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風 大久保一久の優しい世界その5「デッキに佇む女」

港へ行くバスに偶然乗り合わせたあの娘と旅人。あの娘は傷心旅行で北へ向かうフェリーに乗るようです。同じくフェリーに乗るつもりだった旅人はその偶然に嬉しくなりました。もうしばらくあの娘と同じ時間と場所を共有できる事がわかったからです。

旅人のそんな想いを描いたのがアルバム「海風」の久保やんの名曲「デッキに佇む女」です。

「デッキに佇む女」

お聴きの通り、旅人が船内の窓ガラス越しに外を見ると、デッキに佇むあの娘の姿が目に止まった時の情景を描いた曲です。

「夏、過ぎた日を
思い出すようにして
乱れ髪もそのまま」

旅人はあの娘の様子からそんな感じの想像をしたのでしょうが、なかなか鋭いですね。あの娘にとっては「トパーズ色の街」や「あの娘の素顔」「おそかれはやかれ」の時の出来事を思い出しているのでしょう。

「小さな肩震わせて
寒さに堪えているなら
少しの言葉をかけてみる」

「そう、あの人は
行きずりの女なら
袖すり合うのもいい」

旅人はそんなことを思いながらも、窓ガラス越しに眺めているだけです。

「馬鹿げた思いはガラス越し」

こうしてみると、アルバム「海風」における久保やんの作品群は、ある一人の女性をいろんな視点から見た情景だと言えるかもしれませんね。

「トパーズ色の街」と「あの娘の素顔」は、海辺で出会った僕の視点。

「おそかれはやかれ」はあの娘自身の視点。

「防波堤」と「デッキに佇む女」は旅人の視点。

その視点の背後には、久保やんの優しい思いを感じることができます。これらの作品群は、一人の女性の成長物語とも言うべき情景を描き出しています。

さて、その後、旅人とあの娘はどうなったのでしょうか?
旅人は「馬鹿げた思い」を実行に移す事ができたのでしょうか?
それともガラス越しに眺めたままだったのでしょうか?

いずれにせよ、その後のあの娘の幸せを私は祈らずにはおれません。

大久保一久さん、たくさんの名曲をありがとうございました。

どうぞ安らかに。


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