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ずっと覚えている話

昨日の話を書きながら、当時読んだ本のタイトルをもっと思い出そうとしていたのだが、今ひとつ出てこなかった。

で、こちらの記事を読んで記憶をよび起こされた。

そう、有吉佐和子である。

ただわたしが読んだのは「複合汚染」で、これは食品添加物や、残留農薬だのといった、今日まで続く環境問題を提起した、画期的な作品であった。
1975年刊行、わたしは文庫で読んだのだから、もう少し後、高校生になった頃だろうか。

これは小説であると作者本人は認識していたらしいし、元々は新聞小説として発表されたのだから、まぁやはり小説なのであろうが、その実、内容は創作ともルポルタージュともいえない奇妙な文章である。

冒頭しばらく、市川房江の選挙の話が出てくる。
有吉はその応援で選挙に関わっているのだが、市川を担ぎ出した若者が、彼女に雨の中で演説をさせたのを「風邪でも引いたらどうするの」と叱るのである。
この時叱られて不貞腐れていたのが、のちの菅直人だったりするのだが、この辺りの話はなかなか面白い。

ところがこのエピソード、途中でプッツリ途絶えて、確か選挙の結果すら最後まで出てこないのだ。
この辺り小説としての体を成していない所以である。

話は急に環境汚染にシフトしていき、どんどん勢いがつく。

いくつか印象的な話があって、例えば有吉が若い頃、花を送られて生けた際に、切り花を長持ちさせるという薬が添付されていたので、それを花瓶に入れた、というエピソードが出てくる。
薬の効果で確かに花は長持ちして萎れないのだが、それが常軌を逸していつまで経っても一向変化がないというのだ。
あまりに枯れないので最後は薄気味悪くなってしまい、捨ててしまおうと決心したら、すでに花はドライフラワーと化していて、有吉の手の中で粉々になったというのである。

これなど冷静に考えるとちょっと眉唾な話なのだが、45年たってもまだ覚えているのだから、作者の筆力は相当なものだったのではないかと思う。

そんなわけで、数々の不穏な情報を提示するだけ提示して、作品は終わるのだが、当時の日本人にはかなりのインパクトで、大ベストセラーとなった。

我々の世代で有吉佐和子といえば、「笑っていいとも!」のテレホンショッキングのコーナーに居座った変なおばさん、なのだが、確かな才能のある人であった。

多分双極性障害的なものを持っていたのではないかと思う、それがあの奇天烈な小説の誕生にも、一枚噛んでいたのではあるまいか。

もう少し小説としての体裁の整っている「華岡青洲の妻」は、一度読んでみたいと思いながら、まだ果たしていない。


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