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昭和ライダーエレジー

ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでいる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも
知れないと思えたあの日


※このお話は俺が高校生だった時、1977年
(昭和52年頃)の物語ですが、フィクションの為、登場する人物、団体等は実在するものと
一切関係ありません。

第一話

とにかく田舎は退屈である。
誰が何と言おうと退屈で退屈で仕方がない。
何故か?
ヒマだからである。
独断と偏見に満ち満ちている事は
重々承知をしているが、
あの一番良かったとされる高度経済成長期の
昭和の時代ですら田舎は退屈だった。

現代のように娯楽も多くなく、
TV放送も東京タワーの建設により
ようやく始まったが、TV1台の値段は
恐ろしいほどに高かった!
一般庶民がおいそれと手を出せる代物では
なく、お金持ちの家に見せてもらいに行く
というほどだった。
そんな昭和の時代に青春を田舎で
過ごしてきた筆者の思い出がどこまで
ご理解頂けるか分かりませんが、
独断と偏見と懺悔の物語、
お付き合いの程を宜しくお願い致します。

「ヒデミ、お前もうすぐ誕生日やろ?
当然行くんやろな?」
※注、筆者の出身は関西地方です。
ベッドの上に寝転びながらスナック菓子を
頬張っている俺、杉田健一が先ほどから
何やらチマチマと手を動かしている
中村秀実ことヒデミに声を掛けた。

「急にデカい声出すなや!見てみぃ、
ビックリしてセメダインがはみ出たがな!」
どうやらヒデミは四輪免許を取ったら
乗ってみたい!と言っていたマツダサバンナ
RX-3のプラモデルを作っているところだ。

「おいおい、揉め事やったら外でしいや!
ここでのルールが守られへんのやったら
出禁にするで!」
そう答えたのはこの部屋の家主である
平塚智之、通称トモだった。
ここはトモの家の離れの2階。
(1階は農機具などが置いてある)
親の目が届きにくいので当然の如く
皆の溜まり場となってしまう。

野郎ばっかりの集まりだよ。
話の中心と言えば
「◯◯高校の◯◯って娘がカワイイ!」とか
当時、一世を風靡したピンク・レディーなら
ミーちゃん派かケイちゃん派か、
どっちなんだい!論争があったり、
でなければ、バイクや車の話題になるのは
必然で、あのメーカーはどうだ?の
この車種はどうやねん?だの白熱の議論が
日夜繰り返されていた。

これは田舎では仕方のない事なのである。
田舎は都市部ほど交通インフラが普及して
ないのだ。
それはもう壊滅的と言っていい。
玄関先に時刻表が貼ってあり、その時間に
合わせて家を出るんだから!
だからバイクや車は生活必需品なんだね。
ちなみに筆者は初めて東京に出て来た時、
新宿駅でカルチャーショックを受けました。
だって山手線なんて1〜2分間隔に電車が
来るし、夜の0時過ぎても電車が動いてるし…
何やねん都会って!あな恐ろしや〜て思た。

話を元に戻そう。
「そんなン、あたり前田のクラッカーやで!
俺が君たちの先陣を切って取って来るわ!」
サバンナRX-3のプラモにデカールを
貼りながらヒデミは鼻息も荒く答える。
そういやヒデミん家は兼業農家で、
親父さんが大工のせいか昔から手先が
器用だったな。

俺たちはずっとつるんでいる仲間だ。
先ずは俺、杉田健一。スギケンと
呼ばれてる。
次は中村秀実、ヒデミ。
松田将司、マサやん。
肥田浩一、ヒーちゃん。
平塚智之、トモ。
山村一王、カズキン。
6人は小学校からの友達で、中学も同じ。
さすがに高校はバラバラになった。
要はオツム、学力の差だな!
まっ、誰がいい学校で誰がバカ学校かは
本人の名誉の為に伏せておくが、差はない。

「何を偉そうに言うてんねん!
所詮原付免許やんか、いっちゃん簡単な!」
1970〜80年代は二輪免許の区分が今とは
違っていて、原付、小型、中型、限定解除と分けられていた。
バイクも50ccとか125cc、250cc、400ccなど一応分かれてはいた。
しかし実際の排気量と実際に運転出来る
排気量とは違っていた。
例えばスーパーカブ50と謳っているけど、
実排気量は49ccだし、免許も49ccまでと
なっていた。小型124cc、中型399ccまで。
そしたら天下のホンダが俺たちを驚愕の
地獄に突き落としてくれたんだ!

そう!あの一世を風靡したヨンフォア、
地域によっては4in1(フォーインワン)とか
呼ばれたバイクだ!
外観等は全て同じ。
なのに排気量を二つのスペックで発表した。

398ccと……………408cc!!
何やねん!何してくれてんねん、ホンダ!
中免しかないのに408cc……欲しなるやろ!
買うてまうやろ!ほんで、捕まったら
無免許ですやん………。

何故こんなに熱くなるかって言うと、
当時は試験場(今は試験センターか)に
直接取りに行かなきゃならなかったんだ。
で、限定解除は中免を持ってないと
取れない仕組みにもなっていた。
俺のいた兵庫県は明石試験場だったんだけど
噂では「日本一厳しい試験場」だと……。
何せ事前審査、通称取り回しで脱落するヤツが続出したそうだ。
試験車両がスズキの誇る重戦車、
ウォーターバッファローの異名を持つ
GT750だった。
ただでさえ重いのに、これもあくまでも
噂だけど、ガソリンタンクにコンクリが
詰められていたとか………。
落とす為の試験と言われてたなぁ。
だから限定解除を持ってるだけで
尊敬の眼差しで見てしまったり、
ましてや一発合格の人なんて、そりゃあ
神様ですよ!天上人ですよ!
っていうぐらい今だにコンプレックスを
持っている私です。

                 つづく

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