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抗えぬ境遇の果て。映画『市子』鑑賞

やっと鑑賞できた。スクリーンで。
『市子』である。
昨年暮れから気になる映画ではあった。
かなり重い内容だろうと覚悟し、鑑賞。


この映画を簡単に要約すると、訳あって戸籍を持たない市子が不条理な生活に限界を感じ、人を何人も殺めてしまう、といえば連続殺人を犯す女性の話、なのかもしれない。
しかしそれがこの映画の肝ではない。
主人公の市子が抱えている問題は現実社会で既に起こっているであろう、全く私達とは切り離された別の社会ではない、ノンフィクションに近い物語なのである。

人を殺める、という行動は決して肯定出来るものではないが、私は市子という女性に対して共感は出来る。

母親は異性にだらしない。頼る大人は間近にいない。生活は苦しい。難病の妹を介護するのは市子しかいない。
限界を感じる市子。ふと市子の心に悪魔が降りてくる。仕事から帰ってきた母は言う。
「市子、ありがとう」
殺めてしまった妹になりすまし生きていく市子。

嘘で嘘を固めるしかない人生。
もし私が市子だったら。
そう考えずにはいられなかった。
一体何が出来よう。


抗えない境遇に対し苦しむだけではやっていけない。市子は生きる。結果犯罪を繰り返す。
クラスの友だちのようにただ、平凡に、幸せになりたかっただろう。
初めて心を通わし、愛した長谷川だけは自分の人生の巻き添えにしたくなかったのかもしれない。
だから失踪するしかなかった。

戸籍を持たない市子。
そのために世間から簡単に逃れるができたののかもしれない。
しかし、”幸せ”からも簡単に遠のいてしまった。


演じるのは杉咲花ちゃん。私が“ちゃん”づけするのは子役時代から背も小さくて笑顔が柔らかい、よく笑う女優さんだからだ。
しかし花ちゃんはいろんな作品に出る度にあまりに一途な表情で観客の目が釘付けになってしまう、稀有な女優さんでもある。
このところ『法廷遊戯』の恐ろしい程の発狂シーンや『52ヘルツのクジラたち』の痛々しく泣きじゃくるシーンなどこちらが観ていて胸が苦しい作品が多かった。
そして『市子』。息絶える妹を見つめる瞳の深く暗い空虚さ。


これからドラマ、映画と主演作が続々と目白押しだ。また”花晴れ”や”恋です!”のような気が強いけれども笑うとふにゃ~となる花ちゃんが観たい。そしてこちらの心もふにゃ~と安心させてほしい。
そして憑依型なので舞台上の芝居が引き立つはずだ。

あまりに巧い役者さんだから。








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