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雨宿りのクロ 4

ボクが店内に住処を移してから数ヶ月。
よく観察していると、
ここ「こがねや」に来るお客さんの割合が、
普通に食べに来る人……20%
ボクが目当て(自慢げ)… 30%
残りの半分は圧倒的に京子おばちゃんに
相談にくるか愚痴を聞いてもらいたくて
やって来る。

初めはそんなにお節介な事はしてなかった
ようで、きっかけとなったのが
ボクが店内に引っ越してすぐの時だった。

座敷席の隅で目立たないようにしながら
香箱座りをしていたボクは、お昼ごはんに
来ていた近所のOLらしき二人が何故か気に
なったから、薄目を開けて様子を伺ってた。

「智子さぁ、あんまり気にする事ないよ。
別にあなたが悪いんじゃなく、お局様の
渡辺主任がちゃんと伝達してなくて、
あなたは言われた通りにやっただけで。
むしろ、その後のフォローやリカバーで
走り回ってたの、皆も知ってるよ」

「だけどね、加代。私がその場で確認さえ
していれば起きなかったミスなのよ」

「そうかも知れないけど……」

「ハイッ!ざると小天丼のセット、二つ
お待たせしました〜って何だい?
そんな暗い顔して。美人さんが台無しよ!」

「えぇ、この子仕事でミスをして落ち込んで
いるんです。でもそれはこの子のせいでは
なく、ある人の連絡ミスなんです。
智子は、あぁこの子の名前です、智子は
その後のフォローに一生懸命頑張ったのに
当の本人からあれこれ言われて…」

「もういいよ、加代。早く食べよ」

「そうかい、食べながらでいいから聞いて
ちょうだい。おばちゃんのお節介と思って。
すぐに終わるから。

あなたがどれだけ努力しても、
あなたの悪口を言う人は必ずいるのよ。
その事を理解していないとダメよ!

悪口を言われたら自分が悪いと思って、
悪口を言う人の意見ばかり気にしちゃう。
それって逆だと思わないかい?

自分を認めてくれたり、応援してくれる
人のために一生懸命になったほうが
頑張り甲斐があるんじゃないのかい?

おやおや、ゴメンね。
自慢の蕎麦が伸びちゃうね」

箸を止めて聞き入ってたOL二人組は

「ありがとうございます。すごく楽に
なりました。ホントにありがとうございます、おばさん!」

そう言って来た時よりも格段の笑顔で
お蕎麦を食べて帰って行った。

「母ちゃん、あの二人、晴れやかに
帰って行ったねぇ」

「うんうん、若いうちは何事も勉強だし、
特に女の子は笑顔でいなきゃね」

この時の事がきっかけだったみたいだ。
元々京子おばちゃんも相談に乗ったりする事は嫌いじゃなかったんだろうな。

その後、そのOL二人組がSNSで
「こがねや」を取り上げたものだから、
それを見た人達が大勢やってきたりしたために一時、このXX商店街界隈は
ちょっとしたお祭り騒ぎみたいになって
しまって大変だったんだ。
おまけにそれを聞きつけたタブロイド紙
だけど新聞の取材まで来ちゃって。
今はもう落ち着いてはいるけどね。

そりゃそうだよね!
相談や愚痴を聞いてくれて、そのうえ
アドバイスをくれる黒猫のいる蕎麦屋
なんて日本中探してもなかなか見つかる
ものではないよね!(自画自賛である!)

これからどんな人達が、
ここ「こがねや」にやって来るんだろう?

京子おばちゃんや洋子ちゃん、マー兄。
今後どれだけの人を笑顔にしていくんだろ?

ボクは母さんや兄弟達の事をずっと気には
しているからいつかは探しに出る時が来る
かも知れない。
でもその可能性は低いな。
今はこの優しい人達と一緒に暮らしたい。

そう心に決めた三年前のボクだった。
                                                                  つづく
 







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