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すてる

今日、あの子にいじめられた。
私に向けられた胸を突き刺すようなあの汚い言葉、一生忘れられない。もう学校に行きたくない。あの子にもう会いたくない。

今日、仕事で大きなミスをおかした。
上司にこっぴどく叱られた。私という人間を完全に否定されたようなこの感じ。もう明日から仕事に行きたくない。早く消えたい。

今日、振られた。
3年もつきあったのに、もうお前のことが好きじゃない、魅力を感じないって。結婚すると思ってた。友だちにもそう言っちゃったのに、どうしよう。

あなたが受けたその言葉、これまでの思い出、全て「ゴミ箱」に捨ててください。

「ゴミ箱」に捨てたら、一呼吸。
本当に捨ててしまっていいですね。
他のフォルダにコピーして保存してはダメですよ。

「ゴミ箱を空にする」をクリック。
再起動をかけたままお休みください。

あなたの「頭のゴミ」をすてるのです。
間違ってその人をゴミ箱に捨てないでくださいね。
断捨離、これで完了。

インスタントフィクションとは自由な発想と気軽なノリで書かれた文章、読書しない人でも遊び感覚で挑戦する。原稿用紙1枚=400字の中で表現、自分の思う「面白い」を入れるのがルール。

youtubeピース又吉直樹「渦」より

実家にいる時に、母と姪の会話を聞いていた。
母:えーっと、あれしてこれして・・・あーもう頭がごちゃごちゃ!
姪:そんなもん、いらんもんは「ゴミ箱」に捨ててしまえばいいが。
母:「ゴミ箱」?
姪:うん!「ゴミ箱」!

隣でその会話を聞きながら、私はPCのゴミ箱のアイコンを思い浮かべていた。
姪っ子は小学校3年生。学校で配付されたタブレットで授業を受けている。

そうか、もうこの子たちは頭の中にある整理されていないものを勝手にフォルダを作って整理し、要らないものは「ゴミ箱」に入れるという作業を自然に行っているのかもしれないと驚いた。

とんでもなく便利だ。
どれだけメモリに余裕ができるだろう。
「要らないもの(記憶)はゴミ箱へ」が瞬時に繰り返されていく人間の脳は、本当に実在するものまでいとも簡単にゴミ箱に入れてしまうようになるのではないかとぞっとする私がいる。

ちなみに、私は多少の古傷や自分を否定したくなるような強烈な思い出も残しておいた方がいいように思う。
失敗したことを「ゴミ箱」に入れてしまえば、忘れて次の成長につながらないかもしれない。
人に傷つけられたことを忘れてしまえば、平気で人を傷つけてしまうかもしれない。

最近は世の中とのつながりが薄く、誰からも傷つけられることのない安全地帯でのほほんと暮らしているが、ストレスがないのも人生に刺激がなくて、これはこれで詰まらないものなのかもしれない、と思う今日この頃。

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