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『歌われなかった海賊へ』を読みました。

逢坂冬馬さんの2作目、『歌われなかった海賊へ』を読んでの感想です。
前作『同志少女よ、敵を撃て』が私の人生一番といっても過言ではないほど引き込まれた作品だったため、次回作はいつかいつかと待ちわびていました。待望の2作目だ、わぁい!

『同志少女よ、敵を撃て』の感想はこちらにちらっと書いたのでよろしければお読みください。


※なるべくネタバレにならないように書いているので抽象的な文面になりがちです。ネタバレってどこまでが許容範囲なんだろう……。
若干のネタバレは含みますがオチには触れないようにしたつもりです。
『歌われなかった海賊へ』を一読された方が、「こういう感想持った奴もいるのか」程度に流し読みされるのが丁度いいかもしれません。


この物語本編の舞台は第二次世界大戦終戦間際のドイツです。
ですが、現代ドイツでの歴史の授業、というイントロダクションから始まります。
普段は「こういうのいいから早く本編~」というタイプなのですが、現代の社会問題(生成AIによるレポート作成、難民問題)にもさらりと触れている点が印象的でストレスフリーに読めました。このプロローグは本編にもエピローグにもしっかり関係しています。タイトル回収はもちろんされますし、エピローグプロローグ全てに無駄がない。一語一句どれも物語に必要な言葉なんです。
例えば、作中において、とある登場人物に関してやたら否定的な形容詞を多用しています。
読んでいて違和感を覚えるほどだったのですが、最後にその理由がストンと理解できました。違和感が強かった分、その後のすっきりとはまる感覚を
はっきりと味わえ、満足感もひとしおでした。

さて。歴史は主要5科目の中でも割と隅に追いやられがちな教科な気がしています。私自身、過去を振り返ったところで何の役に立つんだ、と言われたらうまく説得できません。
逢坂さんは、そんなややもすれば軽視されがちな歴史をイマに絡めて描写するのが上手い方なのではないでしょうか。


『歌われなかった海賊へ』では同性愛についての問題提起がなされていたように思います。
ドイツに限った話でもないのですが、ナチスドイツ体制下では同性愛者は犯罪者とされていました。逮捕されれば収容所で非人道的な扱いを受けるため、気軽に性的指向を口にすることはできません。

……じゃあ今はだいぶ生きやすい世界になったよね、平和になったね。

本当にそうなのでしょうか。

さすがに命の危険は無いにしろ、まだまだカミングアウトはしにくい社会であるように感じます。
主人公ヴェルナーは同年代の仲間に「同性愛者なのだ」と告げられ戸惑いを覚えました。同性に恋愛感情を抱く人がいる、ということをいくら知識として得ていても、異性愛者が同性愛者に実際出会ったとき、果たしてどういった反応をするのでしょうか。

「打ち明けてくれてありがとう」?
なんだか少数派への驕りを感じます。

「辛かったね」?
辛い異性愛もあれば幸せな同性愛もあるでしょう。

きっと、特段のリアクションはとらずに「そうなんだね」
程度の応答がベストなのではと思います。

ただ。「いくら知識として得ていても」という話です。
どことなく不自然な間が生まれることもあるでしょう。
この戸惑いがある以上は手放しに平和で多様性のある社会とは言えないな。

かたや戦下のドイツ、かたや平時の日本。
同列に比べられるものでもないのでしょうが、全くの他人事として捉えることもできませんでした。過去と現在を対比してみるのも必要なことですね。

前作でも思ったことですが、身近な問題に触れた物語展開になっているから、歴史物、戦争物なのにすんなり物語の世界にはいれました。また、歴史を勉強する大切さが、ぼんやりとながら分かってきた気がします。

言いたいことを充分に文章化できずもどかしい限りです。
もっと色々な本を読んで文章力を養いたい。

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