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ポタージュ8

最近書く意欲がすごいのですが、いかんせん終盤なので難しいです。

あ、短編なので今、終盤です。この次に終わります。

それまではこちら。



ポタージュ

「あんたはいいよね。見た目で損することなんてなそうで。」

それは彼女にとって些細なことで、並々注いだカップが少し揺れただけのほんの少しのこと。いつかは溢れてしまうもので、今まで溢れなかったのが不思議なくらいの歪力。それでも、彼女が首から下げていたナイフを、ついに自分に向けられたような気がした。

どうしようもなく辛い日々の中で、ようやく見つけた隠れ家。そんな場所で僕たちは出会ったと思っていた。不幸の自慢大会のような時間もその時だけは同じ気持ちで、いつしか、この恋が実ればなんて考えていた。

「あいつっていつもよくわからない音楽聴いてるよな。」

「いっつもイヤホンで暗いよね。」

「実はオタクなんじゃない?」

「えー、キモーい。」

教室でイヤホンをつけているだけでそうなった。おそらく彼女も。他の者と違う姿を許さない教室は僕にとっては広すぎた。見た目が真逆の僕らでも、そこだけは同じだと信じて疑わなかった。

ただナイフを突きつけられただけのこと。他には何もされていない。それだけとは思えなかった。

「怖いんだよ。」

「え?」

「誰かと一緒じゃなきゃみんな怖いんだよ僕らみたいなのを相手にすると団結しやすいんだ。他の人とは違うから。そうやって群れて、みんなと一緒になっていって、大事なことを忘れていくんだよ。」

下唇を噛んで、また泣きそうになる彼女。さっきとは違う、明らかな後悔の表情。

息も絶え絶えで、切羽詰まって苦しいことばかり。鮮やかに変わる君の表情はいつも僕をかき回す。わかっている。それでも、君のことが好きなんだ。

「ごめん、あんたはいいやつなのに。」

あぁ、今ようやく、はっきりとわかった。

「大丈夫、俺は今のままの和希が好きだよ。」

「……アホ伊澄。」

初めて呼んだ君の名前、初めて呼ばれた僕の名前。アホがついていたけど、伝えられてよかった。君には一生届かない、僕のささやかな告白。

この気持ちはここに置いていこう。そしていつの日か、寒くなってどこかの自動販売機のコンポタージュを見て思い出す。

あの時告白すればよかったと。

いや、やめよう。書くにしろ、話すにしろ、あの時ああすればよかったが一番悲しい。

また明日もここに来よう。友達として。なにも気にすることはない。いつものように誰かの悪口を言い合って、笑って、暖かい飲み物を飲みながら月を見られればそれでいい。

「明日もここに来ていい?」

「来てくれないとすごい暇になる。」

「アホ。」

「なにがだよ。」

「何にも。じゃあバイト行くわ。今日はありがとな。」

「また明日。」

「また明日な。」

もういつも通りの彼女だった。それが何よりも嬉しかった。心のどこかで痛みが一つ落ちたような気がしたけれど、少し気になっただけで後はなにも思わなかった。ただ、嬉しかった。

巻きつけたマフラーが風に吹かれて少し揺れたが、少しも寒くなかった。僕は知っている。風と君はいつも一緒だ。

冬の空はやっぱり綺麗で、今日は何度見ても月が綺麗だった。その勢いそのままに、彼女の姿が見えなくなる前に、僕は塾へと向かった。