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【 恒ちゃんのクリスマスイブ 】

この物語は、2017年に公開しました。
私に絵心がなく、放ったらかしにされていた可哀そうな絵本の原案が見つかり、物語に書き換えたものです。

【 恒ちゃんのクリスマスイブ 前編 】

 恒ちゃんはお母さんと一緒に、朝ごはんを食べていました。

「ねぇお母さん、サンタさんて本当にいるの?」

「どうだろう? お母さんは、会ったことがないからわからないわ。でも、いると信じている方がステキね」

「そうなんだ…… わからないんだ」

「どうしたの、プレゼントをお願いしたいの?」
「おしえないよーだ」

「あらそう、へんなの」

 恒ちゃんの名前は、佐井恒平さい こうへいです。小学校二年生です。

 恒ちゃんの家には、お父さんがいません。二年前に病気で死んでしまいました。

 それからはお母さんと二人で暮らしています。


 お母さんはレストランで、皿洗いをしてお金をもらっています。でもたくさんはもらえないので、恒ちゃんの家は少し貧乏なのです。

 ボクは「サンタさんは絶対いる」と思うんだ。でも学校で聞いたら、みんな笑うんだ。「サンタなんているはずないだろう」って、先生も笑っていたんだ。

 笑われた恒ちゃんは、少し悲しい気持ちになっていました。


 恒ちゃんにはどうしてもクリスマスに欲しいものがあったのです。でも、おこづかいがないので買えません。

 それで毎晩夜空を見ながら、サンタさんにお願いしていました。

 クリスマスイブの前の日、いつものようにサンタさんにお願いしてから、恒ちゃんはベッドに入りました。

 お母さんは夜遅くに帰ってくるので、恒ちゃんはいつも一人で眠っているのです。


 その夜、ゴソゴソとした物音に気付いた恒ちゃんが目を覚ますと、そこには赤い服を着た大きな男の人がいました。

 大きな白い袋の中に手を入れてなにかを探している男の人は、赤い帽子に白いひげ、絵本で見たサンタクロースにそっくりでした。

「おや、目が覚めたのかい。おこしてごめんね」

「サンタさん?」

「そうだよ、こんばんは」

「本当にいたんだ」

「あたりまえだよ、信じてなかったのかい」

「そうじゃないけど…… みんな本当はいないって言ってたから……」

「それはそうだよ、だってたくさんの子供たちみんなのところに、私一人じゃ行けないじゃないか。だからお父さんやお母さんに、プレゼントを渡してくれるように頼んでいるのさ」

「へぇ~ そうなんだ。じゃ、どうしてぼくの家に来てくれたの?」

「なんだ、せっかく来たのにイヤだったかい」

「そんなことはないけど…… でも知ってる? クリスマスイブは明日だよ」

「あはは、そうだね。でもね、君へのプレゼントはお母さんに頼めないじゃないか。それに明日の夜では遅いだろう」

「え!  だから今日来てくれたの」

「そうだよ。はい君の欲しかったプレゼント」

 と言って、キレイなリボンのついた小さな箱を、サンタさんは恒ちゃんに渡しました。


「え、本当に! ありがとう、サンタさん」

 あまりのうれしさに、恒ちゃんが飛び跳ねて喜んでいます。

 そんな恒ちゃんに、笑いながらサンタさんが言いました。

「それじゃ私はもう帰るね。まだ明日の準備の途中なんだ。みんな待っているから大忙しなんだよ」

 どこから入ってきたのか、部屋の中にはトナカイが大きなソリを引いて、サンタさんを待っていました。


「サンタさん、本当にありがとう」

 お礼を言う恒ちゃんの頭をなでてから、 サンタさんはヒョイとソリに乗ると、「それじゃ、メリークリスマス」と言って、トナカイの手綱を引きました。


 トナカイは前足を大きく上げて走りはじめました。

「あぶない窓にぶつかる」

 恒ちゃんがそう思った瞬間、トナカイのソリは窓をすり抜け、夜空に飛び出しました。

 ビックリした恒ちゃんが窓を開けると、もうトナカイのソリは遥か彼方を飛んでいて、キラキラ光る流れ星のような尾を引いていました。

「スゴい!」

 そう思いながら恒ちゃんは、ずっとサンタさんのソリを窓から見ていました。

 次の日の朝です。

 恒ちゃんが目を覚ますと、不思議なことにちゃんとベッドで眠っていました。

「昨夜のサンタさんは、夢だったのかな……」と思った恒ちゃんでしたが、それはちょっと違うのがすぐわかりました。

 だってプレゼントの箱は、枕のそばにちゃんとあったのです。


 驚いて飛び起きた恒ちゃんは、すぐお母さんのところに走っていって、昨夜のサンタさんの話をしました。

 朝ごはんを作っていたお母さんは、恒ちゃんの話を夢の話だと思いました。

 だから

「はいはい、わかったわ。よかったわね、ステキな夢を見たんだね」

 と言って、恒ちゃんの話をちっとも信じてくれません。


 でも大丈夫、恒ちゃんには証拠のプレゼントがちゃんとあるのです。

「本当なんだよ、ほら見て! プレゼントだって、ちゃんと持ってきてくれたんだ」

 きれいなリボンのついた小さな箱を恒ちゃんに見せられて、お母さんは困ってしまいました。

「誰がくれたのかしら? 本当にサンタさんかしら……」

 お母さんはいろいろ考えたのですが、さっぱりわかりません。

「とにかく朝ごはんを食べましょう」と言いながら、食事の用意をしました。

 恒ちゃんは「はーい」と返事して、ニヤニヤしながらいすに座りました。

 お母さんもいすに座り、「さぁ、いただきましょう」と言うと、恒ちゃんが「ちょっと待って」と言いました。

 恒ちゃんはお母さんのところにいって

「はい、クリスマスのプレゼント」

 と、小箱をお母さんに渡しました。


「えっ! どういうこと?」

 おどろいたお母さんが恒ちゃんに聞くと、

「ボクがサンタさんにお願いしたのは、お母さんの手につけるクリームなんだ」

 と、恒ちゃんが言いました。


「お母さん、毎日皿洗いで手がヒビだらけでしょ。それを治してくれるクリームをサンタさんにお願いしたんだよ。だからこれはお母さんへのプレゼントなんだ」

 それを聞いたお母さんは、恒ちゃんのことをそっと抱きしめ、何回も「ありがとう、恒ちゃん本当にありがとう」と言いました。


 お母さんは、恒ちゃんが優しい心を持った子どもに育ってくれたのが、とてもうれしかったのです。

    …後編につづく…

Facebook公開日 12/22 2017


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