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規格外農産物に対する、生産者と他業種の「すれ違い」

中小企業診断士のフクダです。
私は農業と他業種の橋渡し的なお仕事を永くやってきましたので、頻繁に「規格外品」に関するご相談を受けてきました。
何度もご相談を受ける中で、農業と他の産業に関わる人とで、「規格外品」に対する認識があまりにもズレているな、と感じたので、今日はそのお話をしましょう。

規格外品を活用したい、と考える人は多い

「フードロス削減に興味がある。生産者が捨ててしまう規格外品を買い取る仕組みを考えた。生産者を紹介してほしい。」
「SDGsの取り組みとして、生産者に店先の場所を貸すから、規格外品をマルシェで販売して」
「フードバンクや子ども食堂に寄付したいので、規格外品を提供して欲しい」
こんな企画書を持って相談にくる方が、年に何人かはいらっしゃいます。
お取引のないレストランやホテルから「規格外品をまとめて買ってあげる」というご連絡が来ることもあります。

ところが残念ながら、私の周りの生産者は、この手の「規格外品活用」話にうんざりしています。
鉄腕DASH!の人気企画、捨てちゃう食材で料理を作る「0円食堂」が嫌い。という生産者は結構多いです。

A品、B品、規格外品の違い

規格外品というと、一般の人は「ちょっと曲がったキュウリ」とか「ちょっとスレ傷があるリンゴ」といった、食べる分には支障がないけれど市場には出せない商品、ぐらいのものをイメージすると思います。
実はほとんどの場合、この手の商品は「B品」と言って、既に売り先があります。

A品
サイズ、色、糖度、傷や変色の有無など、出荷規格を満たしたもの
B品
少しだけサイズが合わない、小さな傷や変色などがあるが、普通に食べる分には問題のないもの
規格外品(C品)
大きな傷や割れがある、虫や鳥獣に食われて大きな穴が開いているなど、可食部が少なかったり味が劣るもの

一般的な野菜や果物の場合、A品は市場などに出荷し、B品は農産物直売所や道の駅、スーパーの直売コーナー、加工業者などに売ることが多いです。捨てません。
C品も人参などは馬の飼料として売られるなど使い道があることも。
場合によってはA品以外は規格外品、という作物もあります。スーパー等で売りにくいレアな作物や高級品の場合です。
その場合も、規格外品が説明なしに出回ってしまうと「あそこは質の悪い作物を売っている」と悪い評判が立ってしまうので、信頼関係のできている取引先にしか売りません。

初見で「規格外品売ってくれ」は生産者からどう見えるか


私はよく、「規格外品が欲しい」というレストランの方にこう説明します。

「規格外品は、レストランで言えば『まかない』や『裏メニュー』みたいなものです。常連さんならまだしも、いちげんさんがいきなり『この店のまかないを食べさせろ』って言ったら、まず普通のメニューを食べてくれ、って思いますよね」

生産者も同じで、初めて会った人から「規格外品が欲しい」と言われても
「いや、その前にうちの『A品』の品質を確認してくれませんか? ただ安いものが欲しいだけなの?」って感じます。
普段から沢山A品を買ってくれるお取引先には、優先的にB品、規格外品を安く卸すことが多いです。

B品、規格外品を作りたい生産者はいない


「規格外品が欲しい」の本音は「(A品よりかなり安い値段で)規格外品が欲しい」という場合がほとんどです。A品と同じ値段で買ってもらえるなら、生産者だって喜んで販売します。
高単価で販売できるよう、栽培技術を上げたりいろんな販路を作って、いかに「規格外品」の割合を減らすかが、生産者の腕の見せ所でもあります。
だから、「規格外品が欲しい」と言われるのは、生産者からすると「お前のウデが悪くて売り物にならなかった作物が欲しい」と言われているように感じられることもあります。

また、規格外と言っても、ちょっとした傷からほとんど食べられないものまで、程度に大きな差があります。虫食いならどの程度許されるのか、傷はどれくらいまでOKなのか。売るために「規格外の規格」が必要になってしまい、その選別のための手間がかかります。
さらに形の悪い野菜などは、洗ったりカットするのにA品よりも余計な手間がかかります。手間と販売価格が見合わないのです。

収穫期は忙しく、安いものやお金にならないものに手をかけられない

収穫期の現場は戦場です。私も作業を手伝ってみるまで知らなかったのですが、野菜って収穫後に「選別」「調整」などの手間が予想以上にかかります。洗ったり汚れを落として、見栄え良くカットしてサイズを揃えて、計量して袋に詰めて、ラベルシールを貼り箱詰めして伝票を発行して出荷場に持ち込んで…
収穫ピーク時は睡眠時間を削り、早朝からてっぺん(24時過ぎ)まで作業している、などという話もよく聞きます。

A品を出荷するだけで精一杯なのに、同じ手間をかけて安い規格外品や、ボランティアで差し上げるような野菜を用意している余裕がないのです。
ましてや、レストランの方などは、当然のようにお店まで届けてもらえると思っていることが多いですが、配達に行くにも貴重な時間とコストがかかります。
(子ども食堂用の野菜などは、引取りに来てもらえれば貰えることも多いです)


ダメ出しばかりしていても仕方ないので、私なりの「生産者に喜ばれるB品・規格外品活用」について考えてみます。

B品・規格外活用に向く作物・向かない作物を知る

カボチャや芋、根菜類など、一度にまとめて収穫してから選別する作物は、B品・規格外品活用に向いています。サイズが合わないもの、少し傷があって売り物にはならないけれど、すぐ加工すれば問題なく使える、といった規格外品がまとめて出る可能性があります。
こういったものは、まとめて買って貰うと現金化できますから生産者は嬉しいです。嵩張るので、引取りにきて貰えると一層喜ばれます。
一方で、「なりもの」と呼ばれるナスやピーマンなどの果菜類、葉物野菜などは、虫食いやサイズ違いなどの規格外品はそもそも収穫しませんし、日々収穫するのでまとめて規格外品は出にくいです。「規格外品だけくれ」と言われると、わざわざ規格外品を選んで収穫するコストがかかるため、活用に向いていません。

無選別で大量に買う

上で書いたように、1個売り、小袋売りの野菜は選別や調整にとても手間がかかります。農産物の原価の多くは人件費なので、「規格に関係なく、無選別で大ロットで買いたい」と言ってもらえると、とても助かります。手間がかからない分、価格も抑えられます。

A品でも作物が余ることがある

一般の人の誤解として、畑の作物は全部収穫されていて、規格外品だけが捨てられている、と思われている方が多いようです。
規格外ではないけれど収穫されずにそのまま畑や倉庫で腐っていく野菜や果物も、実際は結構あります。
理由はさまざまですが、気温が急に上がって一気に収穫タイミングを迎え収穫・選別・調整が間に合わない、とか、思ったより豊作で売り先がない、とか、シーズン終盤で値崩れしていて収穫の手間に合わない、といった場合があります。
普段から生産者とA品購入で良い関係を築き、こういう「作物が余ったタイミング」で連絡してもらい、まとめて購入するとWINーWINの関係になれると思います。


最後に、規格外品に関する誤解として、当事者の生産者が書いた記事。
非常にわかりやすいので読んでみてください。(最初からこれ読めば全部理解できるんじゃないか、というくらいの良記事)



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