二度読み必至な『おばちゃんたちのいるところ』

本も演劇も大好きだけど詳しくはない私。今回は、松田青子さんという作家を初めて知りました。
『おばちゃんたちのいるところ  Where The Wild Ladies Are』- 著者: 松田青子

きっかけは、この記事で紹介した本。

このエッセイ集『East Side Voices』は、巻末に著者たちの簡単なプロフィール紹介と、実は各自のオススメの本というのが載っておりまして。このうちClaire Kohdaさんが紹介していたのが、この松田青子さんの本でした。

Claire recommends: Where The Wild Ladies Are by Matsuda Aoko (published by Titled Axis Press, translated by Polly Barton), which retells traditional Japanese ghost stories through a feminist lens.
(中略)
This book celebrates what is considered repulsive in women by traditional standards. I just love that it exists.

『East Side Voices』P. 204

紹介されている数あるオススメ本の中で、日本の小説はレアだったので「おっ」と目を引いたんです。しかも邦題を調べてみたら、「おばちゃんたち」がいるとこって、どんな展開よ?ふむ。なんか、よく分かんないけどオバケが出てきて女の人が元気になるお話らしい。どないやねん。とシンプルに気になってたので読んでみました。

オバケだらけなのに全っ然怖くない!

私、基本的にホラーは苦手なのです。でもこの本、装丁からしてなんか楽しそうでしょう?そもそもタイトルがおばちゃんたちだし。というわけで安心して読み始めてみたら、今回は私の直感、間違ってなかった。ほっ。(恩田陸さんのこの本の時には、爽やかな装丁だったけどしてやられたからね…笑)

おっと話を戻しましょう。この松田青子さんの本、この世のものではない人や動物が随所に出てくるのに、見事に全然怖くない!ホラー苦手な私でも1ミリも怖くない!
それどころか、この世の人よりもむしろこの世のものじゃない人たち(と、動物)に、なんて元気&勇気付けられるお話なんだろうと。とても面白かったのです。それに、おばちゃん以外にもたくさんの登場人物が出てきました。セリフのある男性陣では、汀(てい)さんも裕太さんも素敵だし、茂君も新三郎氏もなんかいい味出てる。ガムちゃんも、エノキさんも、キツネさんも、良き。

二度読みしたくなる理由

構成の仕掛けあり、小ネタも散りばめられている

とても短いお話がまとまった短編集だったけど、あれ、この人さっきも出てきた?あの時のあれって、このことから派生した?みたいに、全話を通じてゆる〜く繋がっている。これを知らずに読んでいたので、読み終わってからはもう一度最初から細かい伏線を拾いたくなりました。
それも、何かの犯人の裏トリックがわかる!みたいな重大な伏線ではなく、RPGゲームで例えるとしたら、街の人に話しかけまくると時々出てくるサブイベントで、メインシナリオとは全く無関係だけどちょっと小耳に挟む繋がり程度の気軽さ。(伝われ〜)

日本の古典芸能を知ってからまた読みたくなる

あ〜面白かった、と思ったら巻末に突如出てくる「各作品のモチーフ一覧」というページ。皿屋敷ぐらいなら分かってたけど、なんと、まさか全編、日本の古典芸能、落語や歌舞伎や民話やら、をモチーフにされていたとは…!!
これ、もともと詳しい人が読んだらまた全然違った味わいになるんだろうな、と想像してしまうわけです。

そういえばさっきこれを書く時に改めて読んだClaireさんの推薦文、”traditional” Japanese ghost 言うてますやん。私はてっきり、「日本的なオバケですよ〜」を欧米の人に簡単に説明するためだけの”traditional”だと思い込んでたわけです。いやはや、どれもこれも本物の「伝統的」オバケだったとは。しかも演目を見てもやっぱり、四谷怪談と皿屋敷と座敷童子以外は知らん。。それも、何となくしか知らん。。

古典芸能に対する教養の無さを見事に露呈するレビューですが笑、これをきっかけに落語や歌舞伎にもゆるく親しんでみようと思った次第です。
たぶんきっと近々、自分のメモ代わりにも、この本のモチーフになった伝統芸能を一覧にした記事を書くんだろうな、私。

文庫版は解説がまた素晴らしい

女性だけじゃない、一部の男性もセクシャルマイノリティーも含め様々な人が多かれ少なかれ感じる「青天井」やそれぞれの「壁」。実は巡り巡って、そういうものの存在が世の中全体を息苦しくさせていることにやっと気づくのは、大抵が大人になってからで。気付けなかったり、気付いても抵抗できなかったりするモヤモヤの連続で世の中は満ちている。日常の「あれ?これってよく考えたら何のため?誰のため?」とか、「一体何に縛られてるの?」とか。ハッとする。そういう価値観を変えていくのは個人の努力だけのレベルではなく、社会であり、時代であること。
解説がまた、この小説を読んで感じることと、社会のことを、よくぞ言語化してくれました!と拍手喝采を送りたくなる内容でした。

なんかすごい賞をとった作品らしい

Claireさんの紹介を読んで、へー、この日本の小説って英訳されてるんだな、から入った私。さらに後から知ったところ、この『おばちゃんたちがいるところ』英訳版、アメリカの世界幻想文学大賞の短編集部門、というのを受賞したらしい。ファンタジー作品を対象に創設された賞で、村上春樹さんや宮崎駿さんも入賞しているそう。錚々たるメンバーではないですか。さらに、TIME誌の2020年ベスト10に選ばれたり、BBC、ガーディアン、ニューヨークタイムズ、ニューヨーカー、などでも紹介されたりしてるそうです。原著の国に住んでるのに全然知らなかったぞ!?なんでなんで??私だけ??


何だかうまくいかない時。何か引っかかってモヤモヤするけどうまく説明できない時。何をどこから変えていけばいいのか、そもそも変える前に疲れちゃったり諦めちゃったりしがちなことばかりだけど。こんな「おばちゃんたち」がいてくれるなら、悩める女性も(男性も)、思ったより楽しくひょいっと、しれっと、どんな現実にも向き合えるのかな、と思えてくる。
心の中に応援団が増えたような、ほっこりした気持ちになる本でした。

そういえば、オバケが出てくるけど全っ然怖くないし女の子が元気になる話って、これにも共通するテーマだな。これも面白かったのよね。

テレビ朝日 土曜ナイトドラマ『妖怪シェアハウス』

ところで。。初めて記事をスマホで書いてみたら、文章のコピー・ペーストも変なところになりがちだったり、エフェクトもなかなか一発で入らずめっちゃくちゃ時間かかって超大変だった。。慣れなんでしょうか。やっぱり私はPCでやろ。

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