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宗教の目的と公益性|第5回宗教マイノリティ理解増進勉強会【上】

2月24日、東京都内で「第5回宗教マイノリティ理解増進勉強会」を行いました。今回も主の羊クリスチャン教会の中川晴久牧師の参加を頂きました。また新宗教の信徒の方2名が参加、家庭連合からは青年・学生9名、壮年・婦人5名で、合計17名が参加しました。

はじめに、私から「宗教の役割と公益性」をテーマにまとめた内容を発表、その後、意見交換をしました。

以下は発表内容の要旨です。


宗教団体の目的とは

この会は、「宗教間協力と宗教理解増進を通して日本の精神性を高め、差別や偏見のない平和な社会の実現」を目指しています。

また、宗教理解増進に関連し、家庭連合への解散命令請求についても考えていきたいと思います。

文科省が公開している資料「宗教法人世界平和統一家庭連合の解散命令請求について」を見ると、解散命令請求の根拠として次の内容があげられています。

宗教法人は、公益法人として、宗教活動によって不特定多数の者に心の平穏や精神的安定をもたらし、社会貢献する存在であると期待されているにもかかわらず、本件対象(家庭連合の)行為は、人々に苦痛や苦悩を与え、生活の平穏を害するという負の影響を生じさせており、宗教法人法81条1項2号前段の「著しく目的を逸脱する行為」に該当すると認めました。

令和5年10月12日記者配布資料

宗教法人は公益法人

そこで、文科省がいう「宗教が社会に貢献するものとして期待されている」とはどういうことなのか。この文科省の認識は正しいのか、宗教はどういう役割をし、どういう貢献をしてるのか、などについての理解を進める必要があると思っています。

公益性の調査

杏林大学社会科学学会が発行している学術雑誌『杏林社会科学研究』第32 巻1 号(2016年8月)に「信仰に関するアンケート調査」の一部が掲載されています。それを参考に宗教団体の公益性について考えてみようと思います。

特定の宗教施設に通う頻度

特定の宗教施設に通う頻度を見てみると、「週1回以上通っている」が、2.3%、「月2回以上通っている」が、1.5%、「月に1回は通っている」が3.2%です。

そうすると、「月に1回以上、特定の宗教施設に通っている人」は7%となります。

『杏林社会科学研究』第32 巻1 号(2 0 1 6 年8 月)

この7%ぐらいの人たちが、大多数の日本人とちょっと違う価値観を持つ自覚的な信仰を持つ人たち、「宗教マイノリティ」に当たると言えそうです。

取り組んでほしい公益的な取り組み

次に「宗教団体に取り組んでほしい公益的な取り組み」を見てみると、一般的に宗教がしてるだろう様々な活動の中で、取り組みが期待されているのは、多くて10%を少し超える程度です。

『杏林社会科学研究』第32 巻1 号(2 0 1 6 年8 月)

10%超えてるのは、「高齢者を対象とした活動」「非行からの立ち直り」「安全な生活のための活動」「自然環境を守るための活動」「災害援助、救助や復興に関する活動」などで、「特にない」が70%近くで圧倒的に多い状況です。

この数字から見ると、一般的に宗教に期待する意識自体がほとんどないという感じです。

日本社会で受け入れられるために必要なこと

「宗教団体が日本社会において受け入れられていくために必要なこと」についても高いものはほとんどありません。

『杏林社会科学研究』第32 巻1 号(2 0 1 6 年8 月)

この会が目指している「宗教に対する偏見をなくす取り組み」は16%ぐらいです。

一方で「団体相互で自浄作用を発揮し、いかがわしい団体を排除する」「国による違法な団体の取り締まりを強化」が30%を超えています。

宗教の役割

次に、宗教の役割について考えてみましょう。

これは、「soka youth media」(創価学会青年部が運営するメディア)からの引用ですが、「宗教が果たしうる役割」について、①祈り②良き市民として社会に貢献③人と人を結びつける――の3点を挙げています。

良き市民

ところで、宗教の役割で「良き市民」として貢献していることは結構あるのではと思っています。数字に表すのは難しいですが、「いい人だな」「人に尽くす人だな」という中に、実は特定の宗教信仰を持っている人が多いのでは、という気がします。

例えば、日本テレビの「24時間テレビ」で、ボランティアスタッフのリーダー的なことをしていた人が、家庭連合の信徒だったということがありました。気づかないけど、ボランティア的な貢献する人に宗教心が強い人が多いのでは、という気がしています。

一方で、「宗教が生み出す連帯の力が内向きに偏ると、外部に対しては閉鎖的、敵対的になることもある」との指摘があります。

これが外から見て、宗教が何か怪しい団体と見られてしまう 1つの理由なのかもしれません。

従って、宗教団体は、社会と広く交流していくことを意識する必要があると思います。

宗教者の強さ

宗教心を持っているがゆえの強さというのもあると思います。

10年前、御嶽山の噴火で犠牲になった方々の中に家庭連合の信徒もいました。その3年後だっと思いますが、遺族の取材をしていたマスコミ関係者の何人かに会った時、「家庭連合の人たちは強いですよね」と言ってました。「家庭連合の人たちは、つらい状況を強く乗り越えて生きている」とマスコミの人たちが印象深く話してくれたことがありました。

こうした点から、形として、数字として、明確にするのは難しいけど、宗教者が強さであるとか、良い影響を与えていることは、結構あると思います。

利害を超えた関係構築

それから、これは『佼成新聞DIGITAL』で見つけたものですけど、宗教の良さとして、「利害を超える道を示すことができる」ということをあげています。

世の中は利害関係で動きがちだけど、利害関係を超えた模範になることが信仰者はでき、それが社会の潤滑剤となることもできるということです。

これも気づかないところで、信仰者が人間関係をスムーズにしていることがあるのではと思います。

そういう感じで、数字に出ないところで、宗教が大切な役割や公益性を発揮しているのではと思います。

宗教の公益性

次は宗教の公益性についてです。

宗教法人法の目的は法的能力の獲得

公益財団法人国際宗教研究所の竹内喜生氏は、論文(2017年)で、1951年に宗教法人法が成立した経緯について次のように説明しています。

宗教団体の宗教活動それ自体が公共の福祉の増進に貢献するという観点から宗教団体に法人格を付与するとする文部省の見解に対して、CIE(GHQの部局民間情報教育局)は、宗教団体の社会的地位は政府が決めるべきものでなく、またすべての宗教が必然的に公共の福祉に寄与していることも疑間であるとし、政教分離原則に照らせばこの法律の目的は、宗教団体が法的能力を獲得すること以外にないとした。

現代宗教 2017 「宗教法人の公益性」をめぐる研究の現状

宗教学者の大原康男氏も次のように言っています。

「(宗教)法人法は宗教法人それ自体の『公益性』を必ずしも前提としたものではなかった」

現代宗教 2017 「宗教法人の公益性」をめぐる研究の現状

文化庁宗務課の専門員もされていた、洗建氏(宗教学者、駒澤大学名誉教)も以下のように言っています。

宗教が有する独自の価値観を提示することが公益性であり、社会から要請される公益に資することは宗教の目的ではない。

現代宗教 2017 「宗教法人の公益性」をめぐる研究の現状

つまり、宗教法人法の目的は、「宗教団体に法律上の能力を与える」ことであり、宗教法人は「社会から要請される公益性を前提としていない」ということです。

また、2018年5月21日に行われた「第173回宗教法人審議会」の議事録を見ると、「公益性について議論」がされていて、以下の発言が宗教法人審議会の委員からありました。

何かしなければならないから宗教に公益性があるとなると、私たちはいつも追いまくられるわけですよね。ボランティア活動をする等、いろんな事業をする等、そうしないと公益性があると認められないとなると、本来の宗教の在り方そのものがむしろ損なわれていくのではないかなというおそれがある

第173回(平成30年5月21日)宗教法人審議会議事録

従って、文科省が家庭連合への解散命令請求であげた「宗教団体の公益性」「公益法人として法人格を付与された」とう事由が、そもそも妥当なのかとも言えます。

とはいうものの、宗教団体側がそれを主張するのはいかがなものか、ということもあるでしょうから、同時に、「宗教の公益性とは何か」「宗教の役割は何か」について議論し、知ってもらう努力も必要だと思います。

以上、私の方からまとめて発表させていただきました。

次は、宗教の役割や公益性とかについて、皆さまから意見を言っていただければと思います。

※ 次回は、この発表後、参加者間で行われた意見交換について書きます。

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