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台湾ドリンク指南書【一芳と台湾フルーツティー】

台湾の夏は水果茶がよく映える。
珊瑚礁のようにキラキラと光るフルーツたちが、
澄み切った茶の中で妖艶に漂う姿はまるで青春の一ページのように眩しく麗しい。

馴れ初め

初めてこのドリンクに出会ったのは5年前。
台北の師範大学付近にある一芳であった。
その日の台北は猛暑で、この国の全てを知る意気込みで街を探索していた私はその暑さに意気消沈し、早々に帰路を目指しかけていた。
HPも残り僅か、ふと目に止まったドリンクスタンドで何気なく注文した看板メニューのフルーツティー。
太めのストローを突き刺してたどり着いた最初の一口。

口いっぱいに広がるフルーツの甘味を青茶の香りがやさしく包み込む。
甘いがそれでいてしつこくない、カラフルなフルーツが奏でる清らかなハーモニーの優しさたるや。
こんな美味しいモノをなぜ今まで知らなかったのだろうか、なぜ日本にはこれがないのかとそれはそれは不思議でならなかった。
まさに一目惚れならぬ一口惚れ。
恋愛漫画さながらのトキメキを抱いた私は、
それからの五日間一芳に通い続け、無事に水果茶(フルーツティー)マニアとしての一歩を踏み出した。

魅力を語る

一芳のフルーツティーの特徴はなんと言ってもその大きめにカットされた山盛りのフルーツだ。
フルーツティーは台湾のドリンクスタンドや少し高めのレストラン、カフェなんかで見かけるが、細かく切った砂糖漬けのパインや桃、市販のパッションフルーツソースを使うところがほとんどである。
それが悪いわけでは決して無いが、大切なのはそのバランスだ。
シロップやパッションフルーツの味が濃すぎてはまるで砂糖水を飲んでいるように感じるし、
かといって風味が薄すぎては主役のいない誕生日パーティーのように、水っぽく無意味なものになってしまう。
そして飲むスピードも大事なポイント。
台湾のフルーツティーはヨーロッパのそれと違い、上等なものほどふんだんに生のフルーツを使う。
フレッシュな香りが出る反面、
時間が経つと柑橘の皮の苦みや余分な甘味も染み出し、味が落ちてしてしまうのだ。
私のような卑しん坊さんには悲報だが、
それを避けるに最低でも一時間以内に飲み干さなくてはならないし、できれば氷抜き(去冰)は避けて注文すべきだ。
ぬるくなったフルーツティーほど悲劇的なものはない。
彼女らは生き物であり、鮮度が命なのだ。

ときめきの行方

そんな私の愛してやまない一芳。
実は最近ではもうほとんど天然記念物になってしまった。
2019年に始まった香港の民主化デモに際して、一国二制度に賛成するという発言をし、
多くの台湾国民の怒りを買ってしまったのである。
四ヶ月の短い期間でその店数は180軒から150軒まで減少し、
私の住んでいた宜蘭市にあった店舗も姿を消してしまった。
煮ても食えない政治の話はさて置いて、
最愛のフルーツティーとなかなか会えないとなると心許ない…、が!どうやら一芳のホームページによると東京と石川県にも進出しているとの事。
まだ試したことのない方には夏のすこぶる暑い日に、是非あの感動を味わっていただきたいものだ。

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