【予想してみた!】保証協会付き融資の個人保証が不要になるとどうなるのか?
スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。
先日、「保証協会付き融資の個人保証が不要になる」という日経の記事がにわかに話題になりました。
私個人的にもこれは大きなニュースだと感じました。
そこで、
保証協会付き融資の個人保証が不要になるとどうなるのか?
どんな制度変更になるのか?起業家にはどんな影響があるのか?
起業家は何に注意すべきか?
を勝手に予想してみました。
そもそも保証協会付き融資とは何か?
今回は創業まもない時期の「融資」の話です。
創業まもない時期の融資には、
日本政策金融公庫の新創業融資
保証協会付き融資
があります。
日本政策金融公庫の新創業融資は、既に個人保証が不要な融資制度として、多くの起業家が活用しています。
今回は、さらに保証協会付き融資も個人保証を不要にするよ、という動きについて予想をしていきます。
保証協会付き融資とは?
そもそも、保証協会付き融資とは、たとえば○○銀行や○○信用金庫などの民間金融機関の企業に対する融資に信用保証協会が保証をするしくみです。
信用保証協会の融資に保証が付くことで金融機関は企業から返済を受けられなかった場合でも信用保証協会に肩代わりしてもらえます。
金融機関はプロパー融資(保証の付かない融資)に比べてリスクが軽減され、創業間もなくリスクの高い企業等に対しても融資がしやすくなります。
言い換えれば、企業も保証により融資が受けやすくなります。
さらには、自治体が信用保証協会に支払う保証料や企業が負担する利子を減額したり補助したりすることにより、企業がより利用しやすくしています(※1)
代表者個人の連帯保証とは?
「代表者個人の連帯保証」とは、融資に対して法人の代表者個人が負う連帯保証のことです。
連帯保証が付くことで、もし自分が代表を務める法人が借入を返済し切れなくなってしまった場合、連帯保証によって代表者個人がその残債務を負うことになります。これが起業家側のネックになっていました。
保証協会付き融資の個人保証が不要になるとどうなるのか?
個人保証がなくなれば、起業家の精神的な負担は軽減され、よりチャレンジがしやすくなります。
しかし一報で、リスクの高い創業直後の起業家から個人保証を取らないとなると、金融機関や保証協会が回収できなくなるというリスクは当然に上がります(※2)。
さらに、市場があることが不確実な領域でエクイティファイナンスによって急成長とEXITを目指す狭義のスタートアップに限定しますと、スタートアップは融資に適した成長モデルではなく、個人保証を外すのみでは、単純に金融機関や保証協会のリスクがただ増すだけになってしまいます。
そこで、以下のような対応がなされると予想しています。
保証料が上がる
審査ハードルが上がる
保証料が上がる
信用保証協会の保証を付ける場合、融資時に信用保証協会の保証料を支払います(東京都信用保証協会の場合、年率0.27〜1.72% / 2022-06-01時点)。
個人保証を外す場合には保証協会もリスクを負うので、その分、保証料が上がる可能性があります。
実際には以下のどちらかを選択する形になるかもしれません(公庫にもこのような仕組みが存在します)。
保証料を上げて個人保証なしを取るか
保証料を下げて個人保証ありを取るか
保証料に加えて、金利も上がるかもしれません。
審査ハードルが上がる
申込要件や保証審査のハードルが上がる可能性があります。
個人保証なしで借りるには、以下のような条件が求められる可能性があります。
高めの自己資金要件
起業する領域における一定以上の経験年数
特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書
認定支援機関等の専門家の支援
中小企業基盤整備機構がLP出資しているVC等からの出資
日本政策金融公庫との協調融資
東京都主催のビジコンの入賞
制度の表面上の要件は厳しくならなかったとしても、現場レベルでは、それまでと同じかそれ以上に、審査のハードルを上げるでしょう。
あるいは、金融機関や保証協会の現場の負担が増えて、制度の活用が進まないこともあり得ます。
個人保証なしは「創業」だけかもしれない
個人保証がないのは、創業期のみに限定されるかもしれません。
追加融資や借換などで2回目以降に保証協会付き融資を申し込む場合には、日本政策金融公庫の経営者保証免除特例制度(※3)同様に、決算書の内容や業況に応じて個人保証が付いたり、外したりすることになるかもしれません。
起業家は何に注意すべきか?
日経の記事によりますと、2023年3月末までに、制度変更が行われ、変更以後の融資について個人保証が不要になる見込みです。
では、制度が変更された以降に保証協会付き融資を受けたい起業家は、何に注意すべきか、どんな準備をすべきか、整理してみます。
借りやすくなるわけではないと認識しよう
特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書を取っておこう
エクイティファイナンスには早めに動いておこう
キャッシュを稼げる事業を作っておこう
自己資金を準備しよう
借りやすくなるわけではないと認識しよう
個人保証がなくなることで確かに起業家の精神的な負担は軽減され、保証協会付き融資を積極的に活用しようインセンティブにはなります。
(融資の申込件数は増えるはずです)
しかし、前述の通り、金融機関や保証協会の審査ハードルは上がり、融資は受けにくくなったり、融資金額が絞られることが予想されます。
起業家がより準備をする必要が生じます。
特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書を取っておこう
起業するにあたっては、区市町村による特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書を取っておきましょう。
この証明書をとっても個人保証を外せるかは未定ですが、いずれにせよ登録免許税が半額になったり、小規模事業者持続化補助金(※4)の創業枠(50万円→200万円)に申し込めるなど、様々なメリットがありますので、起業前に取っておくとよさそうです。
エクイティファイナンスには早めに動いておこう
エクイティファイナンスに早めに動くべきだと個人的には考えています。理由は次の2つです。
①VCからの調達が個人保証を外す要件になるかもしれないから
スタートアップ向けの融資である公庫の資本性ローンのように、中小企業基盤整備機構がLP出資するファンド(VC)からの出資が、個人保証を外すための要件になる可能性もあります。であれば、早めにその要件を満たす意味でも順番として、出資を受けることを先にしておいた方がいいです。
②エクイティファイナンスの調達環境が悪化しているから
下記のように、米国ではスタートアップにとって厳しい時代が到来すると言われています。これは日本も同じはずです。
後になればなるほど困難になる可能性がありますので、いずれにせよエクイティファイナンスをすべき狭義のスタートアップなのであれば、早めに動くべきだと考えます。
もしVC等とのネットワークがないのであれば、すぐにStartPassなどのサービスを利用するなどして、早めにコンタクトするのがよさそうです。
キャッシュを稼げる事業を作っておこう
上記のように、市況が悪化しています。
不況下はしっかり「生き延びる」ことが大事です。
自社サービスへの先行投資も大事ですが、受託やコンサルなど、キャッシュを稼げる事業も生き延びるために作っておく、または残しておくのがよいのではないでしょうか。
金融機関や保証協会は、伸びるかわからない自社サービスより、堅い受託やコンサルの方が評価しやすいです。受託やコンサル等の堅い売上実績が融資の成功確率や金額につながります。
バーンレート(≒支出)もしっかりとコントロールしましょう。
開発費や人材採用にアクセルを踏み込みたいところかもしれませんが、融資を受けるまでは少なくとも、コストをコントロールして、ランウェイを伸ばしましょう。
自己資金を準備しよう
個人保証を外す要件として、一定以上の自己資金を求められる可能性があります。
これから起業する方の場合には、自己資金を銀行口座で1円でも多く1日でも長く貯金しましょう。
既に起業されている方は、上記の通り、堅い売上実績を作ること、バーンレートをコントロールすることを優先し、事業用の残キャッシュを確保しておきましょう。
保証協会付き融資の個人保証が不要に関する予想のまとめ
まとめます。
保証協会付き融資の個人保証が不要になると、保証料が上がり、申込みの要件や審査ハードルが上がる可能性があると予想しました。
保証協会付き融資を個人保証なしで借りたい起業家は、以下の点にご注意頂き、準備いただくと良さそうです。
借りやすくなるわけではないと認識しよう
特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書を取っておこう
エクイティファイナンスには早めに動いておこう
キャッシュを稼げる事業を作っておこう
自己資金を準備しよう
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最後までお読み頂きありがとうございました。
注釈・参考
※1 都道府県が関わるこの仕組みを「制度融資」、区市町村が関わるこの仕組みを「融資あっせん制度」と呼びます(政令指定都市を除く)。保証協会付き融資についてさらに詳しくは、下記の記事をご参照ください。
※2 保証協会は回収リスクに対して日本政策金融公庫に再保険をかけており、最終的な貸し倒れリスクは政府系金融機関が持つ形です
※3 経営者保証免除特例制度とは、日本政策金融公庫からの借入の際に、一定の条件を満たすと、個人保証を外すことができる制度です。
※4 小規模事業者持続化補助金については、INQの武田が下記動画でわかりやすく解説しています。
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