移民の描写がリアル

著者のリン・マーさんは中国福建省出身でアメリカに移住した方だそうですが、本書の主人公キャンディス・チェンも、同じ福建省出身で幼い時に両親に呼び寄せられて移住した移民2世でした。

公にDiversityのDの字も言われていなかったような時代にアジアからアメリカに移住する両親たちの抱く希望、夢、そして大小様々な葛藤や苦悩。
対して、幼い頃から異文化をベースとして育ち、言葉も文化も移住先に馴染んだ子どもが、親やルーツのある地に対して感じる揺れ動く想い。

色んな作品で見られる普遍的なテーマかも知れないけれど、章ごとにガラッと時系列や場面が変わっていく構成の中で、そういった心情が丁寧に描写されていて唸らされました。
私としては、中華系アメリカ人がアジアに仕事や家族の事情で訪れる際の葛藤を描いた映画として『Crazy Rich Asians(邦題:クレイジー・リッチ!)』

また、アジア系ルーツがあり欧米に住む著名人の様々な体験談をまとめた本『East Side Voices』

が記憶に新しかったので、キャンディスや両親の心情もより近い気持ちで理解できた気がしました。なので最早、冒頭からキャンディスのお顔はどうにもこうにもコンスタンス・ウー(Constance Wu)さんで想像してしまっておりましたが…笑。

・日本の製品やメーカーがたくさん出てきてなんか嬉しい

それは、登場人物の所持品だったり、店の売り物だったり。日本のものがさり気なく登場する度に「おっ」って嬉しくなりました。「ニッサン」「ユニクロ」なんて序の口。「ノグチのコーヒーテーブル」ってのはどうやら「イサム・ノグチ」だし、「イッセイ・ミヤケ」も出てきた。そうか、吉本ばななさんは「バナナ・ヨシモト」になるのか、というのは妙に新鮮だったり。

他にも随所にたくさん。極め付けは、これ。まさか海外小説で「マルちゃんの小エビ入りインスタントラーメン」が出てくるのは、後にも先にもこの本だけなんじゃなかろうか!?
あと「セブンイレブン」もあった〜!と思ったら…。セブンイレブンはアメリカ発祥なんですね!?し、知らなかった…!!

・ストーリーにある「断絶」はいくつあるのか

小説に詰め込まれたさまざまな設定やストーリーのなかに、『断絶』という主題がどのように埋め込まれているのか、それを見つけていくことも、本書を読む大きな楽しみになるだろう。

P.347 「訳者あとがき」より

これは、かなり考えさせられました。どんな「断絶」が読み取れるか、ざっと思いつくだけでもかなりたくさん。何だろうな…。
日常と非日常。正常と異常。健常者と病人。恋人と自分。家族と自分。友人と自分。故郷と自分。雇用者と被雇用者。都会と郊外。マジョリティーとマイノリティー。。。
たぶん絶対的な正解は無いのだけれど、読者それぞれの意見が違って面白そうだなと思いました。

途中ヒヤヒヤしたけれど、ホラー苦手な私でも何とか読みきれる内容だったし、たぶんジャンルはホラーではない、はず。厚みもしっかりで読み応えもばっちりでした。

時たま日本語訳に違和感を感じ(失礼!というか、きっと自然に訳すの大変だったんだろうなあ)、これはどの単語から来たのかなあと考えるのも楽しかったです。
例えば「ぶらつき」はきっと「hang out」の苦肉の策なんじゃないかと推測。もしも万万万が一、今後原著を読む機会があったら、そこも確かめてみたいです。

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