見出し画像

3.ブリーダーの責任 その2

前回、妊娠中に母イヌが受けるストレスが仔イヌの成長に影響する可能性について書きました。もちろん、妊娠時の母イヌが受けるストレスの質や量によって、生まれた仔イヌのカラダの中の生理活性物質の質や量などが変わることは大いにありうると思いますけれども、生後すぐの、仔イヌの知覚や感情、意識が芽生え始めた(であろう)時の環境の方が、その後の成長にはより大きな影響を与えているように感じているのは私だけでしょうか。

アカゲザルを使った非常に有名な実験があります。
「アカゲザルの仔は生後間もなく母ザルから離され、人工的に飼育される。その際に布でできた人形と鉄線でできた人形の2種類を提示し、どちらの人形と過ごす時間が長くなるかを調べた。ミルクを布でできた人形において授乳させた場合も、鉄線の人形において授乳させた場合も、同じように布の人形とともに過ごす時間が長かった。この結果は、アカゲザルの赤ちゃんは生まれながらにして母ザルとの柔らかく、あるいは暖かい接触刺激を求めており、このようなアタッチメントはミルクという栄養学的報酬によって成立するものではないことを示唆している(脳とホルモンの行動学 近藤保彦他 西村書店 2010年)」。

つまり、栄養を与えたのが鉄の人形であったとしても、結果として仔ザルは布の人形に長い時間寄り添った、という現象を確認したということです。ただ、仔ザルが「暖かい接触刺激を求めた」と推察していますが、この布と鉄の違いを「暖かさ」や「接触刺激の違い」といった触覚にだけ求めたのに何かしらの根拠があるのかどうかは不明です。布と鉄とでは、においも違いますし、触った時の音も違いますし、そもそも見た目も違うのでしょうから、理由を見つけにくい現象かと思います。

同じく、母ザルから生後まもなく分離させて育てた仔ザルはそうでない仔ザルよりもストレスへの抵抗力が弱いとか、社会的適応度が低いとかいった研究結果も示されています。ただ、この結果も、それが「母親のぬくもり」によるものなのか、「母親のにおい」によるものなのか、「母親の声」なのか、どの知覚がその差を決定づけたのか、は明らかになったわけではなさそうです。

いずれにせよ、早期に母イヌと分離された仔イヌが何かしら社会的行動に関するマイナスの傾向を持つようになることはしばしば観察されているようですので、前回は「妊娠している母イヌに無用なストレスを与えないようにしてください」というお願いでしたが、今回は「仔イヌがある程度成長するまでは母イヌと一緒にいさせてください」というお願いを書き綴ってみました。


科学的思考を育てるドッグトレーナースクール ウィズドッグアカデミー