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<スペシャル対談>「使ってもらい、続けてもらう」ウェルビーイングサービスの未来と習慣化

2022年、森谷は多くのピッチコンテストに出場しました。 そのスタートとも言える「ICC FUKUOKA 2022」、そして最優秀賞をいただいた「Healthtech/SUM 2022」。そこに、審査員として出席されてい た方が、今回のスペシャル対談に登場いただいた住友生命保険相互会社の藤本宏樹氏です。

ピッチの審査員と登壇者として出会った二人が、ウェルビーイング サービスの未来や習慣化への期待について語りました。

・住友生命保険相互会社 上席執行役員 兼 新規ビジネス企画部長 
 藤本 宏樹 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


出会いはピッチの審査員と登壇者「面白いサービスだなと思いました」

藤本氏(以下、敬称略):「ICC FUKUOKA 2022」の際にWizWeさんのピッチを拝見して、面白いサービスだなと思いました。普通、ヘルスケアやウェルビーイングの領域は、こんな具体的なサービス、アウトプットの価値をつくります、こういうサービスですというようなものが多いです。

WizWeさんの場合はそうではありませんでした。どんなに素晴らしいサービスでも続かないと価値を生まないので、そのいろいろなサービスに接続して続けるというところがわれわれの価値ですと。全く違う視点で面白いなと思いましたね。人のサービスを生かすことで価値を生んでいく。そこがすごく印象に残っています。すごいですよね、続かないと価値 は出ないですからね。

森谷:そうですよね。あのとき、ICCの小林さんに、ピッチの最後に審査員の皆さんに営業をするように言われました。それで、「住友生命さんどうですか?」と言わせていただきました。

藤本:そうですね。おっしゃっていただいて。

森谷:壇上から失礼しました。

藤本:その後が「Healthtech/SUM 2022」ですね。Healthtech/SUMは、メディカル領域の本当に医療ど真ん中という企業が多いですよね。ど真ん中でなくても、少なくともヘルスケア領域のサービスを作っている企業が出てくるケースが多いので、WizWeさんがエントリーされているのを見て、ヘルスケアで勝負されているのかと少し驚きました。

しかも、その中で最終審査に残ったというのはすごいですよね。ICCの時は、いろいろな領域で可能性があるという形でおっしゃっていたと記憶していたので、なるほど、Healthtechでも確かにあるなという印象でした。

森谷: Healthtechなので事例が難しかったですね。サントリー様とのプロジェクトも実施していたのですが、このタイミングでは事例として まだ出せなかったので、深く言えないところをどう言うかというところが。

藤本:でも、優勝しましたね。Healthtechのイベントですごく高評価で。ヘルスケアの領域は、生活習慣病という病名があるくらいなので、生活習慣をいかに変えられるか、習慣化できるかというのが一つの大きなポイントだと思います。医療、ヘルスケアの領域の課題はやはり習慣化であり継続化であり、WizWeさんはそこの本質的な課題解決に貢献しているということで、全く違和感はなかったと思います。

住友生命はウェルビーイングへの貢献で、なくてはならない会社に

森谷:新規ビジネス企画部では、どのようなことをされていらっしゃる のですか?

藤本:現在の会社の主力商品が「Vitality」という健康増進型保険です。身体的ウェルビーイングの領域で、「健やかに幸せに」なってもらうという価値を提供しています。

ただ、健康な人だけが幸せであればいいのか、というと、そうではないと思っています。病があっても幸せになれますし、あるいは、齢を重ねていく中でも幸せを目指していけます。そういう世の中にしたいということで、Well-being as a Service(WaaS)というコンセプトを掲げて、「Vitality」を中核にしつつ、病気の人も健康な人も、高齢者も若者も、女性も男性も、それぞれの人生・生活がある中で、一人ひとりが自分なりの幸せを目指すことができる、その支えになるサービスを作っていこうとしています。新規ビジネス企画部は、そのサービス開発を担当している部署になります。

会社自体もウェルビーイングへの貢献で、なくてはならない会社になるという目標を掲げています。まさに「Vitality」に次ぐ第2、第3のウェルビーイングなサービスを作っていくことがビジョンですね。

森谷:「Vitality」はどういったブレストから生まれてきたのですか?

藤本:弊社は、2011年に『あなたの未来を強くする』というコンセプトでリブランディングしました。現社長の高田を中心に、私も事務局になってリブランディングのプロジェクトを推進したのですが、そのときに議論したのが、『あなたの未来を強くする』というコンセプトをお客様に実感してもらうためには、これまでの保険とは異なる新しい価値創造が必要だということでした。

保険は、何らかのリスクに対して「備える」しかできませんよね。それはこれからも大切なのですが、さらにリスク自体を減らすとか、より健康な人生になるように人々を応援するとか、そういう新しい価値を創らないといけないということを議論しました。

その中で、やはり健康増進型、健康を応援する保険を作りたいということで、そこから議論を重ねて、長い検討を経て、2018年に「Vitality」という商品として結実したということです。

森谷:イノベーションですね。

藤本:でも、本当に時間がかかりますよね。

ウェルビーイングサービスの未来と習慣化への期待

森谷:第2、第3のウェルビーイングなサービスというお話がありましたが、今後どのような展開をお考えですか?

藤本:先ほどもお話ししたように、一つは「病があっても幸せに」なれるようなサービスを作っていきたいと考えています。そこは、いろいろな局面があると思っていて、例えば、「Vitality」では主に予防に焦点を当てたサービスを提供していますが、病になってしまった後の生活習慣を改善して重症化を防ぐというサービスも作っていきます。あるいは予後のQOLをどうやって向上させていくのかといった、ディジーズ・マネジメント領域に注力していく必要があると考えています。

もう一つは、「齢を重ねても幸せに」ということで、高齢者が幸せに暮らせるように、フレイル(虚弱)や認知症の課題に取り組むサービスを作ることです。高齢者の数が増えていくので、このようなサービスがますます重要になってくると思います。

あとは、私自身すごくやりたいと思っていることですが、女性の人生を支えるサービスですね。SDGsでは「誰一人取り残さない」と言われていますが、日本の中では女性の健康問題や人生のサポートが「取り残された」課題ではないかと感じています。

例えば子育てやプレコンセプションケア(※1)も、本当はこれを「女性にとっての課題」と言ってしまうと適切ではないのですが、現実問題として日本では女性にいろいろな面で負荷がかかっていますし、その結果、女性のウェルビーイング度が低くなっていると思うので、そこを支えるようなサービスを作っていきたいと思っています。

現在は、プレコンセプションケアのサービスを作って、いろいろな企業や自治体に提供していこうとしています。それから子育てのところですね。「子育て」が女性だけに負担がかかった「孤育て」になってしまい、結果として産後鬱の問題が深刻になっています。この問題を解決したいということで、コミュニケーションロボットが生活に溶け込む中で、夫婦間のコミュニケーションが活性化したり、相談にのったり、子育ての喜びを夫婦で共有したり、そんな明るい子育てにつながるサービスを目指しています。

また、女性特有の健康課題として、月経痛やPMS、更年期などのペインがあります。この根本的な解決はメディカルの世界になるのかもしれませんが、そうした不調があっても自分らしい生活を過ごせるような伴走サービスにもトライしています。

森谷:プレコンセプションケアは、キャリア面の支援ですか?それとも、健康面でしょうか?

藤本:プレコンセプションケアに関しては、いろいろなことをやっています。そのうちの一つは、これはキャリア支援にも関係してくるのですが、企業でセミナーを実施しています。「妊活や不妊治療自体を知る」、「女性の健康課題について知る」、あるいは「不妊治療等の経験者の体験を知る」など5種類のセミナーを用意しています。この中には、管理職等にも参加頂けるように、「妊活や不妊治療をされている方を周囲がどうサポートしていくのか」といった内容のセミナーもあります。

こうしたセミナーの実施やLINEなどで相談ができるサポートなど、複合的なサービスをセットで提供することで、「職場で不妊治療の相談がしやすくなった」「子どもを産むか産まないかという選択肢を含めて自分達のライフプランを考える機会になった」という声が挙がっています。また、一番良かったなと思ったのは、参加者の中から実際に婦人科に行くという行動変容が起こったことです。こうした結果を踏まえて、今後このサービスを広めていきたいと考えています。

森谷: 私も個人として大変よく分かります。この領域は、当事者になった時に、まず情報がないですよね。どこへ行ったら、適切な求める情報が得られるのかが、そもそも分からないということも多かったように思います。周囲にもなかなか相談できる人もいないという問題がありますし。

今、私たちの家族は、子育て真っ最中ですが、更年期の問題も出てきますし、やはりその辺りも情報が不足していますので、先ほどおっしゃっていたような活動があるといいですね。知っているか知っていないかだけで全然違いますので、実はすごく関心があります。

藤本:知っていることと、行動ですね。学んだ後は、婦人科に実際行くとか自分の妊孕力(※2)のチェックをしてみるとか、あるいは、まだまだ先でいいと思っていたけれども、妊活、不妊治療について実際に行動してみようとか。パートナーで話し合うだけでも大きいと思います。

森谷:外に言えないし、言いにくい。私個人の経験からすると、やはりパートナーとして互いに、両者で啓発が進むと、互いの保有情報量や質が同じになり、それだけでも、全然違うように思います。情報による啓発。当事者意識が出てきます。

藤本:行動変容につながるマインドセットの問題は、基本的には日本全体で取り組んでいく必要があるでしょうね。少しずつでも取り組んでいかないと、なかなか進まないので。

森谷:最初に知ることと、他の人と話をすること、そしてその会話をしたときの安心感が重要ですね。知らないと不安を感じるケースが多いと思ってい ます。実際に知って行動を起こしてみたら、思ったよりだいぶよかったという経験は、その次の定着にプラスに働くと感じています。高齢者の方々のデジタルデバイドが、私の関心のテーマの一つで、どうやってコミュニケーションを続けていくかが課題ですね。

藤本:そうですね。私たちも生活習慣病の重症化予防プロジェクトを実施していますが、任意参加の場合、健康意識の高い人や関心のある人以外は中々参加していただけないという課題があります。関心のない人にこそ、どうやって知ってもらい、理解してもらい、動いてもらうのか、というのが課題です。これはヘルスケア領域全体の大きな課題であり、まさにWizWeさんの習慣化の力で、最初の一歩を踏み出し、継続してもらうようにしていくことができれば大きいですね。続かなければ結果が出ませんから。

森谷:会話があると、それだけでプラスになりそうです。そこがリアルな会話だととても強いのですが、リアルな会話をどこまで実現できるか。

藤本:私たちの保険のビジネスでも、基本的に人によるサービスの部分が大きいです。そこにできるだけテクノロジー・デジタルを入れていくことにトライしていますが、完全デジタル化が答えなのか、という点については、少し疑問を感じています。

長い保険のジャーニーの中で、保険の価値を感じて頂ける「真実の瞬間」のようなものがあると思うんですね。その真実の瞬間を捉えて、そこは人によるハイタッチで、そうではないところはテックタッチでサポートしていく。カスタマージャーニー全体を、テックタッチとハイタッチをどう組み合わせて支えていくのかがすごく大事になってくるのではないでしょうか。

森谷:その点は、ものすごく興味があります。

藤本:真実の瞬間をどう捉えて、そこにどうハイタッチを入れていくのかというところが難しいんですけどね。

森谷:すごく難しいですね。弊社も限定的ハイタッチの銘柄だと思っています。ハイタッチを増やせば、それはそれで絶対プラスになるのですが、そうするとコストが高くなってしまうので、いかにクオリティーがいいハイタッチのまま、テックタッチを寄せるかというのは課題です。ずっとその話ばかりして いますね。

  • (※1)女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと、元気な赤ちゃんをさずかるチャンスを増やすこと、女性や将来の家族がより健康な生活を送れるようにすることを目指す取り組み。

  • (※2)妊娠することができる能力

サービスは使い続けてもらうことで価値を生む


藤本:私たちが一緒にサービスを作っているのは主にスタートアップ企業ですね。そこにアカデミアや自治体が加わったり、大企業が参加したりということもあります。スタートアップ企業とオープンイノベーションでサービスを作っていくのが基本的なスタンスです。

今後、アカデミアの知見を商品やサービスに具現化しているスタートアップ企業が増えるといいですね。きちんと裏付けがあり、データも取得して、一緒に改善サイクルを回していく、あるいは、プロダクトを良くしていくというような。

私たちのオープンイノベーションの定義 は、「1+1が3にも4にもなる」だと思っています。単に二つをつなげる、スタートアップ企業のサービスを私たちが使わせていただくだけ、といったケースはオープンイノベーションとは考えていないので、一緒に新しい価値を創造できるパートナーを探しています。

森谷:「Healthtech/SUM」や「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」 に出場させていただいて、やはりアカデミア発の研究知見はすごいと思いました。

藤本:いいサービスというのは、使われないと価値を生み出しませんし、使い続けられないと価値創造にならないですよね。「Vitality」もすごくいい商品なのですが、使ってもらわないと意味がありません。使ってもらって初めて、ユーザーに価値を提供でき、それが結果的に世の中の医療費全体を削減するなど、大きな価値を生み出します。

使ってもらうことと、使い続けてもらうこと。オンボーディングと習慣化のところが、ヘルスケアに限らず、あらゆる ウェルビーイングサービスの本質的な課題です。一回使ってよかったというのは、瞬間的ハッピーにしかつながらないですよね。ウェルビーイングは、もっと持続的なもの、ずっと続けていて良かったなといった、もう少し長い時間軸の価値観だと思います。Well-being as a Serviceを展開していくには、ユーザーに使ってもらうことと、続けてもらうことが一番の肝だと思っています。

森谷:いいサービスの話を聞くのは好きですね。皆さん、心血を注いで作っていらっしゃるので、その魂が好きです。「Smart Habit」を利用して、皆さんのサービスを少しでも 使う、使い続けるというシーンができるといいなと思います。

藤本:WizWeさんが習慣化の仕組みをつくって、そのサービスを使って習慣化を広げていくと同時に、その仕組みをパートナー企業が自走できるように支援していく、そういう考えは、すごくいいなと思いますね。

森谷:そこが一番の到達ポイントだと思っています。

藤本:習慣化のプラットフォームをみんなが使ってくれたらいいですよね。

森谷:全部開放していきたいなという思いはあります。まだまだ、やらなくてはいけないことばかりですが、頑張ります。