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『夏のヴィラ』で繋がる旅と記憶の心象風景

noteをきっかけに読んで感想をここに記してみた本は、これまで大体10冊ぐらいになったかな?というところ。今回も間違いなく、自分だけでは気付けなかったであろう本です。

『夏のヴィラ(여름의 빌라)』- 著者:ペク・スリン(백수린)さん

私のnoteは、ただ感想を書いてみたいなと思う時に気まぐれに書くだけであって、必ずしも「超オススメ!」とか「好き!」とは限らない本も入り混じっています。今回のも、「好き!」というよりも、なんか、好き。ハッピーだけじゃないお話ばかりなのに、また読みたい。何だろう、なんか、好き。なんか、また読みたい。ああ、語彙力崩壊中(通常営業)。

他の方のレビューが素敵すぎて読みたいと思いつつも、だいぶ前だったため詳細は忘れ(あっごめんなさい😂)、でも、「読んでみたい」の気持ちを強く持った記憶だけを頼りに手に入れました。

読むだけで味わえる人々の心情

著者のお名前や装丁の文字からも、韓国の作家さんの作品なんだなということは自明だったけど、それは手に取ってから初めて気付くという笑。

読後に実感。これは、わざわざ「韓国文学」「海外文学」「日本文学」みたいに括ってしまっては勿体無い作品。様々な人そのものが主役で、世代も国も超過し、多くの人に普遍的に理解される心情描写になっていると感じました。

複数の国や地域が舞台となっていますが、この小説でのそういった変遷は、味わいを変えていく薬味のような感覚でした。場面は構成としては超重要だけれど、それ以上に、登場人物たちの表現が抜群に丁寧なのです。

なので、舞台を実際に知っているかどうかの違いは全くもって本質ではありません。仮に読者にとっては馴染みのない場所や文化圏ばかりだったとしても、まるでその場で登場人物の真横にいるような感覚で、十分に味わい深く読むことができます。

人物に共感したりわだかまるところもあったりと、読者の重層的な感情を蔑ろにしない進ませ方が、行間からも溢れ出ているような気がする。そう思うくらい、読み終わってしまうのが寂しかったです。

行ったことがある場合のリアル

ちなみに私の場合は、たまたま行ったことのある場所や体験したことのある場面が随所に登場しました。なので、ここからは表層的なお話にはなりますが、知らない世界に想いを馳せる読書体験以前に、自分の記憶の中にある実際の風景が鮮やかに想起させられました。

私には、『夏のヴィラ』(本のタイトルと同じ章)が特に印象的でした。
旅先(どこでも良い)で現地の人たち、様々な国から来た人たちと、その場で意気投合し共有する高揚感。
善意ベースながらも、異文化コミュニケーションの中で互いに感じたり感じなかったりしたことのある、ふとした違和感や齟齬。
一歩でも国外に行けば、外国人とカテゴライズして扱われる時の気持ち。
南アジアの路地や乗り物、人々の感じ。
東アジア同士(日本も韓国も含む)の街の感じ、人々の感じ。
うう、懐かしい。

また、この本の物語たちは、いずれも韓国系の登場人物たちがベースで織りなされていきます。なので、舞台となる国や地域の中でも特に韓国にまつわることは、ほんの些細なことでも予めある程度知っていると、より些細な描写も楽しめることでしょう。

例えば、知り合ってすぐ年齢を確認し合うところ(韓国は1歳でも年上なら絶対に敬語、下ならタメ口を使うので、初対面でまず年齢をきくのは失礼どころかむしろ礼儀に適った行為)とか。
ラーメンはわざわざ「インスタントラーメン」と翻訳されているところ(韓国では生麺は一般的でないので、ラーメンと言えば大抵はインスタントの乾麺のこと。翻訳者さんか著者か分からないけど、そこは強調したかったのかしら笑?)とか。

ちょっと知っているだけでも、そうそうこれこれ、と、何だか嬉しくてにんまりしてしまいます。

さらに、そういう個人的な体験ばかりではなく、読みながら過去に触れた作品の場面場面もぐわっと蘇り、よりリアルな想像に繋がりました。

特にこの2作品の存在感はすごかった。これらはそりゃあもう印象的、というか劇的。半地下の家、学歴社会、格差社会、あからさまな家父長制、ジェンダーギャップなどなど。日本のそれと相関したり違ったりと、考えさせられることが盛りだくさんです。ご参考までに。

『パラサイト(기생충)』- 監督:ポン・ジュノ(봉준호)さん

(注※メンタルが弱っている時には決して観ないことを強〜く強〜くお勧めいたします 苦笑)
韓国語は日本語と文法も音も近いためか、韓国映画やドラマを邦題にする際は直訳が多い印象だけれど、へええ、この映画の韓国語の原題は「寄生虫」なんだなあ。「パラサイト」の方が何となく語感が爽やか(?)でオブラートに包んである感じはするので、流行らせるなら邦題、確かにこれで正解でしたね。中身は全くもって爽やかとは程遠いけど笑。

『82年生まれ、キム・ジヨン(82년생 김지영)』- 著者: チョ・ナムジュ(조남주)さん

(注※メンタルが弱っている時はこれも読まない方が良さそうです、特に女性の方!気をつけて〜)

この本の魅力

今回の本を読みながら想起される映画や本は、上のようにメンタルにズーーーンと来るものが代表になりました😅(いや、どちらも作品としてはすごいので、元気な時はぜひ体験してみたら良いかと思います)。

でも、この本は不思議と、メンタルへのダメージは個々のテーマ性ほど強くはありませんでした。幸せの中にでもふと存在する、心の澱やしこりのようなものを意識させられる話ばかりなのに。それなのにむしろ、読後には懐かしさ、ある種の清涼感のような感覚さえ伴ってきました。何でだろう。

さっき書いたような、個人的な思い出(概ね楽しかったこと)が伴ってカバーされたから、という可能性も大いにある。でも、それだけではない気がします。心情描写がとにかく丁寧で、ノスタルジックかつ人間に向けた著者の温かい目線を全体に感じるから、かも知れません。


ということでまたひとつ、noteを始めてみて良かった!と思う本との出会いが増えました。本(や映画)好きな方々の紹介がいつも刺激になっています、ありがとうございます。

次の思いがけない本(や映画)との出会いも、とっても楽しみです。

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