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【IMPS2023 参加レポート】 国際学会初心者が実際に足を運んで現場情報をお届けします!

こんにちは!株式会社GA technologies、Advanced Innovation Strategy Center(AISC)所属、新卒二年目のです!

2023年7月24日~7月28日に2023年度の心理測定学会 PSYCHOMETRIC SOCIETY(IMPS2023)がアメリカのメリーランド大学で開催されました。もともと心理統計学研究室出身で、学生時代に日本国内学会をオンライン参加した経験しか持っていなかった私にとって、これは近年の心理統計学の研究トレンドを把握する素晴らしい機会です。

また、AISCのデータサイエンスチームでは現在、不動産評価に対する人の心理を数値化し、営業活動において顧客の投資心理活動をカテゴリ化して活用するなどの研究課題に取り組んでいます。学会で発表された研究成果を聞くことで、データサイエンスチームの研究課題と密接に関連する情報を選び出し、心理統計学という新しい切り口やアイデアを導入することができるようになると思います。

だから、上司に提案して一人でアメリカへ行って、学会に参加できるようになりました。今回の学会参加費はGA technologiesのテックチャージ(自己研鑽制度)を使って払いました。上長の承認を得れば、自己研鑽に対して利用回数や金額の制限なく使うことができます!

今回のブログの内容は、心理測定学会の概要、当日の様子と聴講して興味のあったセッションとその感想について書いています。

国際学会はどんな感じなのかについて少しでも興味をお持ちの方、最後まで読んでみてください!


心理測定学会の概要

まずは心理測定学会と心理測定学の公式の定義をここで載せます。

心理測定学会の年次総会は 1935 年から開催されており、この会議は国際心理測定学会 (IMPS) と呼ばれるようになりました。会合は米国、中国、カナダ、オランダ、ドイツ、英国、日本、チリ、イタリア、香港を含む多くの国で開催されており、通常は6月か7月に開催されている。出席者と発表者は通常、約 30 か国から集まります。

IMPSのホスティング

Psychometric Society のキャッチフレーズには、この協会は心理学、教育、社会科学における定量的測定実践の進歩に専念していると記載されています。
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今日、心理測定学は、欠損データの処理、事前情報と測定データの組み合わせ、特別な実験から得られた測定、統計結果の視覚化、個人のプライバシーを保証する測定、等々。心理測定のモデルと方法は現在、教育、産業心理学、組織心理学、行動遺伝学、神経心理学、臨床心理学、医学、さらには化学など、さまざまな分野に幅広く適用可能です。

サイコメトリクスとは何ですか?

上記のように、心理測定学会は、各国の研究者が心理測定、計量心理学に関する最新の研究成果を発表し、活発な議論をする場です。

今回の学会で発表された研究テーマは、主に項目反応理論(IRT)、アセスメント開発・テスト開発、欠損値処理、共分散構造分析、因子分析、機械学習、生成AI、ネットワーク分析、因果推論などに関連のあるものでした。

当日の様子

7月24日は学会の短期講義の開催日でした。大学の地図を探索する必要があったので、朝早めに泊まっていたホテルからメリーランド大学に向けて出発しました。

メリーランド大学の中
メリーランド大学の夜の様子

夏休みのせいなのか、大学の中ではどこでも工事が行われていて、imps2023に関する指示は何もなく、本当に開催会場がここなのか不安になりました。大規模な学会ですけど、初日のショートコースには参加者が少なく、他の参加者について会場に行くことも難しかったです。幸いなことに、彷徨っていた際に他の学会参加者を見つけて、校内の学生に道を聞きながらようやく開催会場のAdele H. Stamp Student Unionに到着しました。ここは今回の学会の主な開催場所です。

Adele H. Stamp Student Union:学生の社交活動や学外活動の中心となる場所

その後すぐに、学会の登録場所に行って、自分の名札とパッケージを受け取りました。中にはメリーランド大学のロゴが印刷されたペンや水筒、そしてストローなどのグッズが入っていました。

メリーランド大学のグッズ

その後、短期講義の教室に向かいました。私はTomasz Zoltak博士のログデータ処理のコースを選びました。一日目の朝の9時から夜の5時まで、ずっとログデータ処理について集中的に授業を受けました。

どの教室にどのセッションの予定があるのかの指示

各セッションの間にcoffee breakという名の休憩時間があります。このcoffee break areaは、参加者同士がコーヒーとお茶、軽食を食べながら、交流や、情報を交換する場でもありました。

コーヒー
クッキーやマフィンも提供されました。

こういう社交場に備えて出発前に自分の名刺も準備しました。最初、研究開発部門の従業員として、どんな場面で名刺を使うか考えつかなかったですが、研究者たちが学会で交流する際に、相手の教授や企業、学生と連絡先を知りたい時にまさに名刺が登場する機会だと知りました。名刺を渡して自社を紹介することもできます。

それで学会に参加した際に、自分が興味を持っている研究をしている人たちや、将来の共同研究や業務上の連携に繋がる可能性のある研究者と名刺を交換しました。

続いて学会の本番である、研究発表について感想を書いていきます。

研究発表の種類と聴講した感想

IMPS2023は5日間で、1日目は短期講義で、2日目以降の日程では、口頭発表基調講演招待講演ポスター発表がありました。全て参加してきたのでそれぞれに対して私の感想を書きます。

短期講義

短期講義(short course)は、技術や知識の伝達を目的とした短期集中授業です。今回の短期講義の講師は、ポーランド科学アカデミーの哲学社会学研究所の研究員として働いているTomasz Zoltak博士です。彼は自分で開発したlogLimeパッケージを使用してログデータを処理し、分析する方法について主に説明しました。パッケージの開発者から直接レクチャーを受けられる貴重な機会ですね。

Tomasz Zoltakさんの短期講義

英語の講義を聞くのは久しぶりですが、Tomasz Zoltak博士はゆっくり、はっきりと解説してくれたので、私でもついていけました。今回の講義は「どのようにログデータを取得して前処理して可視化するか」がメインで、具体的な活用方法についてはあまり言及されていませんでした。発見された回答パターンから何らかの心理学的、理論的な意味を導き出すことは、まだまだ困難なことで、それに関連する研究は少なさそうです。

この短期講義で具体的にどんな話をしたのかは後日、別の記事にまとめる予定です。興味のある方は是非、フォローをお願いします。

口頭発表

口頭発表(oral presentation)は、心理計量のテーマを分けて、投稿が審査を通過した発表者がみんなの前で自分の研究について口頭発表を行います。事前に配られたパンフレットから、何時にどの教室でどのテーマについて誰が発表するのかを確認して、自分の興味のある研究を聞きに行きます。

口頭発表のスケジュール

開催場所は小さめな教室で、発表者は聴衆に向けて、自分の研究内容を12〜15分ぐらいで説明できる量にまとめて発表します。各セッションには司会者(chair)がいて、発表および質疑応答を取り仕切ります。発表が終わった後は3分程度の質疑応答の時間を設けています。発表終了後、発表者にもっと研究の詳細を聴くために追いかける人もたくさんいました。

個人的な感想は、口頭発表は発表者も聴衆にとっても結構苦労し、負担がかかる形式です。ここで発表された研究は大体最新で、聴衆者にとって未知の知見が多いです。研究者は、多くの労力と時間をかけて行った研究を、短期間ですべて発表しなければならなりません。そして短時間のうちにスライドが切り替わるので、聴衆も瞬時に先に示した研究内容を理解しなければなりません。研究者が演台に出て発表している際にも、私は下でメモを取りながら、見たことのない専門用語を探して、研究者についていけるように理解しようとしていました。一つのセッションが終わったら、頭の中はもうすでに飽和状態になって、これからもっと勉強しなければと感じました。

Viola MerhofさんがIRTree modelsについて発表しています。
Manshu Yang博士が欠損値処理について話しています。

ちなみに、AISC部署では、毎週水曜日の午後には、学術的な形式で自分の今週の研究進展を英語で報告するミーティングがあります。各人がみんなの前で英語でプレゼンテーションを行い、発表時間が超過しないように進行役がタイムキーパーをします。プレゼンが終わったら、みんなが英語で質問し、発表者はその場で回答しなければなりません。AISCのほとんどのメンバーの母国語は英語ではないため、毎週この発表の場で苦労しています。今から振り返ってみると、これはまさに将来国際学術会議で発表し、そして発表者に対していい質問をできるようになるためのトレーニングなのです。頑張りましょう!

基調講演、招待講演

基調講演、招待講演(keynote)は、心理統計学の分野で重要な貢献をした、その分野の著名な研究者の講演です。一般の口頭発表よりも長く50分から1時間ぐらいのことが多いです。同じく講演の後には質疑応答の時間が設けられます。

通常発表内容は、研究者自身の長い研究キャリアの中で生まれたその分野に対する思考や、研究者が以前関わってきた様々な研究プロジェクトの解説です。理解するのは難しいですが、学会の中でも特に重要なセッションとも言えます。

今回の学会で、Klaas Sijtsma教授が心理測定学における生涯功績に対してキャリア賞を受賞しました。彼は、近年心理測定の技術的基盤が統計と機械学習になってきて、だんだん心理測定学から離れていったと述べました。確かに心理測定学は、いま多くの人が親しんでいる機械学習と深層学習に比べ、徐々とマイナーな存在になりました。口頭発表のセッションでも伝統的な心理統計学手法以外も、機械学習、生成AIなどのテーマが現れています。それでもKlaas Sijtsma教授は、新しい研究手法が出たから伝統的な手法を捨てるのではなく、心理測定学に復帰してほしいと呼びかけました。

Klaas Sijtsmaによる講演、心理測定なんて誰が気にするだろうか?

一方、同じく基調講演で登場したHong Jiao教授は、潜在能力測定に積極的に機械学習と深層学習手法を適用して、機械学習と心理測定学をうまく融合しようとしています。例えば、大規模言語モデル(LLM)を使って高品質なテキスト特徴量を取得し、心理測定モデリングに組み込むとか、大規模評価における不正行為検出のために、データ拡張、特徴量選択、ブレンディングアンサンブル学習などの機械学習方法を適用して不正行為検出の精度を大幅に向上しました。

このテーマについても後日、詳細を別の記事にまとめる予定です。

「デジタル評価における心理測定分析の理論と実践を強化する」についての講演

基調講演の内容の幅広さと深さは10分程度の口頭発表と比べてさらに一段階上がりました。それに対して私も必死にこの研究者の公開論文リストを事前に確認したり、講演の趣旨を理解するのをがんばりました。

診断研究のための隠れマルコフモデルの改良

ポスター発表

2日目の夜には、学会のオープニングセレモニーとポスター発表のセッションが同時に行われました。オープニングセレモニーの会場は、大学の向かいにあるホテルの2階で、ほとんどの参加者が集まり、ビュッフェ(バーでお酒も提供しています!)を取りながら他の研究者と会話をしました。

提供してくれたビュッフェ

その間、隣の大会場ではポスター発表(poster presentation)が行われていました。正式開始前に発表者たちは自分の研究ポスターを印刷し、板に貼り付ける作業に追われていました。

ポスターの前で待機して発表している発表者と立って発表を聞いている聴衆

発表の場では、発表者は自分のポスターの前に立ち、興味を持ってくれた参加者が近づいてきたら、自らの研究内容を説明し始めました。口頭発表のような時間制限はありませんでしたが、実際の発表時間は1時間以上になることもあります。私はポスター発表が口頭発表とは異なり、一方的な説明ではなく、聴衆との対話が可能であると感じました。また、すべての研究内容が1枚のポスターに含まれているため、聴衆にとっても研究の構造を理解しやすく、納得のいくまで聞いて、質問もしやすかったです。

興味のあるポスターの写真を撮ってゆっくり読んだ。Jianhun Huang教授によるIRTreeの研究。

最後に

新型コロナウイルスの影響で、院生時代の私は実際に国際学会の雰囲気を体験する機会がありませんでした。しかし、この学会を通じて、心理計量学に関する多くの新しい知識や洞察を得ることができました。この経験は研究や仕事にプラスの影響をもたらすでしょう。

例えば、アンケート回答システムでのログデータ分析によって回答者の回答パターンを考察できる、極端反応スタイルと軽度反応スタイルに応じて新たな項目反応モデルを適用できる、という新たな研究アプローチや技術を取り入れることで、研究の幅が広がり、実際の業務の中でも新たな視点をもたらすことができます。

そして、この学会では、大学院2年生でありながら学会で口頭発表できるほどの若手研究者に出会い、すごく刺激を受けました。今回は研究の発表者ではなく聴講者として参加したのが非常に残念でしたが、将来の研究開発仕事で学会の審査を通過し、現場で発表できるような研究を成し遂げたいと願っています。

最後に学会参加を支援してくれた人々や所属組織に対して感謝いたします!GA technologiesとAISCに興味を持ってくださった方は採用情報部署のWebサイトをご確認ください!


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