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【 恒ちゃんのクリスマスイブ 後編 】


 お母さんは恒ちゃんを抱きしめながら、いつのまにか涙を流していました。

 恒ちゃんはお母さんに抱きしめられて、身体と一緒に心までくすぐったくて、ちょっぴり恥ずかしくて困ってしまいました。

 だから、

「お母さんくすぐったいよ。泣いてないで、早くプレゼントを開けてみて」

と言いました。

 お母さんが涙を拭いながら、リボンを丁寧に外し小さな箱を開けると、クリームの入った丸く白いビンが入っていました。

 サンタさんのクリスマスカードには、

「これはサンタの村に代々伝わっている、どんなヒビ割れもすぐ治る魔法のクリームです。特別に差し上げます。私は恒平くんのような優しい子どもが大好きです」

 と、書いてありました。

 それからもうひとつ、恒ちゃんに内緒のことも書いてあったのです。


 お母さんがさっそくクリームを手に塗ってみると、ヒビ割れしていた手はみるみるうちにスベスベの手になりました。

「スゴい! こんなにキレイになった、ほら」

 と、お母さんは恒ちゃんのほっぺを撫でました。

 お母さんのスベスベになったキレイな手でほっぺを撫でられ、恒ちゃんはとっても気持ちよくなりました。

 それから恒ちゃんは、お母さんと楽しく朝ごはんを食べました。


 そんな楽しい朝の時間が終わると、恒ちゃんはちょっぴり寂しい気持ちになりました。

 クリスマスイブの今日は日曜日。

 友だちのみんなは、お父さんやお母さんと一緒にケーキやごちそうを食べたりしながら、クリスマスのお祝いをするのでしょう。

 でも、恒ちゃんはそんな友だちと違い、またひとりぼっちになってしまいます。

 もうすぐお母さんは、レストランのお仕事に行かなければなりません。

「クリスマスイブの夜はとても忙しいから、きっと夜遅くまでお母さんは帰らないだろうな…… またひとりぼっちか……」

 恒ちゃんがそんなことを考えていると「ピンポーン」と玄関のチャイムがなりました。

「だれかしら?」

 不思議に思ったお母さんが「はーい」と返事して玄関を開けると、そこにはレストランの店長さんが立っていました。

「参ったよ。今日入っていたクリスマスパーティーのお客さんが、急にキャンセルになったんだ」

 そう言いながら、「ちょっとお邪魔するよ」と部屋に入ってきました。

「店長さん、おはようございます」

 恒ちゃんが挨拶すると、

「お、恒ちゃんおはよう。いっぱい朝ごはん食べたかい」

 と店長さんは言いながら、ケーキの箱をテーブルにトンと置きました。

「そんなわけだから、佐井さん今日は休んでくれ。ここしばらく忙しくて、休みにも仕事してもらっていたからな。そのお礼だ」

 と、お母さんにいいました。

「それからこのケーキは、私から恒ちゃんへのクリスマスプレゼントだ。パーティー用に仕入れたものだが、余ったから持ってきた。お母さんと一緒に食べてくれるかい?」

 と店長さんに言われ、恒ちゃんはビックリしてしまいました。

 お母さんと恒ちゃんはあまりにも突然のことだったので、どうしていいのかわかりません。

「店長さん、本当にお休みを頂いていいのですか」

 お母さんが店長さんに聞くと、

「もちろんだ。クリスマスイブを恒ちゃんと一緒に楽しんでくれ」

 と、店長さんは言いました。

「ありがとうございます。でもケーキまでいただくわけには…… このケーキのお代は、私の働いた分から引いてください」

 と、お母さんが言うと、

「そんな心配はいらないよ。さっきキャンセルしたお客さんが来て、『急にキャンセルして申し訳なかった』と、パーティー用に仕入れたもののお金を払ってくれたんだ。だからケーキのお金はもういらないのさ」

 と、店長さんは言いました。

 そして、

「それじゃ私は店に戻るから、今日は恒ちゃんとゆっくりイブを楽しんで、明日からまた仕事を頑張ってくれ」

 と言って、バタバタと帰ってしまいました。


 キョトンとしているお母さんに、恒ちゃんが聞きました。

「お母さん、今日お休みになったの?」

「そうみたい……」

 お母さんは信じられない気持ちで言いました。

「ワーイ・ワーイ、お母さんと一緒のクリスマスだ。ケーキもあるよ」

 恒ちゃんはうれしくてうれしくて、もう大はしゃぎです。

 ところが、恒ちゃんは大変なことに気がつきました。

「あ! お母さんどうしよう。ボク店長さんに、ケーキのお礼言ってないよ」

 と、恒ちゃんが言うと、

「大丈夫よ。だって急にこんなことになったんだもの、明日お店に行った時にお母さんがお礼を言ってあげるわ。さぁ、クリスマスパーティーの準備をしましょう。恒ちゃんも手伝ってね」

 と、お母さんは言いました。

 お母さんもうれしくてしかたありません。

 だって本当はお母さんも、クリスマスイブは大好きな恒ちゃんと一緒に過ごしたかったのです。

 お仕事で寂しい思いをさせている恒ちゃんに、いつも「恒ちゃん、ごめんね……」と寝顔を見ながらお母さんは謝っていたのです。


 さっそくお母さんは、ささやかなごちそうを作りテーブルに並べました。ケーキはもちろん真ん中です。

 そうして恒ちゃんとお母さんは、二人でジングルベルを唱ったり、おいしいケーキやごちそうをたくさん食べて、とっても楽しいクリスマスイブをお祝いしたのでした。

 その夜、恒ちゃんのうれしそうな寝顔を見ながら

「サンタクロースは本当にいたんだ……」

 と、お母さんは呟きました。

 そして窓から星空にむかって、

「サンタさん、ステキなプレゼントを本当にありがとう」

 と、お礼を言いました。


 サンタさんのクリスマスカードには、

『まだ恒平くんには内緒だが、ちゃんと恒平くんにも、素敵なクリスマスプレゼントを用意しておいたから心配しなくていいよ。そのプレゼントは、もうすぐそこに届くだろう。今日は二人で、ゆっくりクリスマスをお祝いしてくれたまえ。それでは、メリークリスマス』

 と、書いてあったのでした。


               おしまい…



 あと書き。。

 さて、あなたにとって、本当にうれしいプレゼントってどんなものでしょう?

 数年前、この絵本の原作を書いたきっかけは、ある女性からこんな話しを聞いたからです。

「私はもちろん、彼のプレゼントは嬉しかったわ。でも本当に嬉しかったのは、そのプレゼントを持って、私に逢いに来てくれたことだったの。どんな高価なプレゼントより、私のためにクリスマスを一緒に過ごす時間を用意してくれた。その気持ちが 一番嬉しかったの」

 大切な人、大切な時だからこそ、一緒に過ごす時間を作る。

 こんな気持ちを何かの形にしたいな、と思って原作を作ったのでした。

 絵本にはならなかったけど、物語という形で表現できたことには、ちょっと満足しています。

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

読んでくださった「あなたへ」 
              作者より


Facebook公開日 12/23 2017


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