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【読書感想】武器としての決断思考

議論は何のためにあるのか?

日本人は議論が下手だと言われがちだが、それ以前に「絶対的な正解」にこだわりすぎているのではないか──。

そう指摘するのが、元東大法学部で、大学院をスキップして助手に採用されたにもかかわらずマッキンゼーに転身した瀧本哲史氏。東大法学部で、教授の助手というのはエリートコースであり、マッキンゼーへの転身については当時、周囲全員から反対された。

結果的にではあるが、その後は日本でもロースクールができて、実務家の教師が台頭し、研究者の地位が弱くなっていったため「人生最良の決断だった」と振り返る。

これからの時代、「意思決定の方法を学ぶことは最大のリスクヘッジだ」と述べる。では具体的にどう意思決定するのかというと、本書のメインである「ディベート思考」だ。

ディベート思考とは

冒頭で日本人は正解にこだわりすぎているのではないか、と指摘したが実際には正解がわかっていることは非常にまれだ。学問の世界ですら、定説が覆ることは珍しくない。そこで役立つのが、正解ではなく最善の答えを目指ししてディベートを脳内で行うディベート思考だ。

ディベート思考でポイントになるのが、賛成と反対に分かれるということ。ディベートは競技としては実は、くじ引きで賛成か否定かが決まる。なので、ある議題に対しては賛否の両論を自分で考えることになる。

だからこそ、ディベート思考が役に立つ。自分に都合の悪い意見や、自分の価値観からは出てこない意見もすべて視野に入れていくことで、最善を決めるからだ。

実は結論よりも大切なことがある。それは結論以上に、どういう思考で判断をしたかということだ。現実のディベートなら公平なジャッジがいるが、自分の脳内で完璧かつ客観的な判定はできない。

それでもいい。無意識に脊髄反射で決めるよりは、遥かに良い結論が導けるはずだし、筋道がはっきりしていれば後から修正すればいいからだ。前提や理由が変われば結論を買えればいいだけだからだ。仮に間違った結論でも、問題から結論に至る道がはっきりしていれば、修正すればいい。

ケーススタディ:A君の就活


大学院に進学するか迷っていた大学生のA君は、第2志望群のX社からしか内定をもらえなかった。彼は内定を受けるべきか?それとも辞退して大学院に進学するべきか?

→この場合、まずは問いを分解する必要がある。「内定を受けるべきか」と「大学院に進むべきか」だ。筆者の経験上、一つの大きな論題は最低でも2つか3つの具体的な論題に落とし込めるという。

→ここで大学院に行かないと判断した場合、次は新たに「就活を続けるかどうか?」という論題になる。ここでメリットとデメリットを書き出す。

<メリット例>
(1)X社より良い会社に就職できるかもしれない
(2)就活を通して成長できる
(3)他の就職先から内定が取れなくても、納得感が高まる

ここでメリット足り得るには、①なんらかの問題があること(内因性)②その問題が深刻であること(深刻性)③問題が解決すること、の視点で検証する必要がある。

(1)は就活を続けないと良い会社に就職できない。これを問題と捉えた(①)。就職の問題は深刻だ(②)就活によって解決はできる(③)となり、メリット足り得ている。

一方で(2)や(3)はどうだろうか。問題としてとらえることは可能だし就活によって解消するが、②の深刻性やは満たさないかもしれない。

次に、デメリットとしては以下が考えられる。
(1)就活を続けることで更なる時間を消費する可能性がある
(2)就職先が決定しないことで、精神的に落ち着かない期間が続く
(3)研修やインターンに集中できず、入社後のパフォーマンスや評価に悪影響が出る

デメリットは以下の3要素で検証する。
①その行動をとったとき、新たな問題が発生しないか
②その問題が深刻か
③現状でその問題は生じていないか

(1)は①②を満たすだろう。大学4年生の時間は卒論なども作るため大変だ。そしていまはまだ時間は浪費していないため、③を満たす。
(2)、就活を続けることで内定をもらえるかもしれず、内定をもらえないかもしれない。モヤモヤすることになる。こういった問題は就活を続けるから起きるわけで、辞めてしまえば生じない。(3)も満たす。

とこのように、メリットデメリットを戦わせていくことになる。
実際にはメリットデメリットがそれぞれ3条件を満たしているようで、「そうかな?」となる部分もあるはずだ。

こうしたところに例えばメリットに対して「いや就活を続けても成長なんてできないよね」とか「就活を続けても似たような体験を繰り返すだけで、ろくに成長なんてしない」といった反論ができるし、逆にデメリットに対して「就活に慣れたA君からしたら精々1日1時間程度なので大した時間の浪費ではない」「就活を辞めてもどうせ遊ぶだけだから貴重な時間ではない」といった反論が可能になる。

少しテクニックの紹介に寄ってしまったが、筆者は「反論の細かいやり方なんて忘れても構わない。大事なのは、意見・主張には必ず根拠が必要だ」という。そしてその根拠は反論に耐えたものではなければならない。

こうしたことを重ねて、意思決定を少しでも後悔の無いものにしていこう。

本書の所感

筆者の頭の良さやこんな論理的思考力ができたらいいなと感じた。意思決定の基本となるフレームワーク、ディベート思考について学べる。

巷に「コンサル思考」「コンサルの仕事術」みたいな本はいっぱいあると思うのだが、ここまで具体的かつ身近に優秀なコンサルの思考法を教えてくれた本は珍しいと思う。情報収集などにも具体的なtipsがいくつか紹介されてて実用的な本だった。





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