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夢を語らない帰りの電車でやさしさを振りかえる今夜の車両

最もらしい言葉と奪い合いの様に奢る連中に疑問を抱きながら
「お先に失礼します」
と今日もいつものようにふぅと息を整えて帰路につく

無意識に駅の改札を通り、バックの重みで重苦しい胸を支えながら下りホームの階段をぼんやり降りて乗り込むのは、いろいろな事情を抱えた人たちのいつもの車両だった

止まらない列車の中に置き去りにされた空き缶の様に揺れながら、みんな横一線に静かに佇んで手のひらに写し出した思い出を振り返る

つらくて、悔しくて、大好きだったあなたをあきらめてしまったのは何故だったのか?

ポケットから取り出したスマホに昨日からあなたからの通知を求めても、変わらぬアイコンに今日もため息を漏らす

フリップを繰り返し、あのときの楽しかった思い出を四角い景色に求めながら、小さく吸い込んだ息が見慣れた夕暮れの様に音もなく消えていく

あきらめかけの画面から視界を上げると、小さく息を漏らしたボクの肩越しに僅かなスキマからまだ冷たい風が通り抜けて、小さな頬を母親の肩の上で半分埋める清純無垢の乳児の瞳が、疲れきったボクの方を見つめてることを知らせてくれた

そうか、そうだった
忘れていたよ

悲しみに暮れる夕暮れに、戯けた顔も悪くないかもね
そうすればキミと同じ様に、ボクのこころもあたたまるだろうから

いつまでも見つからないものを、胸のポケットに仕舞い込み、
(彼女のやさしさって誰のためなんだろう?)
そう問い直す様にあの日を振り返ることを今からやめるみるよ
自信が無いけど、きっとそれでいい気がする

でも、もう一度、もう少しだけ
小さく揺れる吊り革の様に揺れていたあの頃の想いを問いなおしたあとでいいよね?

やさしさという思いやりで、思いやりを超える様に認め合いで、わけ合えるものを探し続けていたあの頃に、もう一度だけ戻りたくなったんだ

(離したくないってどうして言えなかったんだろう?)

ボクの胸に愛くるしく寄せていた大切な人の笑顔がぼんやりとした車窓に映し出され、大好きだった人を憂いながら、あなたの優しい声が思い出せなくなるまで自分への失望がずっと続く様な気がする

だから、時間をかけて、ひとつひとつ愛し合った温かい時を振り返り、ひとつひとつ言葉を残していくことにするよ

まもなく終わる今日の覚悟で、もう一度あなたのアイコンに優しく触れたら、自分を無意味に苦しめるものと、根拠のない不安が鈍麻するまで伝わらない関係を見送って、僕の知らない新しいあなたを守る様に、また温かな想いを抱ける様な新しい扉が開く様に、「もう一度会いたい」ともう夢を語らないことにするよ

この切なさを埋めてくれるものが、ありがとうって言うだけでいいなんて、小さなキミの透き通る様な笑顔が教えてくれたから

それが好きだった人の心を温めるやさしさに変わるなら、思い出が消えていく苦しさと、あなたが残してくれたやさしさを振り返る今夜の車両に揺れながら、たくさんの感謝の言葉に置き換えて、これでよかったんだと言い聞かせてみるよ

こわばっていたボクの心に、もう一度キミの澄んだ瞳に、少しだけ微笑んでみたら、恥ずかしいがらずに受け止めてほしいんだ

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